BMW Z8(6MT)【試乗記】
『爛熟期の華』 2000.10.06 試乗記 バイエルンのスーパーロードスター、Z8に乗る。 ロングノーズがノスタルジックな雰囲気を醸し出すBMW Z8。反面、フロントオーバーハングの短さが、いかにも「現代版」507である。3たびボンドカーに抜擢されたBMWのハイエンドスペシャルティ。鼻先からフロントスクリーンまでのまのびしそうな側面を、エアアウトレットでキリリと引き締める手法も507ゆずり(ただし、クロムメッキを施されたアウトレットはダミー。ミサイルも発射されない)。M5からの400psユニット、5リッターV8を歌わせて、2日間をともにした。ドアを開けたら
「どうしてBMWのヒトは、キーが本来のモノでないことをクドクドと説明したのだろう」といぶかしく思いながら、幌を上げたBMW Z8のドアを開けると……ウワアァァ!。そこは、「レトロ」の水びたし。
ダッシュボードには黒い樹脂製のパネルがわたされ、精神的なルーツである1950年代の名車、507の鉄板剥き出しのインストゥルメントパネルを再現している。祖先とは異なり、速度、回転計といったメーターはセンターに配されるが、エアバッグを組み込んで「よくぞここまで」と感心する、クラシカルなデザインのステアリングホイールとあわせ、車内はみごとに懐古調で統一される。
内装は、タンの革仕様。ステッチのひとつひとつが美しい。
なるほど、ステアリングホイール右奥に差された他のBMW車と共通のキーは、いかにも無粋だ。「国ごとに細かい規制がありまして」と広報担当者が顔をしかめるのもむべなるかな。
4本のシリンダーにかえて
BMW Z8は、映画007シリーズ「ワールド・イズ・ノット・イナフ」でスクリーンデビューを果たしたオープンモデル。
全長4400mm、ホイールベース2505mmは、507の4380mmと2480mmに近いけれど、現代のクルマらしく、つまり格段に増大した出力を受け止めるべく、1830mmの全幅と、1550/1570mmのトレッド(前/後)は、かのクルマを大幅に上まわる。全高は1317mmである。
ランニングギアは、バイエルンのスーパーサルーン、M5のものが使われる。すなわち、吸排気両側の可変バルブタイミング機構「ダブルVANOS」を組み込んだ5リッターV8(400ps/6600rpm、51.0kgm/3800rpm)と、6段MTの組み合わせ。前マクファーソンストラット、後インテグラルの、アルミ製サスペンションも踏襲される。
しかし、Z8は、M5の着せ替え人形などではない。
BMWの新しいスーパーカーは、アルミ押し出し材のスペースフレームに、同じくアルミのパネルを貼り合わせるという、ため息の出る贅沢なつくりが採られる。ウェイトは、サルーンの1790kgに対し、1630kg。前後軸重比は、フロント820kg:リア810kgという理想的なものである。
価格は1650.0万円。先代、というと妙だが、以前の「トップ・オブ・スペシャルティ」こと850CSiが、5.6リッターV12を積んで1680.0万円とほぼ同じ値段だったから、4気筒分が、ボディと、デザインに消えた計算になる。
満々たる余力
イグニションキー右下にあるスタートボタンを押すと、5リッターエンジンはアッサリかかり、さして重くないペダルを踏んでクラッチをつなぐと、Z8はすんなり走り出す。
ギアをチェンジをするとき、「ビン!」とニュートラルポジションに弾かれるビーエム風のシフトフィールが、キーと同じ理由で興ざめだ、と思ってから、反省した。
あまりにブッ飛んだ(過去に?)スタイルゆえ、あたかも限定モデルであるかのような錯覚を勝手にしていたが、Z8はれっきとしたカタログモデルである。運転感覚が他のビーエムと共通していて、何が悪かろう?
乗り心地はいい。前245/45R18、後275/40R18という、1セット10万円ぐらいしそうなスポーツタイヤを履くが、街なかでヨンゴー/ヨンマルという薄さを意識することはない。
意識するのはV8のトルクの太さで、クローズト状態なら、かすかなハミングを聴きながらのズボラな運転が許される。
内外ともクラシカルなスーパー2シーターだが、言うまでもなく、渋滞時に水温計を気にする必要はない。
それどころか、ABSはもちろん、トラクションコントロール「ASC+T」を発展させた(とBMWの主張する)アンチスピンデバイス「DSC」、ブレーキの前後配分を司る「DBC」、コーナリング時の制動をコントロールする「CBC」、そして4輪の回転差からタイヤの空気圧の変動を検知する「RDW」といった最新技術が搭載される。もっとも、主要マーケットたる北米のドライバーが一番ありがたいと思うのは、クルーズコントロールかもしれない。
高速道路の料金所を抜けたら、猛然とダッシュ! 0-100km/hはわずか4.7秒と、カタログには謳われる。
ギアは、ロウで約60km/h、セカンドで約100km/hまでをカバー。6速100km/hでのエンジン回転数は2250rpmだから、とりわけハイギアードなわけではない。BMW Z8、常に満々たる余力を感じさせながらのクルージングである。
野に放たれて
人に夢と書いて儚い(はかない)と詠む。自動車サイトのコンテンツエディターとテスト車の邂逅がまさにこれで、Z8と過ごせる期間は1泊2日。深夜の帰宅路も貴重な時間となる。
ブレーキペダルを踏んでセンターコンソールのボタンを押し続けると、幌が下りる。20秒ほどで、暗い空が現われる。
路面の悪い首都高速でのドライブでは、上下に揺すられる感が強い。いわゆる「フラットライド」ではない。その原因が、初期ロットゆえのセッティング不足か、走行距離2000km余りの不十分な「慣らし」か、個体の問題か、はたまたスペックなのかはわからない。
「でも」と思い出すと、笑みがこぼれる。山道でのZ8はすばらしかった。
マッチョでパワフルだけれど、「鈍な」Z3ロードスター。それをひとまわり大きくしたZ8の「曲がり」が楽しいわけがない、と思いこんでいた。
ところが、ワインディングロードを行くZ8は、野に放たれた野生馬のよう。軽々と長い鼻面を左右に振って、ステアリングホイールを握るドライバーを喜ばせる。足はしっかり動き、剛性感高いボディが、余すところなく路面の情報を伝える。ステアリングフィールは自然だ。
パワー・トゥ・ウェイト・レシオ=4.1kg/psを誇るZ8がもたらす歓びは、ライトウェイトのそれ。自在にクルマを操れる、ような気にさせる。いつしかトラクションコントロールを切って、運転に夢中になっていた……。
20世紀の終わりに
顔をなぶる夜風が心地よい。
環状線から目黒線に入る。道が空く。
センターコンソールの「SPORT」ボタンを押すと、エンジンマネジメントがガラリと変わり、V8は一段と声を高め、レスポンスは噛みつくかのごとく。ボード差し替えのいらないコンピューターチューン。「環境」と「スポーツ」共存の新たな試み。ボンドカーの面目躍如。Z8は、手に負えないスピードマシンと化す。パワー、サスペンション、ボディのバランスが取れ、総体としてのハンドリングがいいから、本当に、速い。
自動車が恋人だった世紀の終わりに、最も内燃機関の魅力を知るメーカーから、狂い咲きのようなデザインをまとったクルマが現われる。ドライブトレインとスタイリング。内と外のせめぎ合いは、完全に後者が主導権を握ったかに見えるが、依然として、「スピード」は愚かなドライバーをまどわせる。蛮行の歯止めとして、「法と理性」が用意されるが、クルマの魅力は、本質的なところで両者に相反するからタチが悪い。
(文=web CG 青木禎之/写真=阿部ちひろ/テスト日=2000.9.29)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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