36年の歴史に幕を下ろす「スバル・レガシィ」の歩みを振り返る
2024.11.21 デイリーコラム世界速度記録とともに華々しくデビュー
初代「スバル・レガシィ」が登場したのは、R32型「日産スカイラインGT-R」や初代「マツダ(ユーノス)・ロードスター」などの誕生と同じ1989年。レガシィもまた、国産車のビンテージイヤーに生まれ落ちた名作だった。
スバルが初めて“世界”をターゲットにつくり上げたとされる初代レガシィは、車体をゼロから開発。水平対向エンジンや4WDの駆動系といった基本的なメカニズムはレオーネから受け継がれたが、WRCで活躍したグループAマシン「レガシィRS」のEJ20ターボをデチューンした2リッター水平対向ターボエンジンを筆頭とする全パワーユニットが、気筒あたり4バルブ化されたDOHCと電子制御式インジェクションを併せ持つ新設計だった。
発売直前の「レガシィRS」は、米国アリゾナにおいて1989年1月2日から19日間連続で10万kmを走り続ける世界速度記録に挑戦。そして見事に平均時速223.345kmを達成し、“スバル・レガシィ=ハイパフォーマンス”というイメージの構築に成功した。またセダン以上に人気を集めた「レガシィ ツーリングワゴン」は、折からのバブル景気もあって“ハイパワー4WDワゴンブーム”の発端になり、スバル(当時は富士重工業)を経営危機から救う役割を果たした。
初代レガシィ ツーリングワゴンがつくり上げた“ハイパワー4WDワゴン神話”は、1993年10月に登場した2代目によってより強固なものとなった。シャシーの基本構造は初代モデルを踏襲していたが、5ナンバー枠をキープしつつも後席居住性を大幅に改善したことで、2代目レガシィ ツーリングワゴンは大ヒットを記録。また「GT」と「GT-B」に搭載された2リッター水平対向4気筒ターボは「2ステージターボ」化により最高出力が250PSとなり、1996年のマイナーチェンジでGT-Bの5段MT仕様車は280PSに。4段AT仕様車も最高出力260PSに進化し、イエローに塗られたビルシュタイン製ショックアブソーバーの高機能なイメージとあわせ、この時点で“レガシィ=超高性能ステーションワゴン”との印象は決定的になったように思う。
ちなみに、2025年3月末で受注終了となる「レガシィ アウトバック」の初代モデルが登場したのも、2代目レガシィが販売されていた1994年から1995年にかけてのことだった。2代目レガシィの車高を上げてクロスオーバーSUVに仕立てた派生モデルは、北米では「スバル・アウトバック」として1994年に発売され、日本国内では「レガシィ グランドワゴン」を名乗り、2.5リッターの水平対向4気筒エンジンを搭載して1995年8月に登場した。
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「アイサイト」を4代目から導入
続く3代目のレガシィが登場したのは1998年6月のことだった。まずはツーリングワゴンと、レガシィ グランドワゴンを改名した「レガシィ ランカスター」から発売され、半年後の12月にはセダン版である「レガシィ B4」を追加した。
この世代のレガシィも5ナンバーサイズであることは死守しつつ、全体を的確にブラッシュアップ。また、全車種が4WD(シンメトリカルAWD)となったことも特徴といえる。
パワーユニットは最高出力280PSの2リッター水平対向4気筒ツインターボ(AT車は260PS)と最高出力170PSの2.5リッター水平対向4気筒自然吸気、最高出力137PSと155PSの2リッター水平対向4気筒自然吸気に加え、2000年5月には、新開発された最高出力220PSの3リッター水平対向6気筒エンジン「EZ30」を「ランカスター6」に搭載。この3リッター水平対向6気筒は2002年1月にツーリングワゴンとB4にも搭載され、一部の好事家から人気を集めた。
初代から3代目にかけてのレガシィも素晴らしいモデルだったといえるが、「歴代最高のレガシィ」と呼ばれることが多いのは、2003年5月に登場した4代目だ。
国外市場の要求と衝突安全性能向上のため、ボディーを拡幅して3ナンバーサイズとなったが、全幅1730mmという、日本の道路環境でも扱いやすい範囲に収まっている。そして質感とセンスを向上させた内外装デザインやATの5段化、さらにEJ20型2リッター水平対向ターボエンジンをシングルタービンのツインスクロールターボへと変更し、ターボ切り替え時の息つき感を解消したことで、スポーツワゴン/スポーツセダンとしてのレガシィはおおむね完成形に至った。
2003年9月に復活した3リッター水平対向6気筒エンジン搭載グレード「3.0R」は、愛好家筋からは今なお「レガシィ史上最高の名作!」と言われており、同年10月には、ランカスターから名称を変更した「アウトバック」を追加。そしてモデル末期となった2008年5月からは、今ではスバル車の代名詞になっている運転支援システム「アイサイト」も、4代目レガシィの一部グレードに初搭載されている。
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2025年3月にアウトバックの受注を終了
4代目において、日本のユーザーから見て「素晴らしい!」と言いたくなる仕上がりとなったレガシィだったが、2009年5月に登場した5代目レガシィは“北米志向”を鮮明にした。
4代目で初めて3ナンバーサイズとなったボディーはさらに拡大され、ツーリングワゴンの場合で全長が4775mm(先代比+95mm)、全幅が1780mm(同+50mm)、全高が1535mm(同+65mm)、ホイールベースは2750mm(同+80mm)と、完全にひとクラス上のサイズに至ったのだ。
要するにこれは北米ユーザーやその使い方を優先した結果の“改善”であり、それ自体は致し方ないというか、スバルのグローバルビジネスを考えれば当然ともいえる処置だった。
しかし──それが北米マーケットの好みなのか、やや厚ぼったくて派手めなフロントマスクと、2リッター水平対向ターボのEJ20型エンジンが廃止となったことに、日本の多くのユーザーは落胆。結果として国内における販売は、従来型と比べて明確な低空飛行状態となった。アプライドD型で2リッター水平対向直噴ターボのFA20型を投入したが、起死回生の一打とはならなかった。
2014年10月に登場した6代目レガシィではツーリングワゴンが廃止されてセダンのB4とアウトバックのラインナップになった。アウトバックは北米市場の声に応えるようにボディーサイズをさらに拡大し、全長4795mm、全幅1840mmに。インテリアもアメリカナイズされた豪華絢爛(けんらん)なテイストに変更された。
続いて2019年2月に発表された7代目レガシィは、レガシィ アウトバックのみが国内で発売された。そしてそのアウトバックも2025年3月での受注終了が発表され、1989年から36年に及んだレガシィの日本における歴史は幕を閉じることとなった。
初代から4代目までのレガシィは、ある意味たまたま「グローバル市場からの要求」と「日本人ユーザーが求めるレガシィ像」がおおむね一致していた。それゆえ日本人からも愛され、大ヒットした。5代目以降は北米シフトを敷くようになってしまったわけだが、ビジネス戦略としてのそれを非難することなどできまい。スバル・レガシィは、グローバル規模の市場経済にも基づく当然の経営判断として、北米優先の仕立てに変わっていったのだ。
恨むべき対象はスバルではなく、スバルの意思決定を方向づけた「わが国の国力低下」なのかもしれない。
(文=玉川ニコ/写真=スバル/編集=櫻井健一)
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玉川 ニコ
自動車ライター。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、自動車出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。愛車は「スバル・レヴォーグSTI Sport R EX Black Interior Selection」。
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