TVRサガリス(FR/5MT)【試乗記】
「買う人は買う」だけじゃなく 2006.05.02 試乗記 TVRサガリス(FR/5MT) ……1374万5500円 徹底した軽量化とハイパワーを両立し、そのデザインから“公道を走るレーシングカー”と謳われる「TVRサガリス」。古典的構造のシャシーが気になるのだが……。夢に描いていたクルマ
これってスーパーカー少年がその昔、夢に描いていたクルマを、本当にカタチにしてしまったようなクルマだな……と、僕はTVRのモデルを見るたびにいつも思う。このサガリスの場合、吊り上がった凶暴な目つきやノーズ左右でワイド感を強調するエアインレット、フロントフェンダー上の切り込みなど、エグいディテールを満載している。強烈な存在感を放つエクステリアは、協調性だとか引きの美学とかというよりは、やってみたいこと全部やってみました! という感じが色濃い。
けれど、それが好き嫌いは別にして、とりあえず子供じみたものに見えないのは、そこに捧げられた情熱がおそらく本物であること、そしてスポーツカーとして真摯に自分達なりの理想を追求していることが伝わってくることのおかげだろう。
そんなわけで、敬意を払って乗り込むサガリス。詳細なインフォメーションは無いのだが、基本骨格は「T350c」と見え、コクピットの意匠はそれとほぼ共通である。そして、張り巡らされたロールケージまで全面革張りのこの有機的な曲線で構成された空間が、エンジンを始動するや爆音で満たされるのも、やはり一緒。タイトに決まる運転姿勢とあわせて、気持ちが妙にたかぶってくる。
指一本分の操作にも鋭く反応
「タスカンS」などと同じ最高出力375psとされたTVR自社製の直列6気筒4リッターユニットは、ECU制御された今時のエンジンには珍しく、ある程度の暖気を必要とする。コールドスタートの後しばらくはアイドリングが安定せず、すぐにストールしてしまうからで、にぎやかな排気音が後ろめたいが仕方がない。焦らず、回転が安定したのを見て走り出すと、しかしきっと待った甲斐はあったと実感できるはずだ。
印象の多くを支配するのは、やはりエンジンである。そのフィーリングは、まるでレーシングエンジン。レスポンスは恐ろしく鋭く、短い周期で右足のオンオフを繰り返しても、しっかりついてくる。アイドリング付近では回転はややラフだが、スロットルを踏み込むと、シューンという味気ない感触ではなく、ギューンと目の詰まったサウンドとバイブレーションが味わえる。回転数が高まるにつれてコマ回しのコマの如く芯が出て、ますます粒が揃っていく。記憶にある「T350c」や「タモーラ」の3.6リッターに較べると、排気量を拡大しているせいか滑らかさでは劣るが、そのかわりトルクの爆発力は明らかに上回っていて、迫力は凄まじい。
コーナーワークも予想以上に良かった。ロック・トゥ・ロック2回転とクイックな電動油圧アシストのステアリングの手応えは剛性感に満ちていて、指1本分の操作にも鋭く反応が返ってくる。そうやって切り込むと、すかさず旋回姿勢に入るキレ味の良さはさすがTVR。慣れるまではちょっと戸惑うが、挙動自体は安定しているため不安感は無い。トラクション性能も高く、アクセルを踏み込めば後ろから押し出すような脱出加速を楽しめる。T350cなどでは、パワーとハードなサスペンションに対してタイヤ性能が足りず、低い限界でピーキーな動きが出ることがあったが、サガリスは相応のタイヤ(グッドイヤー・イーグルF1)を得て、走りが洗練されたようだ。古典的なフレーム構造でも、まだまだイケるという感じである。
幅広い訴求のためには
暖まるまでのエンジン回転の不安定さに最初はおののくものの、調子が出てくれば、扱いに不便を感じることは無いはずだ。ステアリングもそうだし、オルガン式のペダルもクラッチの重さ含めて操作に問題はない。ブレーキもバッチリ効く。ボディがコンパクトな上に視界が良いこと、さらには右ハンドルだということもプラス要因だ。
逆に気になるのは、空調の効きが悪い上に、ボディ形状のせいか窓を開けても換気がイマイチなこと、アルミ製のシフトノブが走っているうちに熱くなってくること、内装がカタカタといっていることくらいだろうか。こういうクルマを買う人は、それでもきっと買うのだろうと思うが、もしもっと幅広く訴求していこうというのであれば、このあたりはそろそろ考えなければいけないだろう。
とは言いつつも、エンジンの熱気のせいでボンネットから立ち上がる陽炎をフロントウインドウ越しに見ていると、やっぱりあんまり洗練されたら、それはそれでツマラナイかな、なんて思ったりもするのだが。
(文=島下泰久/写真=高橋信宏/2006年5月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
アウディQ3スポーツバックTFSIクワトロ150kWアドバンスト(4WD)【試乗記】 2026.8.31 フルモデルチェンジした「アウディQ3スポーツバック」に試乗。プラットフォームやパワートレインこそ従来型の改良版ではあるものの、内外装のデザインやインフォテインメント、効率性のすべてにおいて大幅な進化を遂げたという。その仕上がりやいかに。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(4WD)【試乗記】 2026.8.29 「トヨタbZ4X」にワゴンのようなロングボディーを持つ「ツーリング」が登場。ただ長くなっただけではなく、今回試した4WDモデルではパワーもアップ。乗り味にも微妙な影響を及ぼしているから見逃せない。経路充電を試しつつ、370km余りをドライブした。
-
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.25 BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。
-
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】 2026.8.25 カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。
-
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2026.8.24 スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。
-
NEW
スポーツカーに未来はあるか?
2026.9.1あの多田哲哉のクルマQ&A年々、開発環境が厳しくなるといわれるスポーツカーは、この先も存在しうるのか? トヨタのエンジニアとしてさまざまなスポーツカーを開発してきた多田哲哉さんに“未来のスポーツカー像”を聞いた。 -
NEW
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】
2026.9.1試乗記2020年のデビュー以来、間断なく進化を続けてきたコンパクトスポーツの「トヨタGRヤリス」。一般ユーザーの間ではもちろん、コンペティションの世界でもチューニングのかいわいでも光を放つ一台は、2026年モデルでどう進化したのか? その走りを報告する。 -
“自然を連想する車名”の名車特集
2026.9.1日刊!名車列伝暑さが和らぐ一方で、台風シーズンとも呼ばれる9月。その風をはじめ、星座、景観など自然を連想させる名前が与えられた、世界の名車を日替わりで紹介します。 -
興味があるのはたったの3割!? 自動車業界を揺るがすSDVやAIって本当に必要なの?
2026.8.31デイリーコラム自動車も、スマホのように機能がアップデートできるようになる! ……ということで注目されるソフトウエアディファインドビークル(SDV)だが、日本のユーザーの多くが「いらない」と思っていることが判明! 急速に進むデジタル技術の、必要性について考えた。 -
第343回:おやじ、涅槃で待つ
2026.8.31カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。ちまたでの評判がよく、売れ行き好調の新型「日産キックス」に試乗した。その出来はカーマニアをも満足させる評判どおりのもので、新車購入のきっかけにもなった。え? 購入したのはキックスではない? -
アウディQ3スポーツバックTFSIクワトロ150kWアドバンスト(4WD)【試乗記】
2026.8.31試乗記フルモデルチェンジした「アウディQ3スポーツバック」に試乗。プラットフォームやパワートレインこそ従来型の改良版ではあるものの、内外装のデザインやインフォテインメント、効率性のすべてにおいて大幅な進化を遂げたという。その仕上がりやいかに。


