フィアット復活物語 第13章「エントリーカーから背高セダン、大型車まで---そそられる日本未導入車あります」(大矢アキオ)
2006.11.11 FIAT復活物語第13章:「エントリーカーから背高セダン、大型車まで---そそられる日本未導入車あります」
■イタリア車はワインと同じ
日本のワインショップを訪ねて驚くのは、イタリア人でもなかなか味わうことのできない高級ワインが売られていることだ。それもイタリア半島津々浦々の名品がズラリと並んでいる。地ワイン以外あまり飲まないイタリアでは、考えられないことである。
いっぽうで、日頃わが家の食卓に上がるような「安くても味はそこそこ」のワインは、絶対お目にかかれない。日本という国は、本当に厳選された品だけが売られているんだなー、と驚いてしまう。
実はフィアット車も同じである。ワイン以上に失敗が許されない商品であるからして、インポーターも輸入車種を慎重に選んでいることは容易に想像できるが、実は日本未導入車にも面白いものが数々ある。
今回は、そうした日本ではお目にかかれない、欧州市場におけるフィアット・モデルを紹介しよう。
フィアット復活の主役としてグランデプントやパンダばかりにスポットが当たる今日このごろだが、こうした脇役たちもいるのである。
■ぜひ日本にも導入してほしいモデル
まずは、現行フィアット中ボトムレインジを受け持つ「セイチェント」だ。1998年のデビューだが、ベースは91年に登場してコンペティション入門用としても好評を博した「チンクエチェント」である。両車の差は、いわばヤクルトとヤクルト・ジョワの違い?といったところか。新型パンダと同じポーランドの工場で造られている。
次は「イデア」である。メルセデスAクラスから始まった背高セダン・ブームの流れを受けて、2004年に登場した。その居住性から、ミラノなどの大都市では近年タクシーとしてもよく見かける。
「スティーロ」というモデルもある。こちらはプントのワンクラス上のクルマで、従来の「ブラーヴォ(日本名ブラビッシモ)/ブラーヴァ」にかわるモデルとして2001年に登場した。
ただし、力感はあるもののイタリア性が感じられないスタイリングや初期モデルの品質の低さが祟ってしまったため販売に苦戦した。一時イタリアのフィアット大型販売店には、大幅にディスカウントされたスティーロがズラッと並んでいるのがよく見られたものだ。
アンチ・ルノー・カングーとして奮闘中なのは「ドブロ」。トルコ工場で造られている。ニューモデルのときイタリアでは、ジャマイカ・ボブスレーチームの面々がイメージキャラクターを務めた。だが、あまりにいかつい顔が不評だったようで、少し前のビッグマイナーチェンジで、もう少し大人しい表情に改められた。
現行「クロマ」は、昨年のジュネーブショーでデビューした久々のビッグ・フィアットである。ステーションワゴンのみという奇抜な車種構成で、トリノ五輪のオフィシャルカーとしても大量に導入された。イタリアのワゴン市場で、アウディA4アバントなど相手に健闘している。
最新ニュースとしては、10月26日に概要が発表された新型ブラーヴォがある。来年1月末に発表されるこのクルマは、前述のスティーロの後継車となる。デザインは、チェントロスティーレ(スタイリングセンター)フィアットによるものと発表されている。
なおプラットフォームは、1年遅れで登場する新型ランチア・デルタにも流用されるといわれている。エンジンはディーゼルが1.9リッター 120cv、同150cv、1.4リッター90cvの3種が用意される。
ただしガソリン仕様も手を抜いてはいない。「T-JET」と呼ばれる新開発の低燃費1.4リッター・ターボ120/150cvが搭載される。相変わらず過熱するディーゼル人気に一石を投じられるか、今から気になるところだ。スタイリッシュなだけに、ぜひ日本にも導入してほしいものである。
かくもフィアットは、実は未導入車種にも、そそられるクルマが存在する。
■素のイタリアにも注目せよ
さて先日東京滞在中、ふとコンビニ弁当が懐かしくなった。そこでロー○ンに入ったら、「フェラーリ軌跡のF1フィギュア」というポスターが目に入った。
対象の缶コーヒーを買うと、もれなくホットホイールズ製のF1ミニチュアカーが付いてくるという企画らしい。缶が2本セットになっていて、それを繋ぐかたちでケースが付いている。ちょっと前に流行った、いわゆる食玩の続編である。
驚くべきはラインナップだった。7台あるコレクションのうち、最新は2003年の「F2003-GA」だが、古いほうは1951年の「375F1」とか、1964年「158F1」なのである。
コンビニ企画にしては、妙にエンスー度が高い。好みのクルマが当たるまでコンビニに通い詰めるような『SUPER CG』読者が、どれだけこの世にいるだろうか、と思わず余計な心配をしてしまう。
ともかく、フェラーリといえば何でも商品になってしまうところが、やはり日本だなあ、と思った次第だ。
その勢いで、“素(す)のイタリア”であるフィアットもより注目されるようになれば、日本の欧州車趣味も本物だと思う。
(文=大矢アキオ-Akio Lorenzo OYA/写真=フィアット/2006年11月)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
番外編:大矢アキオ捨て身?の新著『Hotするイタリア−イタリアでは30万円で別荘が持てるって?』 2007.3.22 『FIAT復活物語』の連載でおなじみのコラムニスト・大矢アキオ氏が、新著『Hotするイタリア−イタリアでは30万円で別荘が持てるって?』を、二玄社より刊行した。トスカーナ在住10年の総決算ともいえる痛快なコラム集である。その大矢氏に直撃してみた。
-
最終章:「『君たちはもう大丈夫だ』と言いたかったけど……」 2007.3.17 ジュネーブ・ショーのフィアット。新型「ブラーヴォ」は評判上々、「アルファ159」にはTI追加、さらにアバルトやチンクエチェントなどがお目見えした。
-
第25章:「アバルト再生の日近し---『ストップ、宝の持ち腐れ!』」 2007.3.3 イタリアでは、「宝の持ち腐れ」が発生する。クルマの世界の代表例が「アバルト」なのだが、近日、再生の道につくことになった。
-
第23章:「フェラーリに人事異動の嵐、シューマッハー引退後の初仕事は“お笑い”だ!」 2007.2.17 フェラーリ黄金期の立役者シューマッハー。引退後の初仕事は「ミハエル園芸店」で働くことだった!?
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。