スバル・レガシィツーリングワゴン 2.0GT spec.B(5MT&5AT)【試乗記】
たしかに“グランドツーリング スペシャル” 2003.06.13 試乗記 スバル・レガシィツーリングワゴン 2.0GT spec.B(5MT&5AT) ……330.5万円/370.5万円 フルモデルチェンジを果たしたスバル「レガシィ」。シリーズの中心的存在であり、かつ一番人気のターボユニットを積んだトップグレード「2.0GT spec.B」に、別冊CG編集部の道田宣和が試乗。新開発の5段ATと、リファインされた5段MTモデルの違いを解説する。![]() |
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正真正銘の“大黒柱”
「国内で約7割、アメリカあたりではもっと多くて8割くらいですかね」(スバル技術本部車両研究実験統括部の日月(たちもり)丈志部長)。ツーリングワゴンはスバル「レガシィ」の、そしてスバル全体の屋台骨ともいえる、正真正銘の“大黒柱”だ。そのワゴンのトップモデル、「2.0GT spec.B」に2台続けて乗ってみた。違いは、5段ATと5段MTのギアボックスだけ。なにしろレガシィは、上位モデルほどよく売れるという特異なクルマでもある。先代の数字を記すと、ターボエンジンを積む“GT系”の割合は、約50%に達する。
「惣領も4代続くと鼻筋が通ってくる」というのは本当で、先代のデザインから垢を抜き、脂を落としたキープコンセプト型モデルチェンジのエクステリアデザインは、線がきれいでなかなかの仕上がりだ。カーゴルームの造り込みもさすがに手慣れたもの。使い勝手を大きく左右するフロアの平滑さには、特に意を払った形跡濃厚。ホイールハウス以外に突起がない“ボルボ並み”のスッキリ感である。ワゴンに付きものの、カバーやフック類の収まりもよい。リアシートを畳みたければ、テールゲートを開けたまま側壁にビルトインされた「電磁式リアシートフォールディングスイッチ」を引いてやるだけで、バックレストが自動的に前倒れする便利さだ。
まずは、シリーズ最強の280psを誇る5MTに乗ってみる。室内は不思議なことに、フロントとリアで印象が対照的だった。前席はドライバーのタイト感を優先してか、傾斜の強いAピラーと高めのウェストライン、太いフロアトンネルとそこから斜め上方に延びるセンターコンソールとで、アウディのような囲まれ感が支配的だ。
一方、後席はファミリーセダンの赴き。大型のクッションはやや平板なソファそのもので、“なで肩”の前席バックレスト越しに見える視界も思いのほか開放的。これには、スバルお得意の「サッシュレスドア」も一役買っているに違いない。
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強靱なワゴンボディ
ワゴンでサッシュレスとなるとボディの剛性不足が心配されるところだが、幸い杞憂に終わった。それどころか、この手のクルマとしてはむしろ例外的な強靱さといってよい。会場のホテルから公道へのアクセス道路は、まるでそれを試させるかのようにタイル状の舗装が敷かれ、ビルシュタインダンパーで足下を固められた「2.0GT spec.B」はビシビシとハーシュを伴うのだが、ボディは終始それと無縁でミシリともいわないのである。
それにしても、乗り心地はかなりの硬さだ。ビルシュタインは馴染むまでにある程度の走り込みが必要といわれる。事実、会場にあった広報車のなかでも、このクルマは比較的走行距離が少ない方だった。ロードカーとして“ギリギリの硬派ぶり”が許されるのも、WRC(世界ラリー選手権)で活躍を見せた、今も弟分「インプレッサ」が挑戦中のスバルならではか。
そうしたスバル信奉者の“熱さ”に最も応えるのが、ターボによって過給される2リッターから280psを絞り出す、依然過激なエンジンである。今回、新たにツインスクロールターボを採用して、ピークトルクの発生回転数引き下げとターボラグの解消に努めたとはいえ、やはりターボはターボ。スロットルをガバッと開けた瞬間に反応がなく、一呼吸置いていきなりドカーンと来るのは、独得の世界に違いない。発進直後の躊躇いは異様なほどだが、ひとたびブーストがかかってからの加速は凄まじく、この二律背反的な性格をどう捉えるかで好き嫌いがハッキリと別れるだろう。それがこのMTモデルのポイントである。
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意欲作の5段AT
次に、新開発の5段ATを搭載したモデルに乗った。結論からいうと、一般的なお勧めは明らかに5AT仕様だ、と思った。5MTのギアボックス自体は旧型よりチェンジが確実になったが、やはりターボパワーを実際の路上で随時フルに引き出せるという意味では、オートマチックに勝るものはない。また、この新しい5ATがイイできなのだ。多段化の恩恵で変速がきめ細やかになり、シフトショックのないスムーズさが楽しめるだけでなく、いざというときにはマニュアル並みの敏捷さでギアの選択ができるのである。
スタッガードゲート式のセレクターが「+」と「−」のシーケンシャルモードをもつのは、下位のNAモデル(2.0Rや2.0i)も同じ。GT系が違うのは、ステアリングスポーク上に新設されたティップスイッチの存在である。これさえ押してやれば、たとえそのときDレンジを選んでいても、即座にシフトダウン/アップが可能なのだ。しかも、その切り替わりが速く、レスポンスがいいから心理的なストレスが少ない。
ただし、このティップスイッチによるギア選択は一時的なもので、しばらく放置しておくと再び自動的に変速、すなわちDレンジに戻る。それに対して、セレクターでの選択はあくまでそのギア固定。したがって、同じマニュアルモードでもふた通りの使い分けができるというわけだ。いずれにしてもかなりの意欲作である。
パワーに関しては、同じ2リッターターボでもAT仕様は20ps低い260psだが、シフトダウンやキックダウンとブーストの効きがほぼ同時に起こる。オートマチックならではのメリットで体感上の速さは遜色なく、むしろ発進の素早さやターボラグの少なさにも助けられて好印象を受ける。いわば、「誰にでも手に入れられる高性能」なのである。
じっくり付き合う
2台の差はここまでのはずだったが、実際には乗り心地でも微妙な違いが認められた。当然、spec.B専用のビルシュタイン製ダンパーと、ブリヂストン「ポテンザRE050A 215/45R18 89W」は、どちらにも標準で付いてくる。しかし、同じく硬めな乗り味の中にも、AT車は、いくぶん角の取れたマイルドな感触が伝わってくるのである。さらに、MT車もそうだが、こうしたサスペンションの常で、ペースが上がれば上がるほど乗り心地は良くなる。
そうそう、この感じならば新型のキャッチフレーズである“グランドツーリング スペシャルティ”の言葉にピッタリではないかと思った次第。“等長等爆エキゾーストシステム”によってエンジン音が劇的といってよいほど静かになり、速くて平和なクルージングが堪能できるのだから。
このクルマのオーナーとなった暁には、足の硬いのを早々に諦めないで、じっくり付き合ってやることが肝要と見た。ただし、これも個体差なのか、ボディはMTに比べてなぜか若干緩く、時折リアの方でキシキシと艤装の軋む音がした。
ハンドリングに関しては、アーム類の軽量化やタイヤ&ホイールのグレードアップもあって、全体的なレベルの向上は明らかだ。基本的には、従来どおりシンメトリカル4WD(今回からAWDと呼ぶことになった)の特性を活かした、ハイグリップ/弱アンダーのセッティングである。ステアリングはパーキングスピードでやや重いが、少しでも動き出せば適度な操舵力になるタイプ。その操作フィールもブレーキのタッチもナチュラルなのがいい。
(文=別冊CG道田宣和/写真=峰昌宏/2003年6月)
