三菱パジェロショートVR-II(4WD/5AT)/ロングスーパーエクシード(4WD/5AT)【試乗記】
“今こそ”パジェロ 2006.11.01 試乗記 三菱パジェロショートVR-II(4WD/5AT)/ロングスーパーエクシード(4WD/5AT) ……374万8500円/454万6500円 三菱の本格4WD「パジェロ」がフルモデルチェンジされた。外装デザインのほか、さまざまな部分で改良が施された新型は、どんな場面でその効果を感じさせてくれたのか。彼の地でのパジェロ
ここ数年、国内販売は月間2〜300台程度で推移しているパジェロを、なぜ今フルモデルチェンジするのか。もっと量販が望めるモデルに力を入れるべきではないのか。それは普通に浮かぶ疑問だろうと思う。しかし実際、復調著しいとはいえ、三菱の国内販売はまだまだ苦しい状況が続いている。そんな中、それだけの台数が見込める高額車のパジェロは、実は重要度が高いのだろう。あるいは、未だ女性ユーザーのマイナスイメージを払拭し切れていない三菱だけに、男性が主なターゲットとなるパジェロは、多少は売りやすいということもあるのかもしれない。
いや、実は最大の要因は、ヨーロッパ市場でのパジェロの奮闘ぶりなのである。彼の地でのパジェロは、我々が思う以上にプレミアムな存在として認知されている。「ランドローバー・ディスカバリー3」などもライバルとして挙がるほどだといえば、その位置づけが理解いただけよう。実際、販売も好調。ヨーロッパ全体に、この手のSUVの需要が高まってきている中、例のパリ・ダカでの活躍という強烈なイメージをもったパジェロは、大いにアピールする存在となっているようなのだ。
そんなわけで新型パジェロ、一番の狙いは実はヨーロッパ市場における商品性の引き上げである。車体の基本骨格は、先代で採用したビルトインフレームモノコックボディを踏襲。しかし高張力鋼板の採用部位拡大やキャビン周辺のスポット溶接の増加などによって、ボディ剛性は大幅に高められているという。これは彼の地の交通環境にあわせて、特にオンロードでの高速安定性を向上させるため。ジオメトリーにまで手の入ったサスペンションも全体に硬めとされ、実際にメーカーもロール量の20%低減を謳っている。
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上質さを感じる走り
果たしてその効果はといえば、これが期待を上回る走りとなって表れていた。まず好印象なのが乗り心地。従来のフワフワした印象は払拭され、“しなやか”と表現してもいいくらいの落ち着きが出た。平坦路を流している限りはボディは比較的フラットに保たれ、うねった路面などではそれなりに姿勢変化はさせつつも、動きはしっとり穏やかで、しかも揺り戻しなく一発で挙動が収まる。実は最初走り出して、思わず「いいなぁコレ」と口をついて出てしまったほどだ。
さすがに「BMW X5」や「ポルシェ・カイエン」のようにワインディングロードをぶっ飛ばそうという気にはならないが、それは主にロック・トゥ・ロック3.7回転ほどとステアリングがスローなせいで、ハンドリング自体はこの手のものとしては決して悪くない。2WDでも良いが、スーパーセレクト4WDを、前後33:67の不等トルク配分となるフルタイム4WDの4Hモードに入れれば、高い安心感を覚えつつ気持ち良く走れる。
また、スーパーエクシード系が用いるフロント対向4ポッドのブレーキシステムのタッチと効きも上々だ。そうそう、スローなステアリングも手応えは剛性感があり、かつ滑らか。こうした操作系のタッチの良さも、その走りを上質と感じさせる要素である。
新たにバルブタイミングとリフトを変化させるMIVECを採用したV型6気筒3.8リッターエンジンは、従来ユニットに較べて最高出力が33ps向上したのに対して、最大トルクは0.1mkgアップに留まる。しかし、その発生回転数は1000rpm以上低くなり、非常に粘り強い特性に仕上がっている。乾いた、ちょっとワイルドなサウンドも悪くない。しかもこのエンジン、さらにトップエンドまでスムーズに回り、リニアにパワーを高めるだけでなく伸びの良い高音まで聞かせてくれるのだ。
内外装ともにパジェロらしい
ロングボディの3.8リッターの印象はこのような感じだが、ショートボディになると、車重が150kg以上も軽くなることもあり軽快感はさらに高まる。ハンドリングは、ホイールベースが短い分、より安定指向に躾けられているが、巡航時のフラット感はあまり違わなかった。
また、改めて見直したのが従来から踏襲する3リッターエンジンである。吹け上がりは負けずにスムーズで、活発さではあるいは上回るほど。3.8リッターの5段に対して4段となるATも、練られた変速スケジュールのおかげで痛痒を感じさせなかった。
最後になったが、誰が見てもパジェロらしく、しかし今の感覚を盛り込んだ外観、オーソドックスながら見た目品質の格段に良くなったインテリアも、真面目に進化した中味とよく合っていて好感度は高い。唯一、個人的に不満なのは、かつてのイメージを彷彿させる3ウェイ2トーンカラーの設定。せっかくの中味の大きな進化を、この色は表現できていないと思う。
一度はブームをつくり栄華をきわめたモデルだけに、正直最初は“今さら”パジェロか…と思ってしまったのは事実だ。しかし、正攻法で、そして真摯に改良されたその出来映えを知った今では、考え方が180度変わってしまった。むしろ“今こそ”パジェロ、いいんじゃないか。そんな心境なのである。
(文=島下泰久/写真=峰昌宏/2006年11月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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