ランボルギーニ・ムルシエラゴ(6MT)【試乗記】
幸か不幸か…… 2004.08.05 試乗記 ランボルギーニ・ムルシエラゴ(6MT) ……2795万7300円 アウディの傘下に入ったアウトモビリ・ランボルギーニが、最初にリリースした“スーパーカー”「ムルシエラゴ」。580psを発するV12ユニットをミドに積む猛牛に、ジャーナリストの河村康彦が乗った!無情な宣告
何日も前から、指折り数えて楽しみにしていたその日は、あろうことか!……雨だった。
前日は快晴だったし、翌日も「曇りのち晴れ」の予報が出ていた。なのに、「ランボルギーニ・ムルシエラゴ」に乗れる、というその日だけは「終日アメ」という無情な宣告がなされていたのだ。まぁ人生、そんなこともあるだろう。これで快晴だったりしたら、なにかよくないコトが起こる日だったのかもしれない。
ちなみに現代のランボルギーニには、すべて4WDシャシーが採用された。そうでなければ、335幅のリアタイヤのみで580psのパワーを受け止めることになる。ハイパワー後輪駆動車を雨の日に試乗するのは、ちょっとご免こうむりたいのがホンネだ。だから、ランボの4WD化には感謝したい。
まさに“怪鳥”
箱根の山中をすっぽり覆った深い霧をついて、「ガヤルド」のテスト走行をしているところにやってきたムルシエラゴは、やはり弟分より貫禄のルックスの持ち主だ。全高わずかに1135mm。まさしく地面にうずくまるようなその姿は、いかにも大きなエンジンを運んでいる(!?)ことを示すかのように、極端なキャビンフォワードのプロポーションが印象的だ。黄色い塊から、ウィンドウ部分やヘッドライト、エアの取り入れ口や排出口などの開口部を黒くくり貫いたかのようなテスト車の外観は、なんとも近寄り難い迫力を醸し出す。ガルウィング式のドアを開いた姿は、まさに“怪鳥”だ。
一方、インテリアデザインは、なんともイタリアンな雰囲気。シートの肌触りやダッシュボードまわりのちょっと粗いステッチなどが、えもいわれぬ“手作り感”を演出する。
エクステリアデザインではガヤルドとの兄弟性を強くアピールするムルシエラゴだが、インテリアはまったく別のテイストでまとめられているのが興味深い。ガヤルドよりもデビュー時期の早いこちらムルシエラゴは、メーターまわりやスイッチ類のデザインに、“親会社”になってまだ間もなかったアウディ流儀のディテールが表れていないようだ。
想像を超えるGフォース
6.2リッターV12気筒エンジンに火を入れると、大迫力のサウンドが背後から耳を襲う。タコメーターの表示を信じるなら、1100rpm付近でユルユルと回り続けるアイドリング状態でもその迫力は相当なもので、ブリッピングした際の身震いときたらそれだけでもスーパーカーの面目躍如という感じだ。タコメーターは、イエローラインが7400rpm、レッドラインは7700rpmに設定されるが、1気筒当たりで軽く500ccを超えるこのエンジンが、果たしてそんなに軽々と回ってくれるのだろうか?
……というようなことを考えながら、アクセルペダルに足を乗せる。右足のホンのわずかな動きに即応し、想像の2倍ほどのGフォースがクルマの動きにあらわれることに、「さすがスーパーカーだ!」と勝手に納得した。
メタルプレートできっちり仕分けされたシフトゲートを進める、思いのほか長いシフトレバーの操作性は、正直なところ“トラック調”。スーパースポーツに相応しいとはいい難い。モデナのテストドライバー氏は、「本当にこれがイイ」と信じているのだろうか。
「さすが」の代物
アクセルペダルをさらに踏み込んでエンジン回転数が4000-5000rpmに達すると、エンジン振動はいよいよ相当なレベル。さらに5500rpm付近からは、まさに猛牛の雄叫びの如きエンジンノイズ……いや“サウンド”から、普通の神経の持ち主であればそれ以上アクセルペダルを踏むことを止めてしまいそうだ。多気筒エンジンが「静かでスムーズ」という解釈は、このクルマには通用しない。
だが、絶対的な加速力は「さすが」の代物。これならば、200km/hはおろかカタログ値の「330km/h以上」という最高速度にほどなく到達しそうだ。
このクルマのポテンシャルの片鱗は、結局、濃霧が晴れることのなかった箱根をスゴスゴと退散し、東京に戻るまでのつかの間の高速道路、「それなりのロケーション」で堪能するにとどまった。“自然災害”ゆえ、ハンドリング云々のチェックがかなわなかったのは、幸だったのか不幸だったのか。とはいえ、直線では「200km/hから本領を発揮するクルマ」だとの予感を得たのは、大いなる収穫だった。
(文=河村康彦/写真=中里慎一郎/2004年8月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。