ヒュンダイTB GLS(4AT)【ブリーフテスト】
ヒュンダイTB GLS(4AT) 2002.10.26 試乗記 ……135.8万円 総合評価……★★★![]() |
あっけらかん
大GMが「サターン」ブランドで、クライスラーが「ネオン」で挑戦して挫折したわが国の小型車市場参入。ヒュンダイのニューカマー「TB」が投入されるのは、なかでも「トヨタ・ヴィッツ」「ホンダ・フィット」「日産マーチ」などがシノギを削る、現在、最もホットなカテゴリー。1.3リッターにして89.8万円からの車両本体価格で、なんとか岩戸を開きたい。
どこかで見たような、何かに似ているような無国籍な5ドアボディは、乱暴に類型化すると、ちょっとフランス車風。いや、別にリアのサイドウィンドウまわりが「ルノー・クリオ(ルーテシア)」にそっくり、ということではなくて。低めのショルダーライン、後方へ向かって柔らかく下降するルーフライン、上屋に比して控えめな下半身と、2枚目ではないけれど、どこか憎めない風情が、個人的には好感。
ドライバーズシートに座ると、久々に目にするプラスチッキーなインストゥルメントパネル。シートそのものはいまひとつだが、工業製品然としたデザイン、無造作に設けられた、しかし使いやすいモノ入れ、そして手に馴染むステアリングホイールと、こちらも“ちょっと古い”フランス車風。青みがかったグレーに、幾何学模様を散らした内装も、ヨーロピアンシックといえないことはない。
走りは元気で、よく回るシングルカムの1.3リッターエンジン、ソフトな足まわり、ロールをともなったわかりやすい挙動と、「アングロサクソン」vs「ラテン」と大別すると、明らかに後者。ライブリィで楽しい。「Think Basic」ことTBは、あっけらかんとしたコンパクトカーだ。
![]() |
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
TBは、「ヒュンダイ初の世界戦略車」と謳われるコンパクトな5ドアハッチ。22ヶ月の開発期間と250億円の費用が投じられた。韓国では「クリック」の名で2002年5月から、欧州では同年7月から「ゲッツ」として販売が開始された。日本での発売日は、同年10月2日。邦名TBは、「Think Basic」の頭文字から取られた。最廉価版89.8万円からというアグレッシブな値づけで、日本での月販300台を目指す。
(グレード概要)
TBは、「1.3GL(89.8万円)」「1.3GLコンフォート(99.8万円)」「1.3GLS(109.8万円)」の3グレードが設定される。テスト車の「GLS」は最上級グレードで、外観ではルーフスポイラーとフロントバンパーに組み込まれたフォグランプが識別点。インテリア面では、本革巻きステアリングホイールが奢られ、ドライバーズシートにはハイトコントロールとランバーサポートが備わる。また、前席ダブルエアバッグに加え、サイドエアバッグが装備されるのもGLSの特権だ。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★
「合理一点張りの工業製品」にむしろ趣味性を見いだすヒト以外は、「安っぽい」と感じるであろうインストゥルメントパネル。ルノーを参考にしたのだろう、ブルーイッシュグレーの樹脂類は、上半と下半部で色調が異なる。インパネとドア部の色合わせがいま一歩だったり、センタークラスター左右に隙間があることなどは、まあ、ご愛敬。操作系は、迷う余地のない簡潔さ。「パワーステアリング」「パワーウィンドウ(運転席オートダウン機構付き)」「集中ドアロック+リモコンキー」と、一通りの装備はおさえる。ドアミラーは電動で調整可能だが、折り畳みは手動だ。
その日初めてエンジンをかけると、「今日は10月22日、パラシュートの日です」と解説してくれるイクリプスのDVDナビゲーションシステムは、販売店で取り付けられたモノ。標準では、「CD&ラジオ+前後4スピーカー+フロントツィーター」が装備される。
(前席)……★★★
座面の前後長がやや短いシート。座り心地はソフト。運転席側にのみ、座面の角度を調整する(武骨な)ダイヤルが2つと、背中腰付近を盛り上げるランバーサポートが備わる。座り心地は平凡。運転席側右斜め上の、通常アシストグリップがある場所にサングラス入れが備わるのが珍しい。ステアリングホイールは上下に調整可能。ステアリングコラム下の棚状のモノ入れは大きくて便利。ドア内張の、プラスチックで仕切られたポケットは好き嫌いがわかれよう。カップホルダーに差すカップ型の灰皿は、取り外せるのがイイ。なろうことなら、レスオプションにしてほしい。
(後席)……★★
後ろ下がりのルーフラインをもつため、頭上の空間は意外に余裕がない。膝前スペースは確保されるが、座面は短く、乗り降りを考慮して左右の前端がカーブしているため、シートベルトをすると、左右の乗員は外側の足がやや不安定。腰がないクッションも減点要素。とはいえ、大人用として十分実用に足る後席ではある。3点式シートベルトが3人分あり、中央にヘッドレストが設定されるのは、さすが欧州戦略車(ステーの長さがやや不足気味)。バックレストは、3段階にリクライニングでき、また6:4の分割可倒式。
(荷室)……★★
サスペンションストロークを取るためだろう、長いダンパーが左右サイドに突き出すため、TBのラゲッジルームは少々小さめ。最大横幅99cm、奥行き55cm、パーセルシェルフまでの高さは28cm。実は、フロアの下に、そっくりそのままの面積で深さ17cmの収納部が隠れる二重構造になっている。分割可倒式の後席背もたれを倒すと、フラットなフロアのまま荷室が拡大できる。床下収納の深さが、バックレストの厚みと同じに設定されているわけだ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
輸入車ながら、「優−低排出ガス(★★)」レベルに適合したシングルカムの1.3リッター12バルブ“アルファ”ユニット。82ps/5500rpmの最高出力と、11.9kgm/300rpmの最大トルクを発生する。街乗り加速時2500rpm付近ではゴロゴロうなるが、キックダウンでは「ビーン!」と(一部クルマ好きには)心地よい振動を伴って回転を上げる快活なエンジン。4段ATとのマッチングはよく、不自然さや痛痒を感じることはない。オーバードライブ「off」は、トヨタ車に多くみられるよう、シフター横のボタンを押すタイプ。100km/h巡航時のエンジン回転数は2250rpm付近と、低めに抑えられる。実用燃費の高さに、ちょっとオドロク。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
実用車として不満ない乗り心地。足まわりは柔らかめだが、接地感はしっかりある。適度なパワーアシストを得るステアリングと合わせ、TBは純然たる実用車ながら、ハンドルを握っていて退屈ではない。絶対的な動力性能は排気量相応だが、「街なか」「高速」「峠」と、各ステージで活き活きとした走りをみせる。コーナリングも限界は高くないが、わかりやすい挙動で、手の内に入る(ような)ファンがある。ブレーキのタッチもいい。
(写真=中里慎一郎)
![]() |
【テストデータ】
報告者:webCG青木禎之
テスト日:2002年10月22日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2002年型
テスト車の走行距離:1081km
タイヤ:(前)175/65R14 82T/(後)同じ(いずれもHankook centlm k702)
オプション装備:DVDナビゲーションシステム(26.0万円)
走行状態:市街地(3):高速道路(6):山岳路(1)
テスト距離:227.1km
使用燃料:20.6リッター
参考燃費:11.2km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。