第87回:日本に残る「氷河の足跡」、木曽駒ヶ岳(その9:ピーク時には海面が130メートルも下がった)(矢貫隆)
2006.09.01 クルマで登山第87回:日本に残る「氷河の足跡」、木曽駒ヶ岳その9:ピーク時には海面が130メートルも下がった(矢貫隆)
■山岳氷河は大きくならなかった
日本海から水分を供給され、さらにシベリアからの季節風によって日本の山には雪が降り積もる。
もっとも新しい氷河期(最終氷期)の前半期、その時期は大陸氷河もまだ十分に発達していなかったから膨大な量の水が大陸に蓄えられてはおらず、つまり、日本海への影響もでていなかった。だから山岳氷河は大きく、カールから溢れ、下まで流れていったというのだ。
ところが、2万年ほど前、氷河期の最盛期になると大陸氷河の発達が進み、そのために海に戻る水の量が減ってしまった。すると海面が下がる。ピーク時には日本海の海面が130メートルも下がったという研究もあるらしい。そうなると対馬暖流が日本海に流れ込まなくなり、水分の供給が減ってしまった分、日本の山への降雪量も減った。だから山岳氷河も大きくなることはなかった。
「対馬暖流が日本海に戻りだすのは1万3000年くらい前ですから、氷河期はその頃から徐々に終わって間氷期に入ってきたんでしょうね」
そうなるね。8000年くらい前には対馬暖流と日本海の関係は現在のようになったらしいから。
「そのときの名残がカールでありモレーンであるわけで、ボクらはそれを見にきた。しかし、それにしても寒いですね。今晩だけ氷河期がきてるんじゃないですか?」
そうだな、今晩は氷河期かもしれない。
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というような会話をしているうちに、いつの間にか眠りについた。
翌朝、目が覚めてびっくりした。昨日、この山に登っているときは秋晴れの天気だったのに、今朝の中央アルプスは冬になっていたからだ。
窓の外は一面の雪景色、しかも吹雪。ガスもでていて、こんな状況のなかを山歩きしたら遭難しそうな天気になっていた。
「天候は回復しないと思うよ」
山小屋のおやじさんが断言した。
(つづく)
(文=矢貫隆/2006年7月)

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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