ボルボV70R(4WD/6AT)【試乗記】
「300馬力、400ニュートン」だけじゃない 2006.01.19 試乗記 ボルボV70R(4WD/6AT) ……751万2000円 これまでは限定モデルだったボルボ「S60」「V70」に設定される「R」シリーズが、06からカタログモデルになった。新しい「V70R」に、雪の鹿児島で試乗した。モンスターと競う気はない
ついに、「R」がボルボのラインナップに加わることになった。これまでは限定モデルとして販売されてきた「S60R」「V70R」が、いつでも買えるモデルとしてカタログに載るのだ。いよいよボルボもハイパワー競争に参戦するのか、というと、そういうわけでもない。Rといっても、意味するところは「レーシング」ではなく「リファインメント」であるというのが、ボルボの主張である。「ドイツのモンスターと競う気は毛頭ない」と、明快な説明があった。
もちろん、ボルボ最強のモデルであることは確かで、直列5気筒2.5リッターエンジンはハイプレッシャーターボを得て300馬力を誇る。この数値は従来どおりなのだが、最大トルクは05モデルから14パーセント向上し、40.8kgm(400Nm)となった。「300馬力、400ニュートン」というのが、06モデルのキャッチワードである。
そのほかにも、いくつかの変更点がある。アイシンAW製のオートマティックトランスミッションが5段から6段になり、CVC(コンプリート・ビークル・コントロール)システムによりエンジンと一体となって制御される。もちろんギアトロニック仕様で、マニュアルモードを備える。他のモデル同様、プレチャージ式電子制御AWDシステムを採用した。新専用色としてソニックブルーパールとエレクトリックシルバーメタリックを採用したのも、新しい要素だ。試乗したのは、ソニックブルーパールのモデルである。
DTSCオフを選択できるが……
さあ、「300馬力、400ニュートン」の威力を存分に試そうではないか。試乗地は鹿児島で、ここには指宿スカイラインという素敵に楽しいドライビングのステージが用意されている――と意気込んでいたのだが、朝起きてみると窓からの景色は白一色。思いきり雪が積もっているではないか。全国的な寒波の影響で、鹿児島は1917年(ロシア革命の年!)以来の記録更新となる11センチの積雪なのだった。テレビのニュースは、高速道路の全線通行止めを伝えている。
それでも雪は小降りになりつつあるし、なんとかなるのではないかとあてのない希望を抱きつつ出かけることにした。DSTC(ダイナミック・スタビリティ&トラクション・コントロール)によって、滑りやすい路面でも安全なはずだ。ただ、Rシリーズはボルボとしては異例なことに、このシステムをカットする機構が備えられている。DSTCのボタンを一度押すと制御の介入のタイミングが遅らされ、1秒間隔で5度押すと完全に解除されるのだ。
つい、DSTCなしではどんな挙動になるのか確かめたい、という衝動に襲われる。ボルボらしく間違ってカットしてしまわないように万全が期されていて、少しでもボタンを押すタイミングがずれるとシステムは反応しない。とりあえず、DSTCオンのままシャーベット上の雪の上でステアリングを切りながらアクセルを強めに踏み込んでみると、いきなりズルッと横に移動した。電子制御だけで乗り切れるような状況ではないらしい。無謀な試みは思いとどまり、慎重に雪道を行くことにした。
速さでなく、高級感を味わう
当初は阿蘇山あたりまで足をのばそうと思っていたのだけれど、高速道路が動かないのだからどうにもならない。下道をゆるゆると走って、桜島を目指すことにした。速く走れなくても、V70Rにはほかの魅力もある。シリーズ最高峰という位置づけだけに、インテリアも高級感が演出されたものになっている。メーターはRのシンボルカラーであるメタルブルーに輝いていて、一目でこのクルマのキャラクターが見てとれる。シートはR専用のスポーツシートで、セミアニリン仕上げにメタリックフィニッシュを施したものだ。オプションの「エクスクルーシブ・ナチュラルハイド」(21万5000円)を選べばさらに高級感のあるシートを手に入れられるが、標準仕様でも十分にゴージャスだ。
ハーマンカードンのプレミアムサウンド・オーディオシステムでマドンナのCDを聴きながら、ゆったりとした空間に包まれながら海岸線を行くと、真っ白に雪化粧した桜島が見えてきた。異様な光景である。相変わらず雪は降り続いていて、時折強い風が流れてきて吹雪のようになる。道をゆくクルマの数は少なく、みんなゆるゆると走行している。桜島に入るとさらに積雪の量が増した。山の上のほうに行ってみたかったのだが、登山道はどこも通行止めだ。仕方なく、フェリーに乗って対岸の鹿児島市に渡って帰ることにした。
そんなわけで、「300馬力、400ニュートン」の半分も使うことなく試乗を終えたのである。Rシリーズに装備された「FOUR-C」と名付けられたアクティブサスペンションには「コンフォート」「スポーツ」に加えて「アドバンスドスポーツ」というモードがあり、その熟成ぶりも試したかったのだが、それもかなわなかった。
試乗の途中で、コーナーでコントロールを失ったのか、コースアウトして停まっているクルマを見かけた。雪なんてめったに見ない土地柄なのだから、無理もない。そんな状態の中で、さほど神経を使わずに安全に走れたということだけは確認できた。リファインメントたる理由の一端は見ることができたと、自分に言い聞かせることにしよう。しかし、正直なところRの別の側面をしっかり見る機会をぜひ持ちたい、と強く感じたのは致し方あるまい。
(文=NAVI鈴木真人/写真=高橋信宏/2006年1月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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