スバル・レガシィツーリングワゴン2.0GT DIT(4WD/CVT)【試乗記】
3年目の本気 2012.07.18 試乗記 スバル・レガシィツーリングワゴン2.0GT DIT(4WD/CVT)……431万5500円
マイナーチェンジを受け、スバル初となる直噴ターボの新エンジンを採用した「レガシィ」。300psを発生するスポーティーモデルの走りとは? ツーリングワゴンで試した。
あの日から3年
『新婚さんいらっしゃい!』で聞くなれそめの典型的なパターンのひとつに、「初対面の印象は最悪だった」というものがある。昔の青春ドラマでは取っ組み合いの大げんかから友情が芽生えたけれど、実際の生活でも「なんか第一印象が気にくわない」と思った人やモノほど長い付き合いになったりする。
なんというか、「気になる」と「気にくわない」は表裏一体かもしれない。少なくとも、全然印象に残らなかった人とは恋に落ちないのではないか。
3年前に、5代目となる現行「レガシィ」がデビューした時の初対面の印象も、最悪とは言わないまでも芳しいものではなかった。理由は二つ。いずれも、クルマの良しあしというより感情論だ。
まず、ボディーが大きくなってしまった。ステーションワゴンでいうと、先代より約10cm長くなり、5cm幅が広くなって約7cm背が高くなった。それから、随分と押し出しの強い顔になった。
丸刈りで若竹のようだった高校球児がプロ入りして、髪を染めてヒゲを生やして体をデカくして派手なネックレスをするようになってしまった。全体にボテッと太くなって、アスリートの精悍(せいかん)さやストイックさが失われたように感じたのだ。
そう思ったあの日から3年、レガシィシリーズが3度目のマイナーチェンジを受けた。毎年毎年、コツコツと改良していることになるけれど、今回のマイチェンは「フルモデルチェンジ級」の大がかりな変更だという。中でも目玉となるのが、300psを発生する2リッター直噴ターボのDIT(Direct Injection Turbo)エンジンを搭載するモデルだ。今回試乗したのは、ワゴンボディーの「レガシィツーリングワゴン2.0GT DIT」だ。
CVTの常識を覆す
ところがどっこい、都内をスタートして最初に心に訴えてきたのはエンジンではなく足まわりだった。前輪がどっちの方向を向いているのかとか、滑りやすい路面なのかグリップのいい路面なのかとか、そういった情報はしっかり伝わってくるのに、不快なガタピシはきれいに遮断してくれるのだ。
都合のいい情報だけを報告するイエスマンばかりだと会社は傾くけれど、「レガシィツーリングワゴン2.0GT DIT」は傾かない。正確には、適度にロールはするけれど、グラッとは傾かない。4本の脚がしなやかに路面をとらえて、滑るように走る。
市街地を普通に走るかぎり、エンジンは静かで滑らかな黒子に徹している。このスムーズさには、“ギア”のないリニアトロニック(CVT=無段変速機)も貢献している。ちなみにDITエンジン搭載モデルは、リニアトロニックだけしか設定がない。
CVTは加速に段差がなかったり最も効率のいい回転域を使えたりという利点がある反面、スポーティーな走り方をした時にアクセル操作に対する反応がワンテンポ遅れるなど、かゆいところに手が届かないものも多い。
ところが、「レガシィツーリングワゴン2.0GT DIT」の場合は、靴の上からかゆいところをかくような歯がゆさを味わわずにすむ。ステアリングホイールのスポーク上にある「SI-DRIVE」の操作スイッチをクリックすればいいのだ。
「SI-DRIVE」とは、スバルファンにはすでにおなじみの走行モードを変更できるデバイス。燃費を意識して穏やかに走る「I(インテリジェント)」モードから「S(スポーツ)」モードへ、さらに「S♯(スポーツシャープ)」モードへ切り替えると、アクセル操作に間髪入れずに水平対向エンジンが「シャキン!」と反応するようになる。レスポンスが鋭いあたり、エンジンとCVTとのマッチングにもかなり気を配ったのだろう。
ちなみに、「S#」モードではパドルシフトで8段のマニュアル操作ができる。市街地をしずしずと走っている時には、とても300psを発生するようなエンジンには思えない。静かで滑らかな、お上品なエンジンだ。けれどもこうして深呼吸をさせると、滑らかさはそのままにソリッドに回って「どーんと行けー!」的なパワーを生む、近代的なスポーツエンジンに変わる。
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「BRZ」用エンジンとの違い
このターボエンジンの型式名は、「FA20」型。ターボとNA(自然吸気)の違いはあるけれど、「スバルBRZ」が積むエンジンと同じ型式名で、86mm×86mmというボア×ストロークも一緒だ。ただし「BRZ」用には「D-4S」というトヨタの直噴技術が使われている。対して「DIT」は、排気量を小さくして効率を上げつつ、不足するパワーをターボで補うダウンサイジングのコンセプトで設計されたスバル独自の直噴ターボエンジンとなる。
コンセプトがまるで異なるエンジンだから両者を比較することに意味はない。ないけれど、それでも「DIT」ユニットのほうが手ざわりがキメ細やかで、繊細さとパワーを併せ持っている。このあたりが、スポーティーで高級なセダン/ワゴンにどんぴしゃの適性をもっていることはよ〜くわかる。「BRZ」用ユニットのネイキッドな手応えも、スポーツカーらしい好感の持てるものだ。
高速からワインディングロードまで、スタート時に感じた足まわりへの好印象は変わらず。聞けば、ハイパワーのDITエンジン搭載モデルに限らず、ボディー補強からバネ/ショックアブソーバーのセッティングまで全グレードのシャシーを見直したという。その成果は、間違いなく表れている。「しっかり」と「しなやか」が両立しているのだ。
良心を感じる安全性能
それから、これは自分で試すことはできないけれど、自動車事故対策機構による衝突安全試験(JNCAP)で2011年度の五つ星(最高評価)を得たのは、レガシィと「レクサスCT200h」と「日産エルグランド」の3台。特にレガシィは、今年度より新たに加わった「歩行者保護」の項目でトップをとっている。つまり、日本で「歩行者保護」の性能が問われる何年も前から、この性能の向上に努めていたことになる。そう考えると、現行モデルのボディー拡大も「世界で戦うため」ということでストンと腑(ふ)に落ちる。
そういえば、どんなに手間がかかっても、回転バランスに優れて重心の低さも実現できる水平対向エンジンを続ける点も立派だ。こんな面倒でぜいたくなエンジンを自社開発するのも、いまじゃスバルとポルシェだけだ。あと、カタログに大書きできない足まわりの見えない場所をコツコツと修正していことなども尊敬できる。
久しぶりにレガシィに乗ってみて、3年前の「初対面の印象」が、強い人のオセロみたいにひっくり返った。「3年目の浮気」ならぬ「3年目の本気」だ。
(文=サトータケシ/写真=峰昌宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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