クライスラー300C SRT8(FR/5AT)【試乗記】
ジムで鍛えたインテリ野郎 2006.07.26 試乗記 クライスラー300C SRT8(FR/5AT) ……726万6000円 ゴツさが人気の「クライスラー300C」にハイパフォーマンスモデルが登場。ただでさえ大きな5.7リッターOHVのHEMIユニットを6.1リッターまで拡大した心臓に、併せてチューニングされた足まわりを持つ。ゴツいだけじゃない、このクルマの真骨頂とは?“ワル”度は控えめ
クライスラー300C SRT8。文字通り300Cがベースとなる、ハイパフォーマンスなメーカーチューンを施した一台だ。SRTとは、クライスラーレーシングチームが実践する「ストリートアンドレーシングテクノロジー」の略である。搭載されるエンジンは、伝統のHEMIユニットでは最大となる6.1リッターのV8 OHV。それまでトップモデルであった5.7HEMIのボアを3.5mm拡大し、同時に燃焼室形状の見直しや圧縮比の引き上げ(10.3)、新型吸気マニフォールド採用などにより、431ps/58.0kgmという怒濤のパワー&トルクを手に入れている。これをタイヤに伝えるのは、マニュアルシフトモードを持つ電子制御式5段ATだ。
迫力のエンジンに対して、アピアランスはどうなのか。実はB-BOYたちが夢中になるほど“ワル”なデコレーションが施されているわけではない。専用のリップスポイラーおよびリアスポイラー、エンブレムなどは、どれもつぼを心得た控えめな演出だ。
室内に目を移せば、スエードとレザーをコンビネーションしたシートが設えられるが、これもラグジーソファではなくサポート性を重視した、身体にフィットするタイプ。300km/hを刻むホワイトメーターが静かにその実力を伝えるが、それ以外はノーマルとあまりかわらないインパネとインナードアがあるだけだ。
もてあましそうなアスリート性能
つまりSRT8を“ゴツイメージ先行”にさせているのは、今回用意された「黒塗りボディ」や「20インチのバフがけアルミホイール」の効果。斜め後ろからは一見コンパクトに見えるが、真横に並ぶととにかくでかい全長と長いホイールベースなどは、300Cの基本ボディが持つ迫力なのである。
ではこのクルマ、真骨頂はどこにあるのだろうか?
それは日本の大地ではもてあましてしまいそうな、愚直なまでにまじめなアスリート性能にあるといえよう。たとえば一瞬のうちに後続を引き離すパワーは、デロデロと低回転域のトルクだけで引き出されるものではない。それはOHVとは思えない、6000rpm付近までストレスなくまわるエンジン特性によるものだ。
後輪のみで路面に伝えられるその大パワーも、長いホイールベースにより受けとめられ、コーナーで冷や汗をかくこともない。20インチタイヤのすばらしいライントレース性も相まって、ダイナミックな走りをこの巨漢で味わえる。
質感高いブレンボの対向4ピストンキャリパーのチョイスを見てもわかるが、イタリアのメーカーを使ってまで、理想の走りを求めるその姿勢。まとめるに300C SRT8は、往年の「脳ミソまで筋肉でできたアメリカンマッスル」ではなく、「ジムで鍛え上げたインテリ野郎」なのである。
乗りこなすのに必要なものは
残念な部分もあった。通常の高速巡航路において、路面の大きなアンジュレーションに、揺り返しのようなピッチングが収まらないのだ。コーナーではがんばっていた20インチタイヤ&ホイールが、肝心の直進においては、大きくボディを揺らすのである。
とはいいながら、この初期減衰性能の味付けと、(外観に比べて)少々プアなインテリアの質感をカスタマイズしてでも、手に入れる価値はあると感じられた。
試乗後、このクルマを乗りこなすのに必要なものを見つけた。それはドライビングスキル云々という話ではなく、SRT8から降りた自分を周囲が納得してくれるだけの、このクルマに負けないキャラクターだ。
「すげークルマに乗ってるな」と驚かせた後に、「あの人やっぱカッコいいわ……」と言わせたい。そんな感情がふつふつと湧きあがるほど、300C SRT8は周囲と自分をホットにさせてくれる魅力がある。
(文=山田弘樹/写真=峰昌宏/2006年7月)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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