オペル・スピードスター(5MT)【海外試乗記】
『スパイダーのごとく』 2000.08.30 試乗記 オペル・スピードスター(5MT) 1999年のジュネーブショーで披露され、話題を呼んだオペル版ロータス・エリーゼことスピードスター。市販開始に先立ち、モータージャーナリスト河村康彦が、フランスはストラスブルクでテストドライブ!
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日本導入にあたっての難点
オペル社の自動車生産100周年記念という意味が込められた同社初のミドシップカーが、オペル・スピードスターだ。
年間計画生産台数3000台。うち、イギリスとドイツがそれぞれおよそ1000台ずつ。「残りをそれ以外の各国が奪い合うことになる」という。生産は、ロンドン北東約150km、「ヘゼル」にあるロータスの工場で行われる。そう、オペル・スピードスターは、英国のロータスエンジニアリング社との共同開発によるものなのだ。
アルミ製の基本骨格はロータス・エリーゼのそれと同一で、これにオペル製のランニングギア(エンジン+ミッション)と専用デザインの25枚のFRP製パネルを組み合わせたのがアウトライン、ということになる。
前後の「稲妻」エンブレムがなければとてもオペルの作品とは思えないほどアグレッシブなルックスのキャビンは、もちろん、思いきりタイト。アルミ製の骨組みの中に体をスッポリ捻じ込む、という感覚は、やはりエリーゼと同じ印象だ。それでも、オーディオやABS、ドライバーズ・エアバッグなどエリーゼにないアイテムが与えられたのは、スピードスターがオペル・ブランドを名乗るからだろう。ただし、たとえこうしたクルマであってもエアコンが付かないというのは、日本導入にあたっては事実上最大のネックと言わざるを得ないと思うが……。
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見た目には物足りないが……
アストラクーペから移植された2.2リッター「ECOTC」ユニットは、オペルユニットの例に漏れず低回転域トルクが太く、特に重くもないクラッチを介して、あっけないほど簡単にスタートが切れる。かと言って、回してつまらないエンジンというわけではないから誤解なきよう。3500rpmを越えたあたりから、さらに一段増しのパワーの伸びを感じることができるのだ。ただしピュアなスポーツカーとしては、いかにも実用車風のサウンドが何としても物足りない。
このクルマの走りの最大の特徴は、フットワークのよさ。地を這うように低いボディと、相対的に広いトレッド。そして絶対的に軽い重量のお陰で、スピードスターの車輪はまさにスパイダー(=蜘蛛)のごとく路面をつかんで放さない。175/55R17と、見た目には少々物足りない細いフロントタイヤだが、実はコレが優れた前後グリップバランスを生み出している秘密のひとつのようだ。ちなみに、リアは、225/45R17だ。
意外だったのは、乗り心地が覚悟をしていたよりも遥かにスムーズでこなれたものであったこと。このあたりにも「オペル」のスポーツカーとしての性格付けが与えられているのだろう。
(文=河村康彦)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。