日産ブルーバードシルフィ20M(FF/CVT)/20G(FF/CVT)【試乗記】
「どうしても欲しい」と言わせてほしい 2006.01.30 試乗記 日産ブルーバードシルフィ20M(FF/CVT)/20G(FF/CVT) ……234万8850円/273万7350円 5年振りにフルモデルチェンジされた、新型「ブルーバードシルフィ」。大人の女性に強くアピールしているが、使い勝手についてはコンセプトとのズレを感じるところも。2リッターモデルに試乗した。インテリアクオリティに不満
2000年8月、生産を終了した「ブルーバード」の穴を埋めるべく、「サニー」をベースに内外装を高級に仕立てて登場するや、誰もが予想もしなかったヒット作となって経営再建を進める当時の日産を支えた「ブルーバードシルフィ」。二世代目は、今度は最初から期待を一身に背負い、力を入れて開発されたモデルである。何でも、最近の開発期間短縮の流れの中で、コンセプトの練り上げには多くの時間がさかれたという。
“40歳代の大人の女性が運転して似合うクルマに”という狙いで、そのスタイリングはさらに上級車種である「ティアナ」などとの連続性を感じさせる、やわらかな雰囲気に仕立てられる。全長は先代より115mm長い4610mmに拡大されたが、全幅は1695mmと5ナンバー枠をキープ。しかし2700mmのホイールベースによって、シーマをも凌ぐ室内長を獲得した。
実際その広さは相当なものだ。特に後席の足元スペースは、一瞬落ち着かない気分になるほど。丸みを帯びたシェイプのシートも、サイズ自体大ぶりでかけ心地も悪くない。
一方、最近の日産が力を入れているはずのインテリアのクオリティは、率直にいってまだまだ不満。木目調パネルは相変わらず「調」だし、樹脂パネルの質感も“高級”には程遠い。雰囲気はモダンリビングというより、ホームセンターに並ぶ安価な家具のようだ。
拡大
|
拡大
|
パワステもCVTも良くなった
対して、走りっぷりは思いのほか好印象だった。いわゆるプラットフォームは「マーチ」や「ティーダ」と共通だが、制御ロジックをすべて見直したという電動パワーステアリングは、ようやく自然で心地よい操舵感を手に入れたし、スタビリティもまずまず。明確なアンダーステアの躾けだが、基本性能としての安定性も高そうである。
乗り心地は、15インチ仕様である「20M」のほうが路面の細かい凸凹を終始拾い続ける落ち着かない印象だった。これはカタログスペックでの燃費を重視したタイヤのせいだろう。16インチタイヤをはいた「20G」になるとかなり滑らかになるが、それでもまだ満足はできない。ウリのひとつであるリップルコントロールショックアブソーバーは、まさにこの領域の乗り心地にこそ効かなければならないのだが。こちらも今のところカタログを賑やかす効果だけだ。
試乗した2リッターモデルなら、動力性能は十分以上。それには熟成度の高まってきたCVTの貢献も大きそうだ。ただし残念なことに、静粛性は期待値に届かない。遮音云々の前にエンジン音自体、もう少し心地よいものであってくれればいいのだが。
使い勝手の面でも、60mmの調整幅を持つシートリフターや、ヘッドランプ上のマーカー、つまみ上げられたトランクリッド後端の処理によって四隅の見切りに配慮したり、周囲の状況を検知して内外気を自動で切り替えるなど、真面目な作りをアピールする部分は少なくない。しかし一方で、トランクリッドの裏に取っ手がなく閉める際にボディパネルに触れる必要があったり、足踏み式パーキングブレーキを解除する時、膝を大きく曲げなければいけなかったりと、ごく簡単な部分に、“大人の女性に……”というコンセプトからすれば腑に落ちないところも多々見られる。
拡大
|
拡大
|
将来まで愛してもらえるのか?
デザインにしろ装備にしろ、ユーザーの声に大いに耳を傾けるその姿勢は大いに評価したい。しかし、スペックに表れない部分、特に実際の使い勝手については、どうもおざなりなところが目につく。逆にいえば、ユーザーが欲しいと意思表示しなかったものは簡単に切り捨てられているのではと思えるほどに。
それでも多くの潜在顧客は、言葉は悪いが騙せるのかもしれない。しかし上級セダンから移行しようかという、つまりより良い物を知る人には、その背景はすぐに見破られてしまうのではないか? マーケティングで導き出した想定潜在ユーザーのニーズにばかり目を向けては、今は売れたとしても、はたして実際に購入したユーザーに、将来まで日産のセダンを愛してもらえるようになるのか、大いに疑問だ。
最初にターゲットは40歳代の女性と書いたが、それはつまり夫婦でクルマを選ぶ場合、最後の決定権は妻が握る場合が多いということを考慮してのことだという。なるほど、女性すなわち妻へアピールするのはいいだろう。けれど本当にしなければいけないのは、どうしてもこれが欲しいんだとオトコが奥様を説得したくなるようなクルマを作ることではないか? 本質的な意味でそういう資質を備えたクルマならば、きっと女性からも支持されるはずである。
(文=島下泰久/写真=高橋信宏/2006年1月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】 2026.10.17 三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。
-
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】 2026.10.16 欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。
-
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】 2026.10.13 電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
NEW
トヨタ・ランドクルーザー“300”GRスポーツ(4WD/10AT)【試乗記】
2026.10.19試乗記トヨタの「ランドクルーザー“300”」にハイブリッドパワートレイン搭載モデルが登場。環境負荷低減のために牙を抜かれた……どころか、電気の力を味方に、さらに力強さを増しているから面白い。愛知県のオフロードコースで乗った印象をリポートする。 -
NEW
フェラーリが「日本上陸60周年」 記念祭から“ブランドの今とこれから”を読む
2026.10.19デイリーコラム「日本上陸60周年」を祝うファン感謝イベントを開催したフェラーリ。自動車界に燦然と輝くハイブランドは、いま何を目指しどこに行こうとしているのか? 経営トップの談話を交えながら推察してみよう。 -
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。



















