フィアット復活物語 第10章「初代イプシロンのデザイナーが語る 『ランチアは、イタリアのシトロエンだ!』」(大矢アキオ)
2006.10.14 FIAT復活物語第10章:「初代イプシロンのデザイナーが語る 『ランチアは、イタリアのシトロエンだ!』」
■あのイプシロンのスタイリスト
イタリア車ファンの方ならエンリコ・フミアをご存知だろう。あのランチア初代イプシロン(1995年)を手がけたスタイリストである。
彼は1948年トリノ生まれ。66年、18歳のときカロッツェリア・ベルトーネ主催の新人コンクールで、5300人の応募者のなかから選ばれて優勝する。
76年にはイタリアにおける自動車マンのエリートコースであるトリノ工科大学を卒業。卒論は、4年前に完成したピニンファリーナ風洞を用いた航空力学研究だった。
同年そのピニンファリーナに入社したフミアは、やがて同社の技術研究所モデル開発部長、デザイン開発部長を歴任、89年には役員にも抜擢される。
91年にはフィアット・オートに移籍、ランチアのスタイリングセンター所長を務めたのち、96年にはアドバンスド・デザイン部長となる。
しかし99年にアルド・セッサーノ(三菱2代目のランサーのデザインに関与したことで知られる)と共同でオフィスを設立する。
そして4年前の2002年に、自らの会社であるフミア・デザイン・アソチャーティを興した。
彼の代表作としては、冒頭に記したイプシロンのほか、ピニンファリーナ時代のアルファ164(87年)、Gtvとスパイダー(94年)などがある。
■ランチアとはどんなブランドか
そのフミア氏と先日トリノで会う機会があり、氏とゆかりの深いランチアについて聞くことがてきた。
さっそくだが、あなたにとって、ランチアというブランドとは?
それに対してフミア氏は、「高尚で、優雅で、かつ洗練されたブランド」と答えた。そしてこう付け加えた。「フランスだったら、シトロエンに相当する、外観・技術とも先進技術の結晶だったはずです」
なるほど、たしかにランチアはその歴史のなかで他社に先駆けて、モノコック・ボディ、前輪独立懸架、V4エンジン、そしてピラーレス4ドアなどを採用してきた。フミア氏の“ランチア=イタリアのシトロエン”説は頷ける。
いっぽう、現在のランチア・ラインナップを見てデザイン的に不足しているものは?との問いに、「ファミリー・フィーリング」と指摘した。
つまり、ブランド共通のアイデンティティが薄い、というのだ。
たとえば、彼がピニンファリーナ時代に手がけたアルファ・ロメオは、いずれも大胆なウェッジと、ラジエターを最小にしてアルファの盾を強調するイメージが貫かれていた。またランチア時代に関与したリブラの初期試作車は、フロントフェイスをはじめ各部に初代イプシロンのモティーフが反復されていた。
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■「漢字デザイン」で行こう
氏によれば、残念ながら日本車も、まだまだそうした共通アイデンティティが不足しているという。
どうでもいいが、その話を聞いてちょっと安心した。
少年時代ダイハツ・シャルマンや日産ローレルスピリットといったマイナー車まで識別できたボクが、今や一時帰国して成田発リムジンバスの車窓から外を眺めるたび、何だかわからない日本車が増えていることに焦りを感じていたからだ。
しかし、プロであるフミア氏の目にもそう映っていたわけである。
ちなみにフミア氏は、前述のような特徴的アイコンの共通化と反復を、象形的であることにちなんで「Kanji(漢字)デザイン」と呼んでいる。
ついでにいうと、氏は大変な親日派である。
先日2日トリノの自動車博物館で発表したランチアをイメージしたクレイモデルも、企画の発端は日本の熱心なランチア愛好家たちとの交流だった。
そんなフミア氏に、ボクとしてはいつか漢字名を献呈したいと思っている。園利口、いやエンジニアだから演理工がいい。苗字は風魅亜? なにやら昔の暴走族みたいになってきたから、やはりやめておこう。
(文と写真=大矢アキオ-Akio Lorenzo OYA/2006年10月)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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