サーブ9-3スポーツエステート アーク(FF/5AT)/エアロ(FF/5AT)【試乗記】
都会派のワゴン 2005.12.01 試乗記 サーブ9-3スポーツエステート アーク(FF/5AT)/エアロ(FF/5AT) ……428万円/550万6500円 サーブのミドルクラス「9-3」シリーズにスポーティなワゴン「9-3 スポーツエステート」が登場。エレガントな「アーク」とトップグレードの「エアロ」に試乗した。GM内の知性派
ボストンを舞台に、男の情感溢れるミステリー小説の世界を生みだしているロバート・B・パーカーは、彼が師と仰ぐレイモンド・チャンドラーと同様に、クルマの使い方がすごくうまい。小説という架空世界が動くとき、まさにその世界にぴったりのクルマが引っぱり出される。その彼の作品の中で、意外と多く使われているクルマがスバルとサーブだ。考えてみるとよくわかる。東部エスタブリッシュメントの象徴のような都市、ボストンや、アメリカの知性が集まったケンブリッジ・エリアに、イメージの上でスバルやサーブは似合っている。いや実際でも、この二つのブランド、それにボルボがこの地帯では目につく。
考えてみればスバルもサーブもともに航空機メーカーから生まれ、それを誇るかのような個性的な技術を守り通していることでイメージが確立された企業であり、厳しい東部の冬の気候に合うだけでなく、その企業姿勢がインテリに支持されてきた。
だからGMがサーブを傘下に収めた後も、何よりも重視したのはこの個性的で知性的なイメージを守り通すことだった。ヨーロッパGMの一員としてオペルと同じプラットフォームを使いながらも、何とかそのプレミアム・イメージを表現しようと懸命になっているのが、現在のサーブである。
新しい9-3スポーツエステートの意味や価値もそこにある。
セダンと決別したルック
9-3は、イプシロン・アーキテクチュアと呼称されるGMの中型前輪駆動用プラットフォームの上に成り立ったサーブである。ドイツでは「オペル・ベクトラ/シグナム」、アメリカでは「シボレー・マリブ」や「サターン・オーラ」「キャデラックBLS」など、今のGMファミリーの主力が使っている代表的な最新プラットフォームである。
その9-3につい最近加えられたのがこのワゴン版。前々回、2001年の東京ショーに展示されたスポーツワゴンともいうべきコンセプトカー「9x」のモチーフを、9-3の上で実現させたような新しいルックを持つ。ベースのセダンとは思い切って決別して、後方に切れ上がったショルダーラインとこれに呼応して下がってくるルーフによって、薄く鋭いサイドウィンドウがクーペにも似た独特のラインを形成する。その後端にシャープで真っ白なテールランプを配置することで、ベースのセダンとはまったく違うばかりか、サーブの戦闘機を思わせるようなスポーティなイメージが演出される。だからこそ日本ではあえて“スポーツエステート”と、普通のワゴンとは違ったクルマを標榜するネーミングが与えられている。
拡大 |
拡大 |
経験を積んだ低圧ターボ
日本でのバリエーションは4仕様、4エンジン。リニアとアークは2リッターの4気筒ツインカムに低圧ターボで150psと175ps、ベクターは通常のターボによる209ps、そして最上級のエアロは2.8のV6にターボを組んだ250psと、セダンと変わらぬライナップが日本でも揃う。
この日は主に中間的なアークに乗ったが、基本的な印象は記憶にある9-3セダンと変わらなかった。剛性高いしっかりしたボディと、手慣れた低圧ターボの組み合わせで、オペル・ベクトラとは違った独特のスポーティな感覚を与える。このエンジンの魅力は低圧ターボにあり、ラグをほとんど感じさせず、2000rpmぐらいの常用域から即座にトルクをピックアップできる。「やはりサーブはターボがうまいですね」試乗会でスウェーデンから来ていたエンジニアに語ったら「35年以上の経験がありますからね」と誇っていた。
もう一つ感心したのは、荷重変動を予定して、セダンに比べて後ろのバネレート、ダンパー減衰力が多少上げられているにもかかわらず、予想以上に乗りごこちがいいことだった。後ろからの音の侵入も少ないし、鋭い段差での突き上げもうまく吸収されている。この点では普段乗っている「ボルボV50」よりもいいようにさえ思えた。一方で、代々のFWDサーブの特徴たるトルクステアは相変わらずこのアークでもかなり感じられる。もちろん最上級のエアロはかなり激しい。でもこのエアロに使われているGM製2.8リッターV6、かなり緻密でデキのいいエンジンだと感じた。聞けば燃焼理論で有名なスペシャリストとの共同開発という。
拡大 |
拡大 |
丁寧な作りのラゲッジルーム
室内は、これまた最近のサーブの特徴で、切り立ったようなダッシュボードと、高めのショルダーラインのために周囲を囲まれたような着座感覚が特徴である。細部に北欧的なデザインセンスも見いだされるが、特にブラック系統のクルマは、全体的にエレガンスよりもスポーティさを狙った演出で、昔よりも大分男性的になった。
荷室には感心した。広さはこのクラスとしては標準だが、細かいところまで丁寧に考えられているし、その作りもいい。凝った作りの荷室という点では、上級の9-5エステートが高い評価を得ているが、その多くのアイディアが9-3にも下りてきている。
スウェーデンでは昔と同じ“コンビ”の名前が使われ、スペインでは“スポーツハッチ”として売られるというこの9-3のワゴン版、実際に見ても乗ってもスポーツエステートというのは、そのイメージを正しく伝えるいいネーミングだと思った。これならボストンだけでなく、東京都心でも似合うはずだ。
(文=webCG大川悠/写真=河野敦樹/2005年12月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
-
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】 2026.6.2 かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
NEW
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か 『シラート』
2026.6.4読んでますカー、観てますカー失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.4あの多田哲哉の自動車放談ひさびさに日本市場に戻ってきた、ホンダを代表するSUV「CR-V」。最新世代の仕上がりを、トヨタの車両開発者だった多田哲哉さんはどう評価する? まずは、ワインディングロードを走らせた第一印象から。 -
NEW
第964回:フィアットグッズのコレクターから学ぶ人生訓
2026.6.4マッキナ あらモーダ!イタリア在住の大矢アキオが、トリノで著名なフィアットグッズのコレクターを取材。若き日の苦労を経て大成した人物が語る、人生で大切なものとは? フィアットやイタリアの歴史を物語る、貴重なコレクションの数々とともに紹介する。 -
NEW
気づけばすでに4モデル スバルのBEV戦略と水平対向エンジンの未来を考える
2026.6.4デイリーコラム「ソルテラ」に続き、「トレイルシーカー」「アンチャーテッド」「ゲッタウェイ」と、いつの間にか4モデルが顔をそろえたスバルのBEV。伝統的な水平対向エンジンやシンメトリカルAWDはこの先どうなるのか? スバルの未来戦略を探る。 -
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。
















