オペル・ベクトラGTS2.2(5AT)/ベクトラGTS3.2(5AT)【試乗記】
花も実もある中型オペル 2003.06.14 試乗記 オペル・ベクトラGTS2.2(5AT)/ベクトラGTS3.2(5AT) ……361.0万円/458.0万円 GMグループの最新プラットフォーム「イプシロン」に、斬新なデザインのボディを載せた「オペル・ベクトラ」。セダンに続いて、「GTS」とのサブネームを付けた5ドアハッチの日本導入が開始された。“スポーティ”を謳うニューベクトラに、『webCG』エグゼクティブディレクターの大川 悠が乗った。ベクトラの助っ人
世の中、いい人なんだけど、どうも人気がいまひとつという例は少なくない。クルマも同様である。中身はかなりデキがいいのに、内容だけでは通用しない付加価値が大きな影響を与える商品ゆえに、販売面で苦労しているクルマも少なくない。いい例がアメリカ系ヨーロッパ車だ。GM系の「オペル」や、ライバルたる「ヨーロッパフォード」の各車は、それぞれがかなりの力作なのだが、イメージや販売力のためもあって、日本では苦戦を強いられている。
リポーターが、なかでもかわいそうだと思うのが「オペル・ベクトラ」。昨2001年にフルチェンジを受けた、GMヨーロッパことオペルの中堅車種。相当にできばえがいい。ところが単にブランドイメージだけではなく、販売網が弱体化したために、ひどく伸び悩んでいる。
この状態に活を入れるべく、ベクトラのハッチバック版が「GTS」の名前で追加された。GTSは単なる5ドアハッチというだけではなく、ベクトラのなかのスポーティバージョンとして設定されている。従ってセダンの4気筒2.2に加えて3.2のV6もある。足まわりも硬められ、装備もおごられる。
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ヨーロッパで乗るといいクルマなのに……
実はリポーターは去年の夏休み、ドイツとチェコで2000km以上、2.2のベクトラセダンで走り、それ以来、ベクトラそのものを高く評価している。その直前に日本でセダンに初めて乗ったときにも、それ以前のモデルに比べると格段に高級感が増したのがわかったが、本当の価値はヨーロッパで目一杯飛ばしてみて理解できた。
1日約500km、常時150km/hプラスぐらいで流していると、これは本当にいいクルーザーなのである。何がいいかってとても洗練されているのだ。BMWほどスポーティではないが、スタビリティは最高にいい。
それ以上に感心したのは高速での快適性である。路面ノイズやエンジン音は完璧に静かではないが、あまり耳障りではない。一方、風切り音の遮断はみごとなもの。150km/h以上のクルージングでも、ほとんどオーディオのボリュームをいじる必要がない。また乗り心地も速度が高まるに連れてどんどん良くなる。日本の日常高速域では時折ピッチングを感じるが、ヨーロッパの流れの速い交通のなかにおいては、フラット感が強い。つまり素晴らしくリファインされた高速クルーザーなのである。
ところが日本ではボディは大きいし、特にセダンはフロントはアグレッシブなのにリアは妙にゴツく見えて損をする。室内は広いし、トランクは非常に使いやすいが、ドライバーにとっての取りまわしは楽ではない。ハイデッキでCピラーが太いためにバックするには神経を使うし、低く幅広いノーズはサイズがつかみにくいからだ。加えて、回転半径も決して小さい方ではない。
ヨーロッパで乗ると本当にいいクルマなのに、日本では損をしている。それがベクトラ・セダンの印象だった。
性格が明瞭なGTS
GTSはだが、セダンのハンディをだいぶ克服していると思う。妙にごつく見えるスタイルもファストバックのGTSだと格段にスタイリッシュに目に映る。それなりに個性的で、他のこのクラスのクルマとは、まったく別個の魅力がある。しかもドライバーからの後方視界は、セダンよりはるかにいい。
室内はセダンのデザインを踏襲しながら、材質をスポーティに改めているが、もともと今回のベクトラは先代とは比べものにならないほど質感の高いインテリアを備えている。特にダッシュボードの質感など、“ドイツ機能主義”というべき簡潔さにまとめられて気持ちがいい。この面では「フォード・モンデオ」もだいぶ頑張ったが、ベクトラはさらに上を行って、ドイツの他のプレミアムクラスに匹敵するレベルになった。特にGTSの場合、セダンではウッドになるところがアルミ仕上げになり(3.2はプラチナ調)、またスポーツシートと組み合わされるために、メーカーがいうところのスポーツセダンのイメージが十分に表現されている。
GTSに専用の3.2リッターV6は、ほぼ同時期に輸入開始された「キャディラックCTS」のそれと基本的に同じユニットで、洗練されたというよりは、けっこう豪快なV6である。トルクは低速からたっぷりしているが、シルキースムーズというよりは、ドーンと吹ける。CTSほどではないが、エンジンノートの意図的な演出もこれに輪をかける。
これに比べると、実用エンジンとしての2.2は、やはりいい。GM系では長年評判のいい4気筒だが、中低速トルクが太くて、日常ユースでの扱いが楽なのがいい。でも、単なる5ドアではなく“GTS”と名乗るからには、V6の方が差別化しやすいかもしれない。
今回改めて感じたのは、GMの新しい「イプシロン・アーキテクチュア」のできのよさである。ベクトラに始まり、最近は「サーブ9-3」にも使われたし、今後は「シボレー・インパラ」や「ポンティアック・グランダム」などにも流用される。つまり、GMグループ内の新型ミドクラスFWD(前輪駆動)車用のプラットフォームがイプシロンだ。サーブでも感じたように何よりも剛性感が高いし、FWDのハンディを上手にカバーしている。基本的な設計の詰めがきちんとした新型プラットフォームであり、GTSもこれに大きく助けられている。
いいクルマだけど弁当箱のように味気なく、妙に大きく感じるセダンに比べるなら、GTSには色気があるし、こんなサイズのハッチは日本車にはない。日本の市場では、ベクトラはGTSだけでよかったのではないかとさえ思った。
(文=webCG大川 悠/写真=峰 昌宏(M)、荒川正幸(A)/2003年3月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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