ダイハツ・ムーヴ L & カスタムRSリミテッド(4AT/4AT)【試乗記】
四つに組む 2002.10.24 試乗記 ダイハツ・ムーヴ L & カスタムRSリミテッド(4AT/4AT) ……102.8/189.4万円 初代はタッチの差で「スズキ・ワゴンR」に先を越されたダイハツの“背高ワゴン”「ムーヴ」。3代目はライバルより一歩先のデビューを果たして雪辱を狙う。webCG記者が、千葉県は幕張で乗った。ちょっと軽とは思えない
2002年10月15日にデビューした新しいムーヴは、基本的にこれまで通り、おとなしい普及版(?)「ムーヴ」と、丸目(風)4灯のスポーティバージョン「ムーヴ カムタム」に大別される。エンジンは、0.66リッターの直3NA(自然吸気/58ps、6.5kgm)とターボ(64ps、10.5kgm)。カスタムには、それらに加え、「軽」で唯一の4気筒ターボ(64ps、10kgm)もラインナップされる。トランスミッションは、コラム式4段ATをメインに、フロアシフトの5MT、CVTが用意される。FF(前輪駆動)のほか、4WDあり。
千葉県は幕張で、プレス試乗会が開催された。先代ムーヴのイメージを引き継ぎながら、すっきりモダーンになった新型に乗る。ベーシックグレードの「L」である。
撮影機材を積もうとリアドアを引いて、やたらと広く開くのにオドロク。ヒンジ式の4枚ドアは、前後とも開度約90度。「ドアが取れちゃうかと思った」とは、『webCG』でおなじみ、自動車ジャーナリストの河村康彦さんの言葉だ。なお、リアドアの横開きは継承された(上ヒンジの跳ね上げ式も、1.0万円のオプションとして設定される)。
フロアは、1630mmの全高から想像されるよりズッと低い。ベンチシート風のフロントシートに座ると、頭上に空間がありあまる。広い。幅で80mm拡大されたという数値以上に。
インパネまわりは、ちょっと軽とは思えない質感の高さだ。テカらない樹脂類、オーディオ、エアコン吹き出し口など、キレイに面が合わせられたパーツ類、助手席側に素直に流れてダッシュパネルに溶け込むメーターのひさし。「ダイハツ、頑張ったなァ」と感心する。ムーヴ「L」の車両本体価格は94.8万円である。
近代建築の実験場のような幕張の街を、「ラベンダーメタリック」のムーヴが行く。目の前にデン置かれた、大きな半円形の速度計が潔い。
DVVT(Dynamic Variable Valve Timing)こと可変バルブタイミング機構を備えた3気筒ツインカム12バルブは、4段ATを介して800kgのボディをひっぱる。車内は、ノンビリ走れば会話に支障ない程度に静かだが、回すと「ビーン」と3シリンダー特有のノイズが高まって、ウルサイ。エンジンのマウント方法を変え、遮音材の配置を工夫して静粛性を上げたというが、いちユーザーとして乗る限り、動力系からは、内外装ほどに“進化した印象”は受けなかった。
しかし、足まわりはいい。前マクファーソンストラット、後トーションビームと、サスペンション形式こそ旧型と変わらないが、まるで別モノ。グッと落ち着きを増した。再びこの表現を使うのはココロ苦しいが、「ちょっと軽とは思えない」。同じグレードの別の個体で高速道路を試したところ、もちろん絶対的な動力性能は0.66リッター相応だが、速度がのればハイスピードクルージングを楽々こなす。ステアリングが軽くなったり、フラつくこともない。安定して走る。「スタビリティが高い」なんてフレーズが思い浮かぶほどに。
産業の総合力
新開発のプラットフォームを用いたニュームーヴ。新型の各部に驚いたり、感心したりしながらも、「結局、3代目は先代の大幅リファインということか」と結論づけて会場に戻る。開発をとりまとめた製品企画部主査の福塚政弘次長がいらしたので、さっそく聞いてみた。
−−新型ムーヴは何が新しいんですか?
ミもフタもない質問に表情を変えることなく、福塚さんはニコやかにおっしゃる。
「衝突安全性を向上させました。軽量化を図りました。パッケージングを追求しました」
衝突安全では「JNCAP」5ツ星レベルを達成。社内では1.4トンの「トヨタ・セルシオ」と50km/hでの前面、側面衝突試験を実施、いずれも十分な乗員生存空間を確保したという。「フロントサイドメンバー」と呼ばれる、エンジンルーム内左右を縦断する骨格の高さを普通乗用車と同じ高さに上げ、衝撃を真正面から受けられるようにした。また、メンバー前部分の板厚を3段階に変えて、エネルギー吸収性を高めた。側突にも備えて、キャビンを構成するサイドパネルには高張力鋼板を使用。
「セルシオでも390メガパスカルのところ、ムーヴは440メガパスカルです」と福塚さんは胸を張る。
そうですか。440メガパスカルですか……。
ボディ強化で増加した重量は、構造改善とハイテンション鋼使用率をアップすることで、本来なら18kg重くなるシェルボディを、逆に3kg軽量化させたという。ボディ各所で、「硬/軟&厚/薄」取り混ぜた構造が採られた。使われる材質によって色分けされたホワイトボディを前に、「シミュレーションによる解析」「素材開発」「実際に組み立てる技術」と、クルマが産業の総合力を体現する存在であることを、改めて実感した。
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落ち着いたカスタム
ムーヴのボディサイズ、全長×全幅×全高=3395×1475×1630mmは、軽自動車枠ゆえ旧型と変わらないが、ホイールベースは+30mmの2390mmになり、室内空間の拡大が図られた。新型ムーヴを真横から見ると、後輪などは、後ろに残るのは泥よけのみ、といった感じだ。
「またセルシオを引っ張り出すようでなんですが……」と、福塚さんは笑いながら「後席はセルシオ並です」と言う。たしかに足もとのスペースは余裕たっぷり。背もたれは左右分割式。テスト車の「L」グレードには備わらないが、「R」「X」といった上級グレードは、背もたれを前に倒すと、シートクッションも連動して下に沈み、荷室フロアをフラットなまま拡大できる。後席一体で250mmのスライドも可能。ただ、個人的には、もう少し座面を高くした方がいいと思った。せっかく頭上の空間があまっているのだから。
残りの時間で、ツインカム16バルブターボを搭載した「ムーヴ カスタムRSリミテッド」をドライブすることにする。4気筒ターボは、3気筒のボア×ストローク=68.0×60.5mmと比べ、61.0×56.4kgmとボアが小径化されたが、それでもショートストローク。トルクを得るうえで若干の不利は否めまい。
−−どうして4気筒が必要なんですか?
これまた芸のないリポーターの問いに、開発主査は、
「ムーヴは、30代のファミリー層がユーザーの中心です。なかにはコレ1台という方も多くて、やはり4気筒の上質感を好まれる向きがあります」と答えてくださった。“上質感”に言及しながら過給機付きしか設定されないのは、やはり細くなりがちなトルクを考慮してだろう。
カスタムRSリミテッドの室内は黒でまとめられ、シルバー塗装のセンタークラスターが「硬質でスポーティな雰囲気を演出」(プレス資料)。メーターナセル内には、速度計の右隣にタコメーターが並ぶ。8500rpmからがレッドゾーン。RSには、ステアリングホイールのスポークに設けられたスイッチでギアを変えられる「ステアシフト」が採用された。
コンプレッサ&インペラが小型化されたターボエンジンは、3000rpmを超えるあたりから太いトルクがなだらかに立ち上がり、4灯モデルを力強く加速する。が、意外や、それ以降に爆発的な速度の上昇は見られない。かつての軽ターボにあった“ドコ行っちゃうの?”感は皆無。大人なカスタム。足まわりともども「落ち着いた」といえるが、無責任に「ツマラナイ」とも感じた。
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抜けるかな
骨格から鍛え直したダイハツ・ムーヴは、「静的&動的」の両面で、小型車に匹敵するクルマに仕上がった、と思う。小さい体躯ながら、しっかり四股を踏んで、上位力士と四ツに組めるようになった、とでもいいましょうか。「アッパレ!」と声を上げたいところだけど、ただ、行司が親方日の丸だからなァ……。
むろん、そうした事情は開発陣にとって考えても詮ないことだ。
ターボモデルの試乗前に、リポーターは、初代からムーヴに携わる開発責任者のライバル心を刺激してみた。
−−初代は「スズキ・ワゴンR」が先攻でしたが、今回はムーヴが先に攻めることになりました。
「あのときは社内でいろいろありました。わずかの差ですけどワゴンRに発表を先行されまして、販売面でも……」と言葉を切って、福塚さんは遠くを見つめる。後塵を拝してきた、とリポーターが心のなかで付け加える。
「でも、今度は先行しましたからね。(販売台数でも)抜けるかな、と」。最後までニコやかに応える福塚次長であった。
(文=webCGアオキ/写真=中里慎一郎/2002年10月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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