シトロエンC3プルリエル(2ペダル5MT)【海外試乗記】
フランス語で「複数形」 2003.06.28 試乗記 シトロエンC3プルリエル(2ペダル5MT) クローズドからフルオープンへは約5分。15以上の手順を必要とするが、「その作業が楽しい」と自動車ジャーナリストの森口将之はいう。スペインはマラガで、シトロエンC3のオープンモデルに乗った。一歩先を
PSA(プジョー・シトロエングループ)が急成長を続けている。昨2002年の全世界での販売台数は約326万台で、前年より4.3%も増えた。その原動力となったのがシトロエンだ。このブランドは約131万台を売り、前01年に比べて6.4%もアップしたのである。
そのシトロエンが、昨年から今年にかけて、欧州で「Bセグメント」と呼ばれるコンパクトカーのラインナップを一新した。今までの「サクソ」に代わって、5ドアの「C3」と3ドアの「C2」、3ドアオープンの「C3プルリエル」の3車種でこのカテゴリーに挑もうとしている。
欧州メーカーがこのクラスに2つのモデルを用意するのは、実は一般的である。たとえばルノーは「トゥインゴ」と「ルーテシア」、フォルクスワーゲンは「ルポ」と「ポロ」を販売している。しかしシトロエンが違うのは、「C2」「C3」に加え、「C3プルリエル」というオープンモデルを用意した点だろう。同じPSAのプジョーが「206CC」を用意している状況と似ている。
現在、このクラスにオープンカーを用意するのはヨーロッパの流行になりつつあり、その火付け役がPSAだ。プロトタイプが発表されたのは「206CC」が1998年、「C3プルリエル」が99年なのだから、完全にライバル他社の一歩先を走っている。
変える楽しみ
「C3プルリエル」と「206CC」はクラスは同じだが、オープン化の手法はまったく違う。「206CC」は電動開閉式メタルルーフという、先進的な機構を採用している。一方、「C3プルリエル」は、キャンバストップを開けたあと、リアウインドーごとラゲッジスペース下に収納し、その後ルーフ左右のアーチを取り外してフルオープンにする。リアシートを畳めば、オープンのピックアップにもなるのだ。
試乗の舞台は、ピカソ生誕の地として知られるスペイン南部の港町で、近年はリゾート地としても脚光を浴びているマラガ。
「C3プルリエル」は1.4リッターと1.6リッターの2種類のガソリンエンジンが用意される。今回主に試乗したのは「センソドライブ」と呼ばれる、2ペダル5段MTを組み合わせた1.6リッターのほうだ。
まずはクルマをフルオープンの状態に仕立てるが、ざっと数えただけでも15以上の手順を必要とし、所要時間は約5分に達する。電動なのはキャンバストップだけで、あとはすべて人の手に頼るからだ。
「遅すぎる」と思う人もいるだろうが、僕はむしろ、自分でボディの形を変えていくことに“楽しみ”が感じられた。ただ、アーチの部分は車内に格納できないから、ふだんはキャンバストップやリアウインドーだけを開け、リゾート地を散歩するときなどにフルオープンにするという使い方が正しいのだろう。
いままでのカブリオレと違う
インパネはセダンの「C3」と共通だが、ドアトリムやフロントシート背後にボディ同色のパネルを配するなどして、遊び心を演出している。うまい仕立て方だ。リアシートはやや狭くなるが、それでも大人が2人楽に過ごせるスペースをもっている。
ボディは同じエンジンを積む「C3」より100kg近く重いのだが、加速性能に不満はない。サイドウインドウを上げておけば、風の巻き込みはほどほどに抑えられる。フルオープンでのボディの剛性感は、さすがにセダンほどではなく、スペインの荒れた舗装路ではワナワナするが、アーチやリアウインドーを付ければセダンとの差は縮まる。
一方で乗り心地は、重量増もあってか、初期の「C3」より細かい上下動が抑えられ、しっとり感が強調されている。ボディの緩さのせいもあろうが、シャシーも熟成されているようだ。
「C3プルリエル」のボディは、セダンの「C3」よりもリア側が重くなっているようだ。それを実感するのがハンドリングで、相対的にノーズの重さが薄れている。オープンエアの気持ちよさのおかげもあって、「C3」よりかなりスポーティなクルマという印象を受けた。背が高いわりにはロールが抑えられている。安心してペースを上げられるのは通常のC3と同じだ。
日本への導入は今秋で、価格は「206CC」より下に設定したいという。シチュエーションに合わせていろいろなボディを選べる「C3プルリエル」は、フランス語で 「複数形」という車名が示すとおり、いままでのカブリオレにはない楽しさをいくつも備えた乗り物だった。
(文=森口将之/写真=シトロエンジャポン/2003年6月)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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