ポルシェ・カイエン【試乗記】
カイエンの“ポルシェらしさ” 2003.11.07 試乗記 ポルシェ・カイエンS/カイエンターボ(6AT/6AT) ……955.0/1360.5万円 鳴り物入りで登場した、ポルシェ初のSUV「カイエン」。ボクスターを愛車とする自動車ジャーナリストの河村康彦は、カイエンに従来のポルシェとは異なる印象を受けたという。カイエンへの心配と、今後の期待を込めて、その思いを綴った。カイエンは“ピュアポルシェ”か?
ポルシェ初のSUV「カイエン」の上陸によって、日本でも“プレミアムSUV”なるマーケットが一挙に賑やかになった。カイエンの見た目は、確かに“ポルシェしている”し、「SUVとしては」なんていうエクスキューズ抜きでも、スポーツ性能が“文句ナシの一級品”であることは、もはや疑いようがない。
けれども、「ポルシェルックのフロントマスク」と、「4.5リッターV8DOHCが生み出す怒涛のパワー」というポイントを抜きにして、カイエンは“ピュアポルシェ”と認められる存在なのか? そう問われると、ちょっとひと呼吸入れたくなる。つまり、911やボクスターのように、目隠しして乗せられても「これはポルシェだ!」と、すぐにいい当てることができるかどうか……。ちょっとばかり怪しくなってしまうのだ。
耳栓してもわかる
たとえば、1996年にデビューした2.5リッターのボクスターは、絶対的な加速力で見たら、“現代ポルシェとしては”大したことがない。加速データでこれを上まわるクルマは、国産なら200万円も支払えば探すことができるだろう。すくなくとも、ボクスターの「約半額」、300万円を投資すれば、間違いなくより速いモデルが手に入る。何しろその価格帯には、「三菱ランサーエボリューション」や「スバル・インプレッサWRX」がランクインするのだから。絶対的な動力性能において、「ポルシェは速い」というフレーズは、もはや幻想に過ぎない。
とはいえ、“素のボクスター”は、極めてポルシェテイストが強く、それゆえ魅力的な一台だ。もちろん、フラット6ならではのサウンドが、“ポルシェらしさ”の一因である。だが、それだけではない。仮にエグゾーストノートがまったく聞こえないよう耳栓されたとしても、ぼくにはこのクルマが「ポルシェ」といい当てる自信がある。
走り出した瞬間から、圧倒的なフラットライド。足の裏で直接ディスクローターにタッチするかのような、ブレーキのペダルフィーリング。“ノーズダイブ”という言葉とは無縁の、沈み込むようにして速度を落とす減速感。そしていかにも“人車一体感”の強いハンドリングは、まさしく「ポルシェならではの世界」だ。つまり、初代ボクスターは絶対的なスピード性能に依存しなくても、十分ポルシェらしさを発散していることになる。このあたりは、今は姿を消した「924」「944」や「928」など、911やボクスターとは似つかないFRモデルにすら共通したテイストであった。
今後が楽しみ
それでは、ポルシェAG自ら「第3のモデルレンジ」と紹介するカイエンの“ポルシェらしさ”はどうなのか? 走りのテイストから感じたDNAのアピール度は、すこし弱いようにぼくは思う。正直なところ、目隠しされたうえに耳栓までつけられたら、ドライブしている(できないけど)のが「カイエンだ」と、いい当てられないかもしれない。
ポルシェはカイエンに、911/ボクスターと血縁関係が深いことをイメージさせるフロントマスクを与えた。カイエンターボは最高出力450ps、最高速度270km/hという、怒涛のスペックを実現した。それもこれも、初めて手がけたSUVであるこの“作品”に、カタログ上からも「ポルシェの一員」であることをわかりやすく表現するための手段、と考えられないだろうか。もっと突っ込めば、まさにこうした点に、ポルシェ自身がカイエンというモデルに、多少なりとも不安を抱いていることが垣間見える。
カイエンの販売は、世界的に極めて好調だという。ポルシェが述べる「“ファーストカー”としてのポルシェ」を待っていた人が、けっして少なくなかったわけだ。
しかし、スタート時点での成功を維持していくためには、今後の切磋琢磨も不可欠なはず。「最新のポルシェが最良のポルシェ」というフレーズがカイエンにいかに当てはまっていくのか、大いに楽しみである。
(文=河村康彦/写真=峰昌宏/2003年8月)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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