サーブ9-3スポーツエステート エアロ(FF/6AT)【試乗記】
ビッグマイナーチェンジ!? 2008.03.07 試乗記 サーブ9-3スポーツエステート エアロ(FF/6AT)……615万9000円
フロントマスクが大胆で力強い印象になった新型「サーブ9-3」。スポーツサスペンション搭載のトップグレード「エアロ」で乗り心地を試す。
すっかり変わりました!
こう見えて、「9-3」のリニューアルはフルモデルチェンジではない。実際はビッグマイナーチェンジなのだが、フルモデルチェンジに迫るほどエクステリアは一新されている。そんなニュー9-3を日本で試す時がきた。
ニューモデルは2007年10月の東京モーターショーですでに御披露目が済んでいるが、まずは日本でのラインナップをおさらいしておこう。ボディタイプは従来どおり、「スポーツセダン」「スポーツエステート」「カブリオレ」の3タイプ。これにエンジンや装備が異なる3つのグレード「リニア」「ベクター」「エアロ」が用意される(ただし、カブリオレはベクターのみ)。
エントリーモデルのリニアは175psの2リッター直4ターボを搭載。スポーティなベクターでは、同じ2リッターターボでも209psのハイチューン版がおごられる。ふたつのエンジンは旧型と変わらぬスペックで、組み合わされるのも5段ATと従来どおり。一方、トップレンジのエアロには、旧型に比べて5psアップ、255psの2.8リッターV6ターボが与えられる。ATは引き続き6段である。
オートマチックに関して、今回のマイナーチェンジで加わった機能がスポーツモードだ。センタークラスターにあるSのボタンを押してスポーツモードをオンにすると、アクセルペダルから急に足を離してもギアをホールドしたままにし、ブレーキの際に早めにシフトダウンするなど、通常のDレンジとは別の振る舞いをするというものだ。
ステアリングシフトが付くのはベクターとエアロ。駆動方式は全車FFを採用。右ハンドルが標準で、エアロのみ左ハンドルを選ぶこともできる(ただし受注発注)。
フロントマスクは精悍すぎるほど!?
試乗したのはシリーズ中もっとも派手な(!?)「9-3スポーツエステート エアロ」。大胆に手が加えられたフロントマスクは、サーブのアイデンティティである“スリーホールグリル”が拡大されるとともに、LEDのポジションランプが組み込まれた切れ長のヘッドランプ、そしてエアロではエアインテークが強調されるデザインのバンパーなどが、精悍な表情をつくり上げている。比較的穏やかなデザインの旧型とは、まるで印象が違う。
さらに新型では、フードの切れ込みがフロントフェンダー上部にある“クラムシェル”タイプとなった。これもサーブ伝統のデザインである。このほかにもドアハンドル(カブリオレを除く)の形状変更やサイドモールの廃止など、マイナーチェンジ前と変わったところは挙げるときりがない。
一方の室内は、モデルチェンジ直前の年次変更でリニューアルが図られているので、今回大きな変更はなし。それでもワンセグ対応HDDナビがエアロとベクターに標準になったのはうれしい点。マットブラックのインパネは派手さこそないが、シンプルで新鮮。エアベントのツマミのデザインや、夜間、速度計以外の照明をオフにする“ナイトパネル”など、サーブらしい演出はもちろん健在だ。
ほどよい刺激
そしてこちらもサーブの伝統、センターコンソールに配置されたキーシリンダーに挿したイグニッションキーを捻ってエンジンを始動すると、アイドリングでも低く太い排気音が鼓膜を振るわす。
さっそくクルマを動かすと、さすが2.8リッターV6を積むエアロ、低回転から穏やかに利くターボも味方してトルクは充実。1650kgと、決して軽くない車重が気にならないほどの余裕を見せる。スペックを見ると1800rpmで最大トルクの35.7kgmを発揮するはずだが、体感上は3000rpmを超えたあたりで一段と力が増す印象だ。
ステアリングシフトを操作して高回転まで引っ張ってみると、もちろん力強さは感じるものの、勢いづく印象はない。がむしゃらに飛ばすというよりは、肩の力を抜いて強力な中低速トルクを楽しむというのが、このクルマにはお似合いのようだ。ちなみに、ステアリングシフトはシフトレバーをMのポジションに入れないと使えないのが不便に思えた。
![]() |
オン・ザ・レールの気持ちよさ
パワーに見合うよう、ややハードな味付けのスポーツサスペンションに225/45R18のタイヤが装着されたエアロは、案の定、乗り心地はやや硬めで、舗装が悪いところではリアタイヤが多少バタつくこともあったが、幸いガマンを強いられるほど辛いものではない。
ドライバーを楽しませてくれるのがそのハンドリング。“ReAxs”と名づけられたリアサスペンションのパッシブステア機構を持つ9-3は、中高速コーナーではまさにオン・ザ・レールの感覚で、ほかでは体験できないニュートラルなハンドリングがドライバーを虜にする。
![]() |
9-3スポーツエステート エアロを試乗した後、短時間ではあるが9-3スポーツセダン ベクターを試すことができた。V6ターボから乗り換えると力強さは見劣りするとはいえ、ベクターの2リッターターボも十分パワフルで、なによりサスペンションがしなやかなのがいい。私なら迷わずベクターを選ぶだろう。
それはさておき、比較的地味な存在ながら、余裕あるエンジン性能と気持ちのいい走りを秘めていた9-3。その中身にふさわしいスポーティなエクステリアを手に入れたのが新型といえるのではないか。手頃なサイズということもあり、憎からず思えるクルマである。
(文=生方聡/写真=郡大二郎)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。