クライスラー300C ツーリング 5.7HEMI(FR/5AT)【試乗記】
アメリカを象徴するカタチ 2006.09.05 試乗記 クライスラー300C ツーリング 5.7HEMI(FR/5AT) ……646万8000円 2006年7月8日、クライスラーのフラッグシップ300Cにステーションワゴン版が登場!ミニバンが人気の日本市場で、アメリカンワゴンはどう受け入れられるのだろうか。その魅力とは。ワゴンはオーストリア製
なにげなく見たルームミラーに映ったリアウィンドウは、想像以上に遠くにあった。その瞬間、クライスラー「300Cツーリング」は貴重なクルマだと思った。
300Cツーリングは現在買える正規輸入車では唯一の5メートル級ワゴンであり、しかも唯一のアメリカン・ステーションワゴンだからだ。正確にはオーストリア製なのだが。
セダンの300Cは北米での生産販売がメインだが、ツーリングは母国では作られず、売ってもいない。同じプロポーションを持つダッジ・ブランドのマグナムが、その役目を担っている。しかし現在、北米で売られるアメリカンブランドのワゴンはこのマグナムだけだ。
かつてアメリカ車には、ステーションワゴンが数えきれないほどあった。それは日本人にとっては、クルマ以上の存在だった。アメリカという国の豊かさの象徴でもあったのだ。それが特別天然記念物並みに淘汰されてしまった理由は、もちろんミニバンとSUVが増えたことである。
昔のアメ車ワゴンそのもの
そもそも300Cが、メルセデス・ベンツEクラスのシャシーを流用して作られたうえに、それのワゴン版は母国アメリカでは生産も販売もされない。これはホンモノのアメ車のワゴンなのかと異議を唱える向きもあるだろう。でも300Cツーリングは、そこまで細かいことにこだわる乗り物ではない気がする。
江戸前のお寿司みたいなもので、産地よりも様式を堪能すべきではないかと思ったのだ。旧き佳き時代のアメリカン・ステーションワゴンの雰囲気を、新車で味わえる貴重な存在。あえて北米を外し、欧州や日本をメインマーケットとしたのも、そのあたりをアピールするという狙いゆえではないか。
ツーリングのボディは、リアドアまではセダンと共通だ。ジャスト5メートルの全長が、なぜかセダンより10mm短いほかは、スリーサイズも等しい。つまり前後席の広さも、リアのヘッドルームに少し余裕がプラスされたほかは同じだ。ということで早速ラゲッジスペースを観察すると、そこには典型的なアメリカン・ステーションワゴンの世界が広がっていた。
ルーフの一部まで開くことでアクセスをしやすくしたというリアゲートを開ける。後席を立てても630リッターを確保するという荷室は、奥行きこそたっぷりしているけれど、床は高め。床下にパーテションつき収納スペースを用意しているためもあるが、薄くて長いこの空間が昔のアメ車のワゴンそのもので、思わずうれしくなってしまった。
豪快なハンドリングを堪能
日本仕様のツーリングはV6の「3.5」とV8の「5.7HEMI」の2車種。セダンにある6.1リッターの「SRT8」はヨーロッパにも設定がない。どちらも5段AT、右ハンドルのみの設定だ。
今回乗ったのは5.7HEMI。1940kgの車重はセダン比で80kg重くなっているが、340ps/53.5kgmの前にはさしたる差ではない。アクセルに軽く足を乗せただけで、フーッという軽い吐息とともにスルスル速度を上げて行く。右足に力を込めれば豪快なダッシュを味わうことも可能だが、ルームミラー越しのリアウィンドウを一度目にしてしまうと、いい意味でやる気が失せ、ハイパワー&ビッグトルクを余裕に回すドライビングになる。
ちょっと残念だったのは乗り心地。これがEクラス・ベースか?と疑うほどアメリカンなルーズフィットを実現していたセダンと比べると、リアがやや硬めになっていた。ロードノイズも、以前試乗会で乗ったツーリングほどではなかったが、セダンよりはリアからの音が届いてくる。
逆にハンドリングは、試乗会で山道を走った経験を含めていえば、ボディ後半部の重さや剛性感の低下などを感じることはなかった。大きな後輪駆動車ならではの自然にして豪快なハンドリングを、このツーリングでも堪能することができる。
ボディが魅力
試乗会では3.5にも乗った。セダンと違うのは、やっぱり300CはHEMIじゃなきゃ、という意識にならないことだ。それだけツーリングには、ボディの魅力があるということなのだろう。
ちなみに北米版300Cツーリング(妙な表現だが)たるマグナムは売れ行き好調とのこと。この調子でいけばワゴン復活となるかもしれない。もしその夢が叶ったら、シボレー・カマロやダッジ・チャレンジャーと同じように、かつてのネーミングを復活させてほしい。ノマドとかカントリー・スクワイアとか。
ステーションワゴンはスペシャルティカーと同じか、それ以上に、佳き時代のアメリカを象徴するクルマのカタチなのだから。
(文=森口将之/写真=高橋信宏/2006年9月)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
レクサスLFAコンセプト
2025.12.5画像・写真トヨタ自動車が、BEVスポーツカーの新たなコンセプトモデル「レクサスLFAコンセプト」を世界初公開。2025年12月5日に開催された発表会での、展示車両の姿を写真で紹介する。 -
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。











