スズキ・スイフト1.2XG(FF/CVT)【ブリーフテスト】
スズキ・スイフト1.2XG(FF/CVT) 2007.07.28 試乗記 ……119万7000円総合評価……★★★★
スズキの世界戦略モデル「スイフト」のマイナーチェンジで追加された、新1.2リッターエンジン+CVTモデルに試乗。文句ない変更と思われたが、リポーターには残念なことがあるという。
一歩前へ
ヨーロッパのコンパクトカーに負けない走行性能の高さで好感を抱かせた「スズキ・スイフト」は、マイナーチェンジもまた好感の持てる内容だった。
ボディはバンパーのデザイン変更で全長が少し長くなったぐらい。インパネまわりは表面の仕上げを上質にしたのが目立つ点で、どちらも依然としてシンプル&クリーン。きらびやかに見せようなんて、これっぽっちも考えてないところがすがすがしい。
そしてメカニズムは、売れ筋の「1.3リッター+4段AT」に代えて、新開発の「1.2リッター+CVT」を投入してきた。車両重量は少し軽くなり、1トンちょうど。ダウンサイジングである。カタログ燃費は当然よくなり、重量税も安くなった。加速が鈍った感触はなく、車体の軽さは走りの楽しさをさらにアップさせていた。
文句なしのマイナーチェンジ、といいたいところだが、コンパクトカー暮らしが長かった自分にとってはひとつだけ、残念な変更があった。それは、荷室。ここが旧型のままだったらほぼ満点なのに。世の中、なかなか自分の思いどおりにはコトが進まないことを思い知らされた。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
軽自動車「Kei」をベースにした、1.3リッター直4エンジン搭載の小型乗用車として2000年1月に誕生したのが「スイフト」。欧州ではWRCのエントリークラスJWRCに「イグニス」として参戦するなど、スズキのグローバル戦略を担った。
2004年11月にモデルチェンジされ、ブラットフォームを一新。1.3リッター(91ps、12.0kgm)、に加え1.5リッターエンジン(110ps、14.6kgm)がラインナップされ、本格的な世界戦略車となった。
2007年5月にマイナーチェンジを受け、新開発の1.2リッターエンジンの採用や、上級モデルの追加などが行われた。
新エンジンは90psと12.0kgmを発生し、「従来の1.3リッターと同等」と主張される。環境性能に優れるうえ、CVTを組み合わせることで、カタログ燃費は、20.5km/リッターになった。
なお、4WDやMTモデルでは1.3リッターエンジンがキャリーオーバーされる。1.5リッターモデルにスペックの変更はない。
また、女性をターゲットとした「スイフトスタイル」も登場。1.2リッターFFと1.3リッター4WDの「スイフト」に、上質な装備を施したモデル。
(グレード概要)
グレードは、下から「XE」(1.2リッター)、「XG」(1.2、1.3リッター)、「XS」(1.5リッター)、「スタイル」(1.2、1.3リッター)をラインナップ。
テスト車1.2XGは、1.2リッター+CVTのベーシックモデル。同じ組み合わせの「XE」との違いは、フルオートエアコン、CDプレーヤー、キーレススタートシステム、電動格納式リモコンドアミラーなどが標準装備となること。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
奇をてらわぬ水平基調で、センターパネルが仰々しく広がったりもしていない、実に機能主義的で好ましいインパネの造形は、そのまま受け継がれた。そのうえで、トリム表面の仕上げを変えたおかげで、見た目の質感は向上している。そういえばオーディオのボリュームダイヤルなど、小さなスイッチのタッチも、このクラスの国産車としては高級感がある。
(前席)……★★★★★
サイズや厚みはたっぷりしていて、座面の硬さ、背もたれの張りともに絶妙。しかも腰のあたりを中心にジワッとホールドしてくれて、スポーツグレードではないコンパクトカーにふさわしいサポート性能を発揮してくれる。ヨーロッパをはじめ、世界各地で生産・販売されるグローバルカーという背景が、真剣な作りにつながっているのだろう。フロントウインドーやAピラーが立ちぎみで、小柄なボディにもかかわらず顔まわりの圧迫感がないのもうれしい。
(後席)……★★★
折り畳みは背もたれだけとして座面を固定し、座り心地を向上させたというのがメーカーの説明。たしかに着座感はソフトで心地いいが、旧型が不満というわけではなかった。スペースはいままでどおりで、太いCピラーのために囲まれ感はあるが、水平にリアまで伸びたルーフのおかげで頭上空間は身長170cmの自分でも不満はなく、ひざの前は10cmほどの空間が残る。中央席にヘッドレストがなく、ベルトも2点式のままなのは、後席シートベルトの義務化が決まったことを考えると不満。乗り心地は前席に比べると、上下左右に揺らされる傾向が大きくなる。
(荷室)……★★
旧型スイフトの後席は、背もたれを前に倒したあと全体を前に跳ね上げる折り畳み方法だった。おかげで畳むと低いフロアが出現し、背の高い荷物も楽に収納できた。ところが新型は背もたれを倒すだけにとどめ、それに合わせてラゲッジのフロアも高くなった。つまり収容能力はかなり低下した。改悪である。上げ底のフロアは下に収納スペースを備え、フロアパネルは折り畳みや取り外し可能だが、こういうものはアフターパーツとして用意すればいいのではないか。他の部分がすばらしいクルマだけに、とても残念である。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
1〜2名乗車で乗る限り、加速は不満なし。CVTは発進時にやや唐突に飛び出す感触があるが、その後はとにかくスムーズで、エンジンの回転だけが跳ね上がるような悪癖も抑えられている。サウンドは小排気量らしい、モーターのようになめらかな音色を基本に、4000回転あたりで繊細な排気音を加え、レッドゾーン近くまでストレスなく吹け上がっていく。なかなか心地いい。気になるのは、エアコンのコンプレッサーが作動するときなどのショックがダイレクトなこと。このあたりだけは軽自動車っぽい。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★★
ストローク感のある、しなやかな乗り心地は日本車らしからぬフィーリング。多くの国産車が不得意とする鋭い突起や段差も、振動として伝えはするものの、上下動はたくみに吸収する。シャシーの懐の深さを実感する。国産コンパクトカーの水準を超越した、どっしりした直進安定性にも非凡さを感じる。ハンドリングは軽快。とりわけノーズの軽さは目が覚めるほどで、最初はステアリングを切りすぎてしまうほど。「ロータス・エリーゼ」みたいだ。その後はよく動くサスペンションが4輪をしっとり接地させるので、パワーやトルクが限られていることもあり、安定しきったままコーナーを脱出できる。個人的には「スイフト・スポーツ」より楽しいと思う。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2007年6月12日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2007年型
テスト車の走行距離:1360km
タイヤ:(前)185/60R15 84H(後)同じ
オプション装備:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(7)
テスト距離:358.4km
使用燃料:31.0リッター
参考燃費:11.5km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車は「シトロエンGS」と「ルノー・アヴァンタイム」。