スバル・レガシィツーリングワゴン 3.0R(5AT)【試乗記】
ブランドの強みと弱み 2003.11.01 試乗記 スバル・レガシィツーリングワゴン 3.0R(5AT) ……331.0万円 上質な走りを求めたというフラット6搭載モデル「3.0R」に、webCGエグゼクティブディレクターの大川悠が試乗。山道と市街地を乗り比べ、6気筒モデル、そして「レガシィ」ブランドの魅力を探る。“ヘリテイッジ”か“しがらみ”か
この初夏に、モデルチェンジを受けたレガシィのツーリングワゴンを短時間だけ試乗すべく、別にあてもなく首都高速を走っていたとき、面白いことに気がついた。いつの間にか背後に旧型レガシィが迫っている。そのクルマがランプから去っていくと、今度は別のレガシィがいるというわけで、常に1台か2台の旧型がお供に従っていることになる。
レガシィというクルマの、隠れた人気を知らされたのはその時である。「レガシィは、それだけユーザーに愛されている。スポーツカーでもなんでもないクルマで、こういうことは珍しい」と思い、改めてスバルのブランド力を理解した。
ブランド力が強いと言うことは、日本車としては大きな武器だが、反面、場合によっては一種の足かせになることもある。特にレガシィのようなクルマは、ユーザーの思いこみや、それまでのモデルへの執着心も強い。だからメーカーとしてはそうドラスティックには変えられないし、思い切ったことはやりにくいという制約がある。
そんなことを考えながら、4気筒に続いて秋に登場した6気筒版、「3.0R」のツーリングワゴンに乗った。すでに1ヶ月前、小淵沢で開かれた試乗会で乗っているが、今回は都内での印象を確認したかった。そして知ったことは、レガシィはきちんと筋が通ったクルマであると同時に、自らがつくったマーケットに縛られているということである。
強いヘリテイッジを誇るともいえるし、過去のしがらみに引っ張られているとも表現できるが、こんな日本車は少ないから、それだけでも価値があるとするべきだろう。
全域スポーティを狙った6気筒
小淵沢で乗ったとき、二つの印象を受けた。一つは4気筒モデルに比べると乗り心地はおだやかで、長距離クルーザー的な感覚になっていること。もうひとつは、新設計されたというフラット6は、過度にスポーティな応答を重視するがゆえに、微低速でのトルクが不足するということである。
250ps/6600rpm、31.0kgm/4200rpmの3リッター6気筒の3.0Rと直接比べたくなるのは、ツインスクロールターボを持った4気筒の「2.0GT」だろう。これは3.0と同じ5ATの場合260ps/6000rpm、35.0kgm/2400rpmとなる。またGTも3.0Rもビルシュタインのダンパーを与えられているが、サスペンションセッティングは2.0GTの方がずっと硬めである。だから小淵沢で得た印象は、この限りでは間違いではなかったはずだ。
ところが都内で乗るとこれが完全に変わってしまった。目地段差が多い首都高速や、表面が荒れた都内の道では、215/45-17サイズのブリヂストンポテンザRE050Aタイヤの固さやロードノイズが過剰に気になった。たしかにサスペンションセッティングは4気筒よりはマイルドだが、かえって45タイヤの存在感をより強く感じる。
その反面、アップダウンのある小淵沢の道を、比較的高いペースで走ったときには気になった1500〜2000rpmというごく低速域での絶対的なトルクの細さは、意外と都内では感じなかった。エコノミーモードで走っていても、5ATの応答がかなり敏感なことと、スロットル開度に対するエンジンのピックアップのプログラムがドライバーに鋭敏に感じられるようにセットされているからである。だから各ギアをあまりホールドしない代わりに、比較的早めにシフトダウンもするATに助けられて、エンジニアが意図的に捨てた領域をほとんど使うことはない。
なぜ「意図的」と書いたのかといえば、試乗会のときに微低速トルクの件を質問したさいに、スバルのエンジニアから「やはりそうお感じになりましたか」と確信犯的な答えが返ってきたからだ。つまり、レガシィファンが求める全域スポーティ、特に高回転でのスムーズネスやパワーを何よりも重視したいがために、やむなく微低速を犠牲にしたのだという。
欲しかった挑戦意欲
2度の違ったステージでの体験を通じて引き出した結論は、たとえ6気筒エンジンを積んでいてもレガシィはレガシィで、従来の枠からほとんど出ていないということだった。
他のクルマとは違った味わいを期待し、フラットエンジンの、ストレスフリーな回転感覚を求めるユーザーを喜ばせることを前提にしたクルマ、それがレガシィであり、それは気筒数には関係がない。
でもせっかく6気筒を送り出したというのに、これはちょっと損じゃないかと思う。クロームの多寡やエアインテーク造形の相違など、レガシィユーザーでなければ見分けがつかないほどの変更しか施していないボディに関しても、同じことを感じた。「これではもったいない」と。
どうせ6気筒をつくるなら、これまでのレガシィの資産を守りつつも、新しいマーケット、新しい自動車イメージに挑戦してもらいたかったと思った。フラット4で揺るぎなき市場を確立しているのだから、6気筒モデルでは思い切って枠から飛び出して、もっと違ったクルマのあり方を提案してもらいたかった。
これまでのレガシィに比べ、大分脂ぎった感じが薄れてきたアイボリーレザーセレクションのインテリアを見まわした。思いこみが強いユーザーに支えられているメーカーは、それなりに結構辛いものだと考えていた。
(文=webCG大川 悠/写真=郡大二郎/2003年10月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。