メルセデスベンツ CLK320(5AT)【ブリーフテスト】
メルセデスベンツ CLK320(5AT) 2002.11.22 試乗記 ……720.0万円 総合評価……★★★★素晴らしき“ハードトップ”
新しい「Cクラス」ベースの2ドアクーペ「CLK」は、かつてその存在に後光が差していた「ハードトップ」の再来だ。若い人はピンと来ないかもしれないけれど、昔は「ハードトップ」といえば、特別なクルマというニュアンスがあったのだ。「クラウン・ハードトップ」「ブルーバード・ハードトップ」「サバンナ・ハードトップ」……。車名に“ハードトップ”と付きさえすればば、何でもよかったくらいの(!?)“プレミアム性”があった。
ハードトップとはその名の通り、“布屋根”のソフトトップに対するボディ形式のことで、“鉄の屋根”だからハードトップとなる。ならば、普通のサルーンやクーペとの違いはなにかというと、Bピラーの有無にある。ハードトップは「コンバーチブルのトップをハードに換えたもの」のことなので、本来Bピラーはないのだ。
かつて「Bピラーのないクルマは危険」という風潮が一般的になったころ、“ハードトップ”という名前がもつ訴求力を捨てがたかったニッポンの自動車メーカーは、Bピラーをもつ「ピラードハードトップ」という珍妙なクルマを考え出した。しかし、そもそもピラーがあるうえに、後席の窓が完全に開かないクルマが多かったので、結果的に“ハードトップの魅力”も“名前の魔力”も奪ってしまった。なぜなら“本物”のハードトップの魅力は、Bピラーが存在しないことによる車内の開放感にあったからである。窓ガラスを全部降ろして、Aピラーの付け根からCピラーの付け根まで何も障害物がなく、窓を全開にすればスーッと手でなぞれるのがイイ。窓が全開にならなければ、Bピラーがないことによる開放感が薄れてしまう。
いくら言葉で説明しても体験した者でないと、なかなかハードトップの開放感は伝わらないのが残念でならない。だからあなたが幸運にもCLKに乗る機会を得たならば、ぜひ窓を開け放ち、ハードトップの素晴らしさを体験してもらいたい。
ボディ形式自体はけっして新しいものではないが、その魅力を現代に蘇らせた功績は大きい。★を5つ付けたいところだが、4つ★にとどめた。720.0万円という車両価格はいかにしても高すぎる。生産台数の少ない贅沢なクルマ、というキャラクターを理解したうえでのことだけれども、ハードトップであること以外の部分にこの価格を納得させられるだけのものを、筆者は見つけることが出来なかったから。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
「CLK」は、「Cクラス」をベースとする2ドアクーペ。初代は1997年にデビュー、現行モデルは2002年3月にフルモデルチェンジした2代目である。Bピラーがないボディ形状に加え、ウィンドウが下がりきることによる開放感が特徴。日本には同年4月から、「CLK240」(右ハンドルのみ)と「CLK320」(左右ハンドル)の2種類が導入された。
エンジンは、いずれもV6気筒SOHC18バルブ。CLK240は2.6リッター170ps、CLK320は3.2リッター218psを搭載する。トランスミッションは、レバーを左右することでシフトできる「ティップシフト」付きの電子制御5段オートマチック。駆動方式はFRのみだ。サスペンションは、フロントに新開発の3リンク式、リアはマルチリンクを採用した。
(グレード概要)
CLK320は、わが国におけるCLKのトップグレード。4座の2ドアクーペで、720.0万円と高価なクルマである。2.4リッターは16インチアルミホイールなのに対し、3.2リッターモデルは17インチを装着する。インテリアは、もちろん本革内装。さらに、電動サンルーフ、リアウィンドウの電動ブラインド、BOSEサウンドシステムなどが標準装備される。CLK320にのみオプションとして用意される「スポーツパッケージ」は、AMGデザインのフロントスポイラー、サイドおよびリアのスカート、18インチのアルミホイール+ワイドタイヤ、スポーツサスペンション、センターコンソールのアルミパネルなどが装着される。オプション価格は80.0万円で、受注生産となる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★
CLKのインパネや運転席まわりの装備と造形は、現行「Eクラス」と「Cクラス」のそれを踏襲する。さらに遡れば「Sクラス」だ。CLKに限ったことではないが、最近のメルセデスベンツのインテリアデザインと操作系統のロジックは、あまり感心できない。かつての、「非常に論理的な理詰めのデザイン」が見当たらないからだ。「どうすれば操作しやすく、安全運転に寄与できるか」という命題を、徹底的に追い詰めてデザインされていた頃が懐かしい。
各種メーターにクロームとアルミを配するのは、新味を打ち出そうとしているのだろう。しかし、ユーザーとマーケットに媚びを売っているようだし、これなら他車(社)とやってることが変わらない。空調やオーディオ、電話などの操作はロジックが混乱していて、かつてよりも退歩しているのではないか。スピードメーターの左側のアナログ式時計がこんなに大きい必要があるのか。さらに細かいことだが、ハンドルがプラスチック然としていて安っぽい。
(前席)……★★★★
座席に座ると、ドアが大きいので収納されたシートベルトに手が届きにくいことに配慮して、アームに掴まれたシートベルトが30秒間だけ延びてくる。シートは大ぶりで身体を包むようなかけ心地。クルマのキャラクターに合っていて好ましい。
(後席)……★★★★★
このクルマの真骨頂は、後席にある。Bピラーが存在しない「ハードトップ」がこれほど車内を明るくし、開放感を高めてくれるとは知らなかった。とても新鮮な感覚だ。前席よりも後ろの視点から車外を見渡すことができるので、視界は前席よりもむしろ広いくらいである。その上、ダッシュボードやハンドル、シフトレバーなどの運転操作に必要な装置が存在しないので、くつろぐためだけのプライベート空間が広がる。しかも、サルーンやクーペのようにBピラーがないから、籠もった感じがせずに明るく快適なのだ。シートはクッションたっぷりで、かけ心地は上等。クーペなのに、後席にかなりの重点を置いてクルマがつくられたのは明らかだ。開発担当者は、相当なクルマ通なのではないか。ヘタな4ドアサルーンよりも、上質な後席である。
(荷室)……★★★
絶対的なスペースは広くもなく、大きくもないのはクーペゆえか。しかしホイールハウスなどによる、出っ張りや引っ込みがないので使いやすい。さらに、後席のシートバックを倒して、荷室を拡大できるのは気が利いている。
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【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
3.2リッターV6エンジンのパワーとトルクは、必要十分なだけある。しかし、カミソリのようなレスポンスや、官能的なトルクの盛り上がりなど、スポーティなエンジンを期待すると裏切られる。また、低回転域でガサ付くフィーリングも興を削ぐ。ペナペナのガスペダルも頼りない。クルマを余裕を持って走らせるためだけの、縁の下の力持ち的なエンジンだ。レバーの左右でシフトできるティップシフト付き5段ATは、他のメルセデス同様スムーズに変速するので、マニュアルシフトは小気味よい。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
路面の段差や舗装のつなぎ目を越える時に、前が225/45R17、後ろは245/40R17の太いタイヤがバタバタする。その振動や騒音がそのまま車内に伝わってきて、あまり心地よくない。ハンドリングは安定一辺倒なもの。エンジンと各輪のABSを個別にコントロールして、乱れた挙動を修正するEPS(エレクトロニック・スタビリティ・プログラム)を搭載する。この電子デバイスの介入は早く、コトが起こるよりずっと前にクルマは安定方向に制御される。
(写真=清水健太)
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【テストデータ】
報告者:金子浩久
テスト日: 2002年9月30日
テスト車の形態: 広報車
テスト車の年式:2002年型
テスト車の走行距離:6398km
タイヤ:(前)225/45R17(後)245/40R17
オプション装備:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:高速道路(5):市街地(3):山岳路(2)
走行距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

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