第89回:“奇跡の山”、高尾山に迫る危機
その1:日本の植物の3割が集まる山(矢貫隆)
2007.04.26
クルマで登山
第89回:“奇跡の山”、高尾山に迫る危機その1:日本の植物の3割が集まる山
高尾山は『すごい山』
「クルマで登山、いよいよ最終回ですよ」
打ち切りか?
「はい」
予算の都合?
「諸事情です」
「最後ですから、最後を飾るような『すごい山』に登りたいと思うんですが」
そやな。
というような会議の結果、選んだのは東京の高尾山。都心から1時間足らずの距離にあり、年間400万人もの人がハイキングに訪れる山。標高わずか599メートルの高尾山である。
「『すごい』というイメージじゃないんですけど……」
高尾山を知らないからそんなことを言う。
高尾山は「奇跡の山」なのだ。
多くの人は知らずに登っているようだが、実は高尾山は植生が豊富で、今も1300を超える種類の植物が分布している。
これは驚くべき数と言っていい。なにしろ北海道から沖縄まで日本全土に生育している植物は約5300種類だから、その3割ほどが、わずか高さ600メートルの山に集まっているということになるのである。
日本の昆虫の三大生息地
外国と比較してみると、高尾山のすごさがよくわかると思う。
たとえばイギリスだ。
氷河時代に国土の大半が氷河に覆われ、多くの植物が死滅してしまったイギリスでは、国土全体で1400種の植物しか分布していない。
つまり、小さな高尾山には、イギリス中の植物をぜんぶ合わせたのとほぼ同数の種類の植物が生育しているのである。
「それは確かにすごいですね」
植生が豊かだから、当然の結果として生き物たちも数多く生息している。
確認されているだけでも137種類の野鳥がいて、日本全国で確認されているのが550種類だから、いかに多くがこの山に集まっているのかがわかるだろう。
さらに驚くのは昆虫の種類の多さだ。大阪の箕面山、京都の貴船山と並んで日本の昆虫の三大生息地であり、その数は約5000種。
「世界遺産みたいじゃないですか」
まさに。
世界遺産を推薦する日本の委員会で高尾山の名が実際に挙がったことがある。
(つづく)
(文=矢貫隆)

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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