クライスラー・クロスファイア(6MT/5AT)【海外試乗記】
史上もっとも日本人向け 2003.04.02 試乗記 クライスラー・クロスファイア(6MT/5AT) クライスラーのニューモデル「クロスファイア」は、メルセデスベンツのコンポーネントを39%使い、ドイツで生産される欧米合作モデル。自動車ジャーナリストの森口将之が、カリフォルニア州サンディエゴで開かれた国際プレス試乗会に参加した。ドイツ生まれのアメリカ車
クライスラー「クロスファイア」は、ダイムラークライスラーのプラットフォーム共用プロジェクト第一弾である。具体的には、メルセデスベンツ「SLK」のシャシーやエンジンと、クライスラーデザインのボディを組み合わせたクルマだ。それをアピールするかのように、メーカーが掲げたコンセプトは「ルート66とアウトバーンが出会う」となっている。メルセデス側が開発した部品の割合は、実に全体の39%を占めるという。
クロスファイアは、2001年のデトロイトショーでコンセプトカーとしてデビューしたが、このときはまだメルセデスのコンポーネンツを用いるというアナウンスがなかった。翌年のロサンゼルスショーで発表された市販型で、初めてプラットフォーム共用化が明らかになった。生産は2003年の夏から始まる予定だが、アメリカでつくられるのではなく、ドイツのカルマンが組み立てを担当する。
なかなかスポーティ
SLKと同じ2400mmのホイールベースに載るのは、リアゲート付きの2シータークーペボディ。サイズは全長4059mm、全幅1766mm、全高1305mmと、アメリカ車(?)としては異例に小さい。最近のクライスラーが得意とするレトロタッチのフォルムは、コンセプトカーと較べるとフロントまわりが一般的に仕立て直されたものの、絞り込まれながらスロープしていくリアエンドはそのままだ。
コクピットは、ボディサイズを反映してけっこうタイトだ。ダッシュボードは、全体のフォルムやスイッチにメルセデスを思わせる部分もあるが、メーターやセンターパネルといったパーツをシルバーとすることなどにより、独自性を出している。SLKに似たかけ心地のシートは低く、高めのベルトラインとの組み合わせは囲まれ感があり、なかなかスポーティだ。
エンジンは、3.2リッターV6SOHC18バルブで、メルセデスベンツ「Cクラス」や「Eクラス」、SLKなどと同じ。218ps、31.6kgmという数字まで共通で、フィーリングも似ていた。スポーティカーとしてエキゾーストの演出がないのはやや寂しいが、全域でフラットなトルクを発生し、滑らかに回転を上げていく性格は、扱いやすく上質だ。トランスミッションは6段MTとマニュアルモード付き5段ATが用意されるが、2003年秋以降に日本に輸入される予定のATのほうが、エンジンの性格に合っていた。
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走りは“メルセデス流”
見た目に迫力を与えるためか、クロスファイアのホイールは、フロント18インチ、リア19インチという大径。タイヤもフロントが225/40ZR18、リアが255/35ZR19という、超扁平サイズとなる。しかもホイールベースが短いということで、乗り心地ではかなりの不利が予想された。
ところが実際は、鋭いショックはシャットアウトされ、フラット感も高く、驚くほど落ち着いていた。メルセデスのプラットフォームを流用したメリットは十分に出ている。
ハンドリングにも落ち着きが感じられる。ステアリングは、最近では少数派となったリサーキュレーティングボール式で、かつてのメルセデス同様反応はおっとりしている。だがキックバックはなく、滑らかなフィールが上質感を醸し出す。車体の反応も、ショートホイールベース+超扁平タイヤのスペックから予想されるキビキビした動きよりも、安定感を与えることを重視したセッティングだった。太いタイヤのおかげもあってコーナリングスピードは高く、スポーツカーらしいパフォーマンスを安心感とともに味わうことができる。これもまたメルセデス流だ。
ファッションの世界では“ルーズなアメリカン”も人気の日本だが、クルマはきっちりしたつくりのドイツ車を好む人が多い。そんな状況を考えると、アメリカンデザインをまといながらサイズはコンパクトで、走りはメルセデスの雰囲気が強いクロスファイアは、“史上もっとも日本人向けのクライスラー”といえるのではないだろうか。
(文=森口将之/写真=ダイムラークライスラー日本/2003年4月)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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