メルセデスベンツCLK320カブリオレ(5AT)【試乗記】
メルセデスの流儀 2003.06.15 試乗記 メルセデスベンツCLK320カブリオレ(5AT) ……780.0万円 クーペから遅れること約1年。2003年5月19日、メルセデスの4座オープン「CLKカブリオレ」が日本デビュー。自動車ジャーナリストの河村康彦がさっそく試乗した。もはや“Dクラス”
メルセデスベンツCLK320カブリオレは、「何ともドイツ生まれらしい」と、心底感じさせられる1台だった。その理由は、ボディにあり、ソフトトップにあり、そしてトランクルームにあった。徹底した完璧主義…… そんなフレーズが、実際に触れてみると、いかにも相応しく思えたのである。
その名も示すように、“ひょうたん型目玉”が重要な記号であるCクラスをベースとするCLKシリーズ。けれども実車を前にすると、Cクラスセダンよりも10cm以上も大きな全長や、むしろ新しいEクラスセダンとの近似性が感じられるテールレンズのデザインなどにより、「これはもはや“Dクラス”だな」と思った。立派さが印象づけられる。
それもそのはず、“変わりボディ”のCLK一族は、ひとつ上の「Eクラス」とラップする価格帯をもつのだ。CLK240=590.0万円、E240=605.0万円、E320アバンギャルド=710.0万円、CLK320=720.0万円、そしてテスト車のCLK320カブリオレは、780.0万円!
クーペに乗っているよう
ドアを開き、ドライバーズシートへ滑り込む。そこに広がるのは紛れもない“メルセデスの世界”だ。
クーペやカブリオレといえば、あくまでもパーソナルな存在であるはず。が、CLKのインテリアは、より公的な、どこかフォーマルな雰囲気が漂う。安心感が強いといえば強いのだが、正直、面白みに欠ける。まあ、あえて「ベンツのクーペやカブリオレ」の購入を考える人には、それでいいのかも知れないが…… 。
ルーフを閉じた状態でのCLKカブリオレの居住性は、クローズドルーフ車にヒケをとらない完璧さだ。インナーに20mm(!)のパッドを内蔵したという、いかにも“厚み感”に富んだルーフレイヤーは、“外界”の騒がしさや熱を効果的にシャットアウトしてくれる。ガラス製のリアウインドウや、カブリオレとしては細身の“Cピラー”は、全方位にわたってクーペボディに遜色ない視界を確保する。
ウェッジを描くベルトラインが高く、そのぶん閉塞感はやや強くなるが、レッグスペースやヘッドスペースなど、後席住人のためのスペースも十二分。トランクルームは、上部がソフトトップ収納用のスペースとして削られるために、一見、中は狭い。しかしながら、「トップクローズ時には容量を233リッターから327リッターにまで拡大できる」という。トップを収める必要がないときにはたたんでおける、可動式のソフトトップ収納ケースなる”隠しアイテム”が内蔵されているのだ(そこまでヤルか!)。
ピカイチの高剛性感
「リモコンキーの操作で車外からでもソフトトップの動作が可能」という機能にまず驚く。そしてシートに座ると、電動式のベルトフィーダーが後ろから伸びて、シートベルトを手元までもってきてくれるという親切機能にいたく感心する。
電動ソフトトップの開閉にはそれぞれ25秒ほど必要とするため、「信号待ちの間にちょっと変身」とやるには少々時間がかかり過ぎる。そういえば、まもなくデビューのポルシェ911カレラ4カブリオレには、「低速時であれば走行中でも開閉可能な機能が盛り込まれた」とか。これを知ったメルセデス、またまた何か対抗策を打ち出してくるのか!?
走り出してみると、ボディ剛性感の高さに再び驚く。厳密に言えばもちろんクローズドボディには差をつけられているのだが、感覚的には、これでも100%の人が「メルセデスベンツ」に期待をするであろう“しっかり感”がある。このクルマは、開口部の大きいフル4シーターのオープンカーとしては、BMW3シリーズやポルシェ911カブリオレをも凌ぐ、ピカイチの高剛性感の持ち主なのだ。
理不尽な伝統
走りのフラット感も、メルセデス流儀をそのままキープしていた。他のモデル同様、低速域でステアリングの戻りが鈍い点は個人的には気になるが、人によっては「それもメルセデスの個性」と好意的に受け取るかもしれない。ルーフレスだからといって安全性能に差を付けないところもメルセデス流。2ステージデュアルエアバッグや、頭部保護機能付きの前席サイドエアバッグ、そして後席用のサイドエアバッグは標準装備となる。フルオープンであるこのクルマならではの安全装備は、「万一のロールオーバーのシーンでは、0.3秒以内に規定の高さに上昇して生存空間を確保する」と謳われるオートマチックロールバー。もちろん、今回のテストドライブでも、その“恩恵”にあずかることはなかった。
それにしても、輸入車の「マニアックなモデルは左ハンドル」という理不尽な伝統は、いったいいつまで続くのか? このクルマもステアリング位置の設定は左側のみ。ただでさえ2ドアの大きなドアは狭い場所での使い勝手が悪いのに、こうした設定が、一層不便なものにしている。たとえ受注形式で若干の上乗せコスト(と待ち時間)が発生するとしても、“正しいステアリング位置”のモデルをカタログに載せるのが、正規インポーターの責務ではないだろうか。
(文=河村康彦/写真=清水健太/2003年6月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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