ヒュンダイ・グレンジャー3.3GLS Lパッケージ(FF/5AT)【試乗記】
長期戦を覚悟せよ 2006.01.28 試乗記 ヒュンダイ・グレンジャー3.3GLS Lパッケージ(FF/5AT) ……339万1500円 ヒュンダイの最上級セダン「XG」の後継である、フラッグシップ「グレンジャー」が日本上陸。破格の価格を武器にする韓国車に、それを受け入れる日本市場に必要なこととは……。アラを探す必要はない
2001年に日本に導入された、ヒュンダイのトップモデル「XG」。その後継車として、「グレンジャー」(壮大、壮麗なという意味。本国ではXGもこう名乗っていた)が発表された。ボディサイズは全長が4895mmと、XGよりも少しサイズアップがなされ、ライバル視している「トヨタ・クラウン」よりもルーミーなサイズを誇る。
3.3リッターV6エンジンを横置きに搭載、5段ATを介してフロントタイヤを駆動する。足まわりにはフロント・ダブルウィッシュボーン/リア・マルチリンク式のサスペンションが奢られる。
室内に目を移せば木目のインパネと黒光りするレザーシート。高い質感を持つだけでなく、だめ押しの価格設定でその存在を強くアピールする手法は、先代から受け継がれるコンセプトだ。
しごくまっとう。言い換えればスーパーコンサバな外観を見渡した後、実際にシートに腰を下ろす。外気温が下がった取材当日、シートヒーター付きの柔らかなレザーシートは、感じよくボクを迎えてくれた。インテリアはホンダとBMWを混ぜ合わせたように、彫りの深い切り立ったフェイシアであったが、隅々の質感が整っているためにネガティブな印象は全くない。むしろ握り心地のよいウッドステアリングホイールなどは、ウッドと名の付くものがついていればよいと考えているような国産車よりも好感が持てる。
ほぅ、とうなってクルマを走らせれば、V6ラムダユニットはシュンと快音を発する。いまどき低回転域のトルク確保が主流の実用車の中にあって、ボア×ストローク=92.0×83.8mmというショートストロークのエンジン設計は高回転を得意とするタイプ。しかし、もともとの3.3リッターという十分な排気量のおかげで、むしろ出だしに過剰なトルク押し出し感もなく、粛々と街中を走る。段付き感のない5段ATをときおりシフトして遊びながら、試乗会の行われた成田〜富里インター間のハイウェイに乗れば、先に述べた高回転を好む特性が、追い越し加速では若々しいビートを刻む。見た目の印象とは多少ちぐはぐな走りだが、誰もが構えるであろう“韓国車”へのファーストコンタクトは、実に爽やかにクリアされたのであった。
こんなクルマで緊急回避テストもないだろうし、気になったのは目地を乗り越えたときのフロアの微振動だけであった。装着タイヤはハンコックであったが、ブロック剛性にこだわる国産タイヤを装着したら、振動はさらに大きくなるのは予想できた。
やっきになってアラを探す必要がないならば、目の前に広がる景色がどう映るかを考える。つまり、このグレンジャーを購入することでどんな生活が見えるのか、だ。
薄い訴求力
こと走りにさしたる問題がないのであれば、問題はやはり外観だ。ハッキリいえば、日本においてグレンジャーは輸入車としての存在感を出せていない。しかしそのコンサバティブネスは、メインストリームである韓国国内や北米などで「奇をてらわない」シックなデザインとして受け入れられている。ここに、日本と世界とのズレが生じるのだ。
輸入車を買う日本人は、異文化の価値観も同時に買っている。もっといえば日本人は物珍しさを買うのだ。歴史を築いたメルセデスやBMWは、いまでこそ見慣れたが当初はインパクトの固まりだった。つまりグレンジャーには、セックスアピールが少々足りない。
価格の安さも魅力のグレンジャー。しかしそこにもヒュンダイと日本とのズレがでる。3.3GLSが299万2500円。3.3GLS Lパッケージが339万1500円という価格は、輸入車としてこのセグメントを見たときは破格のプライスである。そして、ライバルであるクラウンの、マジェスタを視野にいれても破格だ。だが正直な言い方をすれば、そのワンランク下の国産車(「ホンダ・インスパイア」「日産ティアナ」等)と同価格帯、という位置づけは微妙ではないだろうか。同価格の国産車より魅力があるかと問われると、正直厳しい。
かつ、国産車と真っ向勝負するにはディーラー網が圧倒的に足りない。「壊れないよ」と言うかもしれないが、浸透させるためにもインフラは必要不可欠。トヨタが誇ったシェア40%は、ディーラーマンの足が稼ぎ出した数値だということを忘れてはならない。
お互いの理解が必要
しかし、なぜ、そうまでしてヒュンダイは日本市場にこだわるのか。聞くところによると、世界では「日本で成功することが、世界での成功の証」という神話じみた話があるという。本当にそうか? 日本人はそんなに自動車を理解しているのか。
我々の多くは、シェア244万台というヒュンダイの世界での成功を知らない。すでに世界では、ハイセンスでグローバルなイメージ構築が進められていることをほとんど理解していない。それを日本市場が理解できれば、グレンジャーの価格設定が本当に破格なのだと実感することができる。
それと同時に、ヒュンダイもまた、我々の“保守的なのに舶来モノに弱い感覚”がわかっていない。いまお互いの意思を疎通させるためには、まずはコンセプトSUV「NEOS」のような、わかりやすい商品展開で目を引き、とにかくヒュンダイ車に乗せてしまうことが必要だ。
現状のままで日本市場を攻めるのだとしたら、本気で長期戦を構えてきてほしい。その品質の良さと価格の安さを伝える努力をしてほしい。自分のような数奇者に、「いまこれを格好良く乗れたら面白いかも」などと思われているウチは、真のメジャーにはなり得ないのだから。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/2006年1月)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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