三菱ランサーエボリューションIX GT(5MT)【ブリーフテスト】
三菱ランサーエボリューションIX GT(5MT) 2005.08.11 試乗記 ……365万2890円 総合評価……★★★★ 三菱が誇るスポーティセダン「ランサーエボリューション」。“IX”に進化すると同時に加わった、快適&お買い得(?)な「GT」グレードの印象やいかに?
![]() |
実に痛快!
「スポーツセダン」を名乗るクルマはたくさんある。280psはもはや珍しくないし、ヨーロッパ勢なら400ps、500psなんてモデルもある。そんななかでもこのランサーエボリューションIXは実に痛快!
その一番の理由は、軽量コンパクトにまとめ上げられたことにある。大きく重たいボディに大排気量エンジンを詰め込んだクルマとはまるで正反対の成り立ちは、“スポーツカーは軽いが一番”ということを思い出させてくれるのだ。
フロントグリルのど真ん中、台座の上にスリーダイヤが鎮座する“ブーレイマスク”をあっさりやめて、ずいぶんとすっきりした面構えになった。セダンとしてのフォルムにいまひとつ魅力が感じられないけれど、「それでもいいや」と割り切れるだけの楽しさがこのクルマにはあると思う。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
言わずとしれた、三菱が誇るスポーティスペシャルモデルが“ランエボ”こと「ランサーエボリューション」。2005年3月に進化した現行「IX」は、1992年10月にデビューした初代エボリューションから数えて9世代目にあたる。
VIIIからIXへのバージョンアップの主な内容は、ターボチャージャーの改良、GSRとRSの中間に位置する新グレード「GT」の追加設定、“ブーレイ顔”を廃した新しい前後バンパーデザインなど。機関面では、吸気側カムに可変バルブタイミング機構「MIVEC」を与え、マグネシウム合金製のコンプレッサータービンをGT/RS(GSR にもオプションで装着可能)に採用し、最大トルクが41.5kgm/3000rpmへと太くなった。
(グレード概要)
新たに追加された「GT」は、「GSR」の快適装備と「RS」の動力/駆動システムが与えられた廉価グレード。タイヤも快適方向に寄った性能となっている。こちらは2005年WRCグループNのホモロゲーション取得予定モデルでもある。
装備が簡素な「RS」に較べ、プライバシーガラスやハロゲンヘッドライト、間欠式フロントワイパーなどを標準装備。インテリアは、レカロ製バケットシートやカップホルダー付きセンターアームレスト(リア)などの快適装備が付与される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
黒を基調としたインテリアは、カーボン調パネルやMOMO製3本スポークステアリングホイールなどによりスポーティで無駄のない印象のデザインにまとめられている。メーターパネル中央の大型レブカウンターは、目盛りの間隔が狭いわりに指針が太いので、細かい回転数が読みとりにくい。その左にはフルスケール270km/hのスピードメーターが並ぶ。オートエアコンは標準装備で、試乗車にはオプションのカーナビが付くが、コクピットの古くささと色気のなさは否めない。
(前席)……★★★
「RECARO」のロゴが誇らしげなフルバケットシートは、ショルダー部分を除き、スエード調の素材が用いられるのがこのGTの特徴だ。サイドサポートの張り出しは大きいが窮屈な感じはなし。座り心地は硬めで、サポートも良好。ランバーサポートは備わらないが腰の部分はしっかりと支えてくれる。サイドサポートが大きいために、リクライニング調整のダイヤルが回しにくいのが気になる。
体型にもよるが、私の場合、ペダル位置から前後スライドを決めるとどうしてもステアリングが近くなってしまう。ステアリングにテレスコピック調整機能がほしい。
(後席)……★★
フロントに大柄のレカロ製フルバケットを収めたため、リアシートの住人は視界が阻まれ、やや圧迫感を覚えるだろう。コンパクトなボディのわりにレッグスペースは広いが、後頭部にリアウィンドウが迫っており、申し訳程度のヘッドレストしか用意されないこともあって、なんとなく落ち着かない場所になってしまった。
(荷室)……★★★
大げさなリアスポイラーが備わるにもかかわらず、想像に反して軽いトランクリッド。よく見ると、リアスポイラーの水平部分はリアルカーボンだった。
トランク内部は奥行きこそ90cmあるが、リアサスペンションの張り出しが大きいため、広い感じはしない。高さが確保されているのがせめてもの救いだ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
排気量2リッターのターボとはいえ、低回転域から豊かなトルクを発揮するランエボIXのエンジンは、1500rpmも回っていれば十分実用的だ。街中ならアクセルペダルをせいぜい1/3ほど踏んでいれば事足りてしまい、3速、1500rpm=30km/hでも実にフレキシブルだから、短いストロークでカチッと決まるシフトを多少サボっても大丈夫だ。
それじゃあ宝の持ち腐れと、ワインディングロードで思い切りアクセルペダルを踏み込めば、まさにどの回転数、どのギアでもぐいぐい加速させる頼もしさを持っている。カタログ上は3000rpmで最大トルクを発揮するが、体感上は3000rpmを越えて4000rpm、そして5000rpmと勢いは衰えることなく、レッドゾーンの7000rpmまで胸のすく加速が続くのだ。それでつい時間を忘れてワインディングロードを走ってしまったが、ブレーキのタッチに変化が見られないのは心強かった。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
235/45R17のハイグリップタイヤが装着されたランエボIXの乗り心地は明らかに硬いが、街なかでも直接ショックを伝えてこないのはビルシュタインの流儀といえる。首都高速の目地段差を通過するような場合も、伝えてくるショックはなんとか許せるレベル。高速走行時のフラット感は十分である。
このGTにはコーナー入口で回頭性を高めたり、コーナー出口でアンダーステアを軽減する「スーパーAYC」は装着されないけれども、ブレーキやアクセルでフロントに荷重を移動してやれば、面白いほどスパッと曲がっていく軽快さがある。反対に軽くアクセルペダルを踏んでいれば安定した動きを保つから、腕によらず速く走れるクルマだといえる。もちろん、自在に振り回してこそ、ランエボIXの楽しさが満喫できるのだが。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2005年7月28日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2005年型
テスト車の走行距離:7354km
タイヤ:(前)235/45R17(後)同じ(いずれもアドバン A046D)
オプション装備:ディスチャージヘッドライト+フロントフォグランプ=8万4000円/プライバシーガラス=2万6250円/ナビゲーションシステム=22万4640円
走行状態:市街地(2):高速道路(4):山岳路(4)
テスト距離:283.2km
使用燃料:48リッター
参考燃費:5.9km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。