プジョー1007 1.6(FF/2ペダル5MT)【試乗記】
忘れられないのは、走りよりも便利さ 2006.02.25 試乗記 プジョー1007 1.6(FF/2ペダル5MT) ……229万円 モデルネームのルールを初めて破った、4桁車名のプジョー「1007」が日本上陸。従来のモデルとは異なるコンセプトを提案する、そのニューモデルに試乗した。シートにつくまでウルトラスムーズ
感動するほど便利だった。「プジョー1007」の電動両側スライドドアのことだ。
試乗会というのは、自分のバッグに加えてクルマの資料などをいただくので、荷物が多くなる。他のクルマなら荷物を一度片手に集めて、ドアを開けなければならないところだが、1007は手のひらのリモコンキーのボタンを押すだけで車内へアクセスできる。
たしかに電動スライドドアなら他車にもある。でも、運転席のドアがそうだったというのは、自分の記憶では初めてだ。助手席側にしか電動スライドドアがない某車を作った国産メーカーはともかく、プジョーはクルマにとってドライバーこそが主役だと考えている。そう感じた。
ルーフの高さと、絶妙な位置のフロントシートのおかげで、シートにつくまでのアクセスもウルトラスムーズ。それだけに、シートベルトの場所が気になった。着座位置よりかなり後ろにあり、しかもドアを閉めながら取り出そうとすると手をはさまれそうな気がする。シート内蔵にするとか、アンカーを伸縮式にするとかしてほしかった。
キャビンに収まると、いままでのコンパクトプジョーとひと味違う、おとなっぽい雰囲気を感じる。落ち着いたデザインや上質な仕上げのおかげもあるが、大きさも厚みもたっぷりの快適なフロントシートもそう感じさせる要因だ。日本仕様は全車右ハンドルだが、ペダルのオフセットにも違和感はなかった。
【Movie】電動スライドドア開閉の様子が見られます。
コーディネイトで遊べる
ボディカラーと同じ12種類が用意されたインテリアの「カメレオキット」は、ボディの着せ替えを遊びにしてしまうという意味で、「シトロエンC3プルリエル」と同じノリを感じた。季節ごとに模様替えしたり、シートとトリムを別の色でコーディネイトしたり、いろいろ楽しめそうなアイテムだ。
セパレート2人掛けのリアシートは、フロントに比べると小柄で硬めだが、スライドを後ろにすると、身長170cmの自分なら余裕で座れる。ラゲッジスペースは奥行きが短めだが、リアシートだけでなくフロントの助手席も折り畳めるから、いざとなれば長モノも箱モノもOKだ。シートアレンジのレバーが赤で色分けしてあるのは親切。
日本仕様のエンジンは1.4と1.6の2タイプで「206」と共通だ。トランスミッションはシトロエンの「センソドライブ」と同じ2ペダルの5段MTだが、プジョーでは2トロニックと呼ばれる。今回試乗したのは1.6だ。
車両重量は1270kgで、同じエンジンを積むクルマでは「307フェリーヌ」のATと同じ。おかげで発進はボディをヨイショと動かす感じがあり、その後もオートモードの変速はゆっくりだったが、そのぶんショックなどはなく、なめらか。パドルを弾くマニュアルモードなら、軽快な加速が手に入る。
買い物好きの女性へ
乗り心地はコンパクトカーらしからぬ落ち着きを感じる。ボディの剛性感が高いうえに、重さもいい方向に働いているのだろう。基本的にフラットで、路面からのショックは伝統の自社製ダンパーを使ったサスペンションが、しなやかに吸収してくれる。
試乗の舞台は横浜なので、ワインディングロードでのハンドリングをチェックすることはできなかったが、交差点などを曲がるときのフィーリングは、予想以上に“プジョー”していた。電動パワーアシストとしては自然な感触のステアリングを切ると、ほとんどロールせずに、スッとノーズがインを向く、あの動きだ。それでいて、曲がりはじめてからはけっこう安定していた。高速道路での直進性も高い。
とはいってもこの1007、プジョー=スポーティと考える男性にはまずササらないだろう。むしろプジョー=ファッショナブルと思う女性にウケそうだ。買い物好きの彼女たちにとって、運転席のドアが電動で開くのは便利だし、注目を集めるというのもプラスになるはず。カメレオキットはファッションのコーディネイトに通じるし、上質なインテリアもアピールになる。
と外野の人っぽく考える僕も、電動スライドドアの便利さだけは、試乗から数日たったいまでも忘れられないでいる。それほど新鮮な体験だった。
(文=森口将之/写真=河野敦樹/2006年2月)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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