ボルボC70 T-5(FF/5AT)【海外試乗記】
オープンカーというよりスポーツカー 2006.02.24 試乗記 ボルボC70 T-5(FF/5AT) 2005年東京モータショーでお披露目された、ボルボのプレミアムオープンカー「C70」がいよいよ日本上陸となる。クーペカブリオレとなった2代目を南国リゾートハワイで試す。3分割で畳み込まれるルーフ
ボルボのオープンスポーツモデルである「C70」が新型に切り替わり、その試乗会がマウイ島で行われた。マウイといえば観光リゾート。そんな場所で試乗などできるのだろうか、ハワイへ行った経験のない筆者は一瞬そう思ったが、現地を見て納得した。
ハレアカラ山を中心とする火山島は、長い裾野が直接海に流れ込むような、船を寄せつけない荒々しい海岸線をもつ。ゆえに高低差のある曲りくねったジムカーナのような道や、標高3055mの山頂へのヒルクライムなど、走る条件的は厳しいものがある。とはいっても温暖な気候はオープンドライブにはうってつけで、C70を味わうには恰好の舞台だった。
ボルボのCシリーズはこれまで幌型のオープンであったが、新型はメタルトップの電動格納式となり、いわゆるクーペカブリオレの形式を採用する。この手のクルマの中では大型の4シーターを採るため、長いルーフを3分割して畳み込む仕組みになっている。変身が完了するまでの時間は30秒。ロックなど手動で助ける部分はなく、スイッチひとつの簡単操作だが、停止してブレーキを踏んでいることが条件という安全手続きは必要だ。
リアウィンドウはガラスで、かっちり閉まる構造上、オンとオフでは多少ボディ剛性にも影響する。もちろんオープンが前提であるから、基本的な剛性は最初から確保されているが。
新しい技術としてはハイドロフォームのフロントピラー。これは水圧を利用して成形されるという。板厚のあるパイプ状の柱がフロアの構造部にまで達している。
安全性能は期待どおり
オープンボディとはいえ、転倒や衝突に対する安全装置は、ボルボに期待するすべてがかなえられている。頭部側面衝撃吸収エアバッグは、ルーフが無いのでドアに組み込まれている。背後から飛び出すU字のプロテクションバーは、横転時のみならず強い追突の際にも立ち上がる。トップが上がっている時には、ガラスを突き破って役目を果たす。
ボルボの安全性に対する姿勢に信頼がおけるのは、単にボディを強固に造ってあることをアピールするからではない。ボディは最後の砦、その前に回避することこそ重要と考え、パニック時に手出しさせずに封じ込めるドイツ流とは異なるからだ。
外観デザインを見てもわかるように、ノーズは短めのS40/V50系の新世代ボルボの流れに沿っている。これはクラッシャブルゾーンを長く採ればいい、という古い考えから一歩進んでいることを意味している。要領よく短期に畳み込んで、衝撃を効果的に吸収してしまう構造上の利点を備えているのだ。さらにオーバーハングを詰めて、操縦安定性の面でも機敏な動きと、余計なヨー慣性モーメントを発生させず残さないという、すっきりしたクルマの動きに貢献している。
このあたりの整理された考え方は、時間をかけて段階を経て、真面目にひとつひとつ積み上げてきた技術者の見識がもたらしたものだ。鷹揚に待ち構えて蹴散らす傲慢さは見られない。
ポルシェ911より楽しい
マウイの道は舗装された部分でも、ローラーでならされた形跡のないところもある。熱帯ジャングルの周囲からは、道路に水が染みだしているし、路面の平滑度が低くミューは確保されていない。そんなところでもC70のサスペンションはよく動き接地性を助ける。
「Hanaハイウェイ」に向かう。「ハイウェイ」という文字から受ける印象とは大違い、絶え間ない操舵と加減速の連続で、両手両足は総動員させられる。それが80kmほど続くのだが、ブラインドコーナーでは大きなハマーなどが顔を出す。すれ違いに苦労する道幅だから、パニックストップもしばしば、そんな時AT車でも左足ブレーキは有効。加減速が遅滞なく行え、ターボによる過給圧の蓄えも十分でレスポンスよく対応する。新型C70は前述のように、ノーズが長からず機敏に向きを変えてくれるので、コーナリング中の軌道修正も容易だ。つまりハンドル、ブレーキ、スロットルの連携で自在にGをコントロールすることが、疲労ではなく快感に変わってくる。隣と後ろで眠っている人達を観察しながら、上体をグルグル掻き回せる(?)のだ。
気持ちよく操れるということに関して、「ポルシェ911」より楽しい。C70は単にオープンカーではなく、スポーツカーだと思う。2日目、6MTで火山の麓を一周したのは我々だけだったようだが、さらに楽しめたことは言うまでもない。
最後につけ加えるなら、オープンにするのは爽快なだけではない。この場合には重心高を下げる効果もあることで、コーナーでの動きがさらに安定するのだ。
(文=笹目二朗/写真=ボルボカーズジャパン/2006年2月)

笹目 二朗
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