フォルクスワーゲン・ゴルフ トゥーランGLi(6AT)【試乗記】
使って頼れる“いい道具” 2005.09.25 試乗記 フォルクスワーゲン・ゴルフ トゥーランGLi(6AT) ……350万1750円 輸入車の2リッターミニバン(ワゴンではあるが)代表として選んだ「VWゴルフ トゥーラン」。昨今のVWが歩む“スポーティ”“豪華”とは一線を画す、質実剛健な輸入ミニバンの実力は?欧州発、輸入ミニバンの先鋒
ミニバンが猛威を振るっているのは、もはや日本だけの話ではない。ヨーロッパも今、その波の真っただ中にある。考えてみれば、昔ほどではないにせよ、やはり合理主義的なヨーロッパの人々にとって、同じ面積でより広く使えるミニバンというかモノスペースがもてはやされるのは当然かもしれない。
日本名「ゴルフ トゥーラン」も、そんな波に乗って生まれたモデルである。車体の基本骨格は、フツウのゴルフと共通。そこに全長、全幅ともざっと150mm近く伸ばしたモノフォルムのボディを載せたというのがトゥーランのあらましなのだが、そのスタイリングから受ける印象はずいぶん違う。もはや合理主義の産物としてではなく“ブランド品”として立派に豪華に見せんとするゴルフとは裏腹に、トゥーランのフォルムは、質実剛健という言葉をひさびさに引っ張り出してきたくなる、実直そのものの雰囲気を湛えている。パネル面の合わせ精度や塗装の厚み等々、クオリティは最近のフォルクスワーゲンらしく最高だが、ハッキリ言って華はまったくない。けれど、これでこそフォルクスワーゲンと膝を打つ人も多いんじゃないだろうか。
かつてのゴルフのよう
というわけで、フォルクスワーゲンのファンや輸入車好きにとっては文句のつけようのない完成度を見せるゴルフトゥーランだが、それではミニバンとしての快適性や使い勝手はどうか。
2列目シートは3席が独立しており、それぞれに座面ごと前に引き起こしたり、取り外したりすことができる。中央席を取り外して、左右席を少しずつ内側に寄せれば2名のための広々とした空間を生み出すことも可能だ。ただし、シートはしっかりしている一方でかなり重いから、女性ユーザーが着脱するのはまず無理。オトコの僕だってやりたくない。日本で現実的に使われるのは前方に引き起こして荷室を広げるぐらいまでだろう。起こしたシートは、シートが突然戻ってきて荷物や足などを挟まないよう剛性感あるステーにて支えられる。このあたりの律儀さはさすがだ。中央席に3点シートベルトとヘッドレストがしっかり備わるのも評価したいポイントである。
3列目は床下に格納してフロアをフルフラットにすることができるが、使用時のラゲッジスペースは全長が短いこともあって121リッターとミニマム。一方で、2列目シートを外してしまえば最大1913リッターものラゲッジスペースを確保できるのは立派だ。ワンタッチとか簡単という言葉とは無縁だが、単にシートアレンジや使い勝手に対する考え方が違うということなのだろう。
ベクトルが違う
スクエアなボディ形状のおかげで居住性は2列目はもちろん3列目も悪くない。ただし、着座位置は低めなため開放感には乏しいし、乗り心地も路面の細かな凹凸を拾いがち。ロードノイズの侵入も小さくないなど、いわゆる快適性は少なくとも日本の使用環境では日本のミニバンには叶わない。しかし腰高感のない地に足のついた乗り味は、高速移動の際などには無類の安心感に繋がるのも、また事実だ。
ゴルフトゥーランの実用本位の内外装は、絢爛豪華な、あるいはファッション性を重視した日本のミニバンのそれとはまったく逆のベクトルを向いているように見える。シートアレンジや使い勝手にしてもそう。止まっているときよりも走ってどうか、使いやすいかどうかよりも使い込んでみてどうかが、そこでは優先されている。カタログを眺めながらアレコレ使い方を想像する段階では面白味を欠くかもしれないが、実際に使ってみると実に頼れる、そんな“いい道具”に仕上がっている。
そんなに大きな夢は見られないかもしれないけれど、現実をよりよきものにしてくれるミニバン。それはあるいは、輸入車、フォルクスワーゲンというブランド性も含めて。トゥーランとは、そんな存在ではないだろうか。
(文=島下泰久/写真=高橋信宏/2005年9月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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