トヨタ・プレミオ 1.8X“Lパッケージ”(FF/CVT)/アリオン A15“Gパッケージ”(FF/CVT)【試乗記】
地域密着型セダン 2007.06.26 試乗記 トヨタ・プレミオ 1.8X“Lパッケージ”(FF/CVT)/アリオン A15“Gパッケージ”(FF/CVT)……241万800円/223万2300円
トヨタのミディアムセダン「プレミオ/アリオン」がフルモデルチェンジし2代目となった。2つの顔をもつ新型セダンに試乗した。
フルモデルチェンジだけど
新型「トヨタ・プレミオ/アリオン」は、同じトヨタ製セダンでも、たとえば「レクサスLS」や「トヨタ・プリウス」とは、あきらかに立ち位置が違う。世界の自動車のメインストリームから離れたところを、マイペースで走る乗り物だ。地域密着型セダンといっていいかもしれない。北米専用のフルサイズセダン、たとえば「マーキュリー・グランドマーキー」あたりに近いものを感じる。
プレミオ/アリオンとしては2代目となる新型は、6年ぶりのモデルチェンジだが、今回も5ナンバーサイズにこだわった。プラットフォームはキャリーオーバーである。つまり同じプラットフォームを10年以上使うらしい。この時点で世界の流れとはちょっと違う。そのためホイールベースはもとより、全長、全幅も旧型と共通で、全高だけ5mm高くなったにすぎない。
エクステリアはプレミオがフォーマル、アリオンがスポーティと、同じ骨格を用いながら車名によって前後まわりが大きく違う。2つの顔を持つという点では、新型「メルセデス・ベンツCクラス」に通じる。顧客の平均年齢上昇に悩むセダンが考えることは、洋の東西を問わず同じ、ということだろうか。
パーソナルカーらしさが欲しい
インテリアデザインは、国産セダンとしてはけっこうガンバッタと思う。とくにひねりを入れたドアグリップは、美しさと使いやすさを両立したグッドデザインだ。残念なのはプレミオとアリオンで、外観のような差別化がまったくないこと。クオリティもイマイチで、とくに今回初採用のつや消し木目調パネルは、ひと目で木目調とわかってしまう。
もうひとつ、前席の居住性に疑問を持った。後席はいい。身長170cmの僕が前後に座った場合、ひざ前の余裕は20cmもある。しかも背もたれはリクライニング可能で、座面に角度がついているので、倒しても腰が前にずれることはなく、リラックスポジションがとれる。
ところが前席は、座り心地には不満ないが、座面が高めで、ステアリングは低く、ウインドスクリーンやルーフが頭にせまり、圧迫感がある。
いまどきセダンに後席の広さを求める人が、どのぐらいいるのだろう。そういう人はストレートにミニバンに行くのでは? セダンにはセダンのよさがある。前席を低く後方にセットして広がり感を持たせ、そのぶん後席の足元が少し狭くなっても、そのほうがセダンらしい囲まれ感、パーソナルカーらしさがあっていいと思う人が多いのではないだろうか。
という感想を開発スタッフに投げかけたら、「プラットフォームが共用なのでシート位置を動かせなかった」という答えが返ってきた。
制約の多さが目立つ
エンジンは、1.5リッターと1.8リッターがある。1.8は先代にも用意されたが、新型ではカローラで初採用された新しい1.8になった。秋には、やはり新開発の2リッターが加わるという。
今回はアリオンA15とプレミオ1.8Xに乗った。
このエンジンを含め、パワートレインやシャシーに車名による違いはまったくない。加速は1.5リッターでもじゅうぶん。それなりにアクセルを踏み、エンジンを回すことになるが、従来のトヨタ車と比べるとCVTのマナーが格段によくなったこともあり、不満はない。1.8リッターなら余裕がプラスされる。どちらもクルージングは静かでなめらかだが、回して楽しむ性格ではなかった。
アリオンA15の乗り心地は、ツンツンした細かい入力が目立つ。対するプレミオ1.8Xはブワブワ。マイルドではあるけれど、凹凸を通過したあとにタイヤの揺れが残りがちだ。両者ともいま一歩の洗練がほしい。高速での直進安定性はほどほどだ。ハンドリングに気になるような欠点はなく、とくにアリオンの素直な身のこなしは好印象だった。
「5ナンバーセダンの完成形」と謳うわりには、見ても乗っても制約の多さが伝わってくるモデルチェンジだった。これより価格や車格が下でも、仕上げが上質で乗り心地がいいクルマはある。
同じトヨタのカローラもそのひとつ。少なくともカローラのほうが、はるかに入魂している。でも旧型ユーザーは基本が不変であることに安心して、この新型に買い換えるのだろう。相も変わらずマイペースな地域密着型セダンだった。
(文=森口将之/写真=高橋信宏)
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森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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