第4回:「GMは硬く、フォードは豪快、クライスラーは懐古」−−アメ車デザインが大きく変わる(桃田健史)
2006.09.06 アメ車に明日はあるのか?第4回:「GMは硬く、フォードは豪快、クライスラーは懐古」−−アメ車デザインが大きく変わる
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「アメ車」といえば、ゴツいデザインを想像し、期待をしてしまう。しかしそのデザインが今後は変わっていくかもしれない。今回は生き残りをかけたデザイン変革のお話。
■「アメ車の線は太い」
フォードのビル・フォード社長は2006年9月初頭、米メディアとのインタビューでこう答えた。
「過去の数十年間、私たちが築いてきたビジネスモデルが、もはや通用しない。大きな変革が必要だ」
アメ車のデザインもまた、変革期にきているようだ。
アメリカ西海岸には、日米欧の各自動車メーカー直属のデザインセンターが点在している。私はそのなかで、日系の各所にこれまで数回出向いたことがある。CALTY(トヨタ)、NDAサンディエゴ(ニッサン)、アメリカンホンダR&D、MMNA R&D(三菱)、MNAO(マツダ)。そこでいつも話題に上るのは、アメリカ人と日本人のデザイン感性の違いだ。
「アメリカ人の線は太くて、どこまでも真っ直ぐ直線的に伸びる」とよくいわれる。反面「日本人は繊細だが、(描く)線が細い」とも。
そして「アメリカ人と日本人の長所短所を融合することで、オリジナリティを出していきたい」などという声も、デザイナーとの話のなかで多く聞かれる。
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■ビッグ3の特徴
こうした日系メーカーの視点で最近のアメ車デザインを振り返ってみよう。
GMは全般的に“硬さ”が目立つ。「ハマーH2」「キャデラック・エスカレード」など、最上級クラスではその硬さに思い切りの良さを感じる。しかし、ミドサイズ、コンパクトサイズとなると「型にはめようとし過ぎて、窮屈そうな硬さ」を感じる。そのなかでも「ポンティアック・ソルスティス」のような特殊変異が登場するのは、ラインナップの絶対数が多いGMならではといえるだろう。
フォードは販売好調の「マスタング」を筆頭に、ドバッ! ズバッ! と豪快かつ強引なカットラインが特徴。“いかにもアメ車”的なテイストには好き嫌いが分かれそうだ。また、「フォーカス」など欧州フォード系には「ヨーロッパ的な凝縮カタマリ感」がある。が、ミドサイズになると、アメ車でも欧州車でもない、中途半端な雰囲気がチラついている。
ダイムラー・クライスラーは「クライスラー300/ダッジ・マグナム」が開拓した「懐古戦略」のさらなる拡充を狙っている。同プラットフォームを完全流用した「ダッジ・チャージャー」は、デザイン戦略による販売成功例である。だが、「ダッジ・キャリバー」の兄弟車として、「ジープ・パトリオット/コンパス」などへ展開するのは、デザイン違いだけによる安易なラインアップ増加作戦と受け取られかねない。
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■名門校でのデザイン感性は、いま……
こうしたビッグ3のカーデザイナーの多くは、「アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン」トランスポーテーション学科の卒業生だ。
LA郊外にある、往年の高級住宅地パサディナ。その山間部にひっそりと同校メイン校舎がある。カーデザインを専門に扱う大学は、北米ではデトロイトにもう1校あるだけ。欧州では以前、英国内にあったが現在は休校中。よって、世界一のカーデザイナーを目指す若者にとって、アートセンターは、“カーデザイナー虎の穴”なのだ。BMWのクリス・バングル氏、ニッサンの中村史郎氏も同校でカーデザインの基礎を学んだ。ピニンファリーナのデザインディレクター、ケン奥山(本名:奥山清行)氏もここで学び、一昨年まで同校の学部長を務めていた。
この名門校でいま、アングロサクソン系アメリカ人の生徒が減っている。同校主催の卒業研究展示を見ていると、そのほとんどは中国系、韓国系、東南アジア系のアメリカ人、またはそれらエリアからの留学生。白人、そして日本人の存在感は薄い。彼らの先輩はすでに、日米欧各メーカーの若手として実戦投入されている。彼らのデザイン感性は、アメリカンでもオリエンタルでもない。そこにあるのは、「新世代ユニバーサルデザイン」だ。
“カーデザイナー虎の穴”から続々と輩出される新感覚の若手たち。彼らがビッグ3、欧州メーカー、日系メーカー、韓国系メーカーの実戦の舞台で本格的に羽ばたく時代がもうすぐやって来る。つまり、ビッグ3が貫いてきた「アメ車デザインの固定概念」は大きく崩れる可能性がある。「線が太い」デザインは大きく変ろうとしている。
しかしアメ車の時代が、終わったわけではない。これはデザインの大変革による、新たなるアメ車イメージの誕生を意味しているのだ。
(文=桃田健史(IPN)/2006年9月)

桃田 健史
東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。
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第9回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(後編) 2006.12.29 ■古い設計でも十分と考えるフォードGMに続き、フォードの試乗エリアに来てみると、ウェイティングの人があとを絶たない。そう、皆、「シェルビーGT500」(5.4リッターV8、500ps)にどうしても乗りたいのだ。それほど“シェルビー効果”は、典型的なアメリカ人に有効なのだ。その乗り味を一言で表現すると「意外と、普通」。エンジンONでV8がドロドロすることもないし、低速走行でサスがガシガシ、ゴツゴツもしない。「なんだか拍子抜けしちゃう」ほど、普段のドライブに向いている。アクセル全開で、イートン製ルーツ式3枚歯スーパーチャージャーが「ウギュワァーン!」と叫ぶ。だが、遮音性が意外と高く、うるさいと思う音量・音質ではない。直線でフルスロットル。リアサスがじーんわりと沈みこみ、ズッシーンと加速する。コーナーに進入。トラクションコントロールをONにしたまま、この手のクルマとしては中程度の重さとなるパワステを切る。ステアリングを切ったぶんだけクルマ全体が曲がるような安心感があるのだが、ステアリングギア比が意外とスローで、結構な角度まで切りたす必要があった。ロール量は、乗り心地と比例して大きいが、「この先、どっかにブッ飛っンでいっちゃうのか!?」というような不安はない。ちなみにトラクションコントロールOFFで同じコーナーを攻めてみると、意外や意外、コントローラブルだった。このボディスタイルからすると、スナップオーバー(いきなりグワーンとリアが振り回される現象)を想像してしまうのだが……。日系自動車メーカー開発者たちはよく「こんな古い基本設計のリアサスでいいのか?」といっている。しかし、シェルビーGT500の目指す「大パワーを万人向きに楽しく&乗りやすく」は、十分満たされている。なお、系統は違うが、期待のミドサイズSUV「エッジ」でも同様に、マイルド系ズッシリ乗り味は表現されていた。
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第8回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(前編) 2006.12.28 毎年恒例、米国メディア団体のMPG(Motor Press Guild)主催のトラックデー。日米欧韓各自動車メーカーが最新型車両を持ち込み、サーキットと一般路で走行体験をさせてくれるビッグイベントだ。今回集まったのはおよそ130台。アメ車たちは他国モデルのなかに埋もれず、個性を出していたのだろうか?■アメ車の個性をハイパフォーマンスモデルで試す皆さんはこんなことを思ったことはないだろうか。「クルマの技術って、メーカーによってそんなに違いがあるの? どのメーカーだって、最新コンピュータ技術を導入しているし、生産技術は上がっているし、他社関連の情報だってウェブ上に溢れかえっている。だいたい、比較車両としてどのメーカーも競合車は購入してバラバラにして詳細解析しているのだから、同じ価格帯のクルマならどこのメーカーも似たようなクルマになるでしょ……」確かに一理ある。ところが、現実には各社モデルには技術的な差がある。その差を背景として、各車の“味”も変わってくる。特に、乗り味、走り味の差は大きい。その原因は、購買コスト&製造コストとの兼ね合い、開発責任者のこだわりやエゴ、実験担当部署の重鎮との社内的なしがらみ、開発担当役員の“鶴の一声”……など様々だ。ではそうした差は、アメ車と日欧韓車、いかに違うのか。今回の「トラックデー」で、約50台のステアリングホイールを握ったが、そのなかでも各社が力を入れ、アメ車の色が濃く出ているハイパフォーマンスモデルに絞って、乗り味、走り味を比較してみたい。場所はウイロースプリングス・ロングコース(1周約3km)。ここでは200km/hオーバーの高速コーナリングから、ハードブレーキングまでチェックできるほか、近場の一般道でも乗り心地などを試すことができる。
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第7回:アフターマーケットでの成功を狙って〜米ビッグ3のビジネス舞台裏〜(後編)(桃田健史) 2006.11.15 ■会場はレトロな雰囲気スターがいない。これが、今年のSEMAショー全体を見ての率直な感想だ。SEMAショーではここ数年、「ハマーH2」「クライスラー300C」や、ホンダ系プライベーター主導のジャパニーズ暴走族、などアメリカの社会背景を映し出してきたクルマたちが華やいでいた。だが今回は、次世代のスターの姿が全く見えてこなかった。毎年キャッチコピーや『Car/Truck of the Show』というテーマを祭り上げて、ショー全体の雰囲気作りを行っているSEMAショーの今年のテーマは『American Musclecar』。会場正面玄関には歴代の「フォード・マスタング」「ダッジ・チャージャー/チャレンジャー」「シボレー・カマロ/コルベット」など、V8ドロドロなアメリカン魂たちがレッドカーペットの上で整然と構えていた。ということで、会場内のあちこちにも60年代のレトロな雰囲気が蔓延していた。アメリカングラフィティ世代の初老のカーファンたちは「いやー、昔のアメリカはほんと、楽しかったわいなぁ……」とノンビリとした足取り。
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