メルセデスベンツE320アバンギャルド(5AT)【試乗記】
クルマのことはクルマに 2002.09.10 試乗記 メルセデスベンツE320アバンギャルド(5AT) ……710.0万円 「理想さえ、進化する。」とカタログで謳われる、メルセデスの新型Eクラス。モデルチェンジの目玉は、電子制御ブレーキと、金属バネに替えられたエアサスペンション。電脳パーツを搭載した「E320」に、自動車ジャーナリストの金子浩久が乗った。Eクラスの驚き
初めてメルセデスベンツを運転した時の驚きは、今でもよく憶えている。
友人の父親が持っていた3代前のEクラス「230」、型式でいえば「W123」となるミディアムクラスの2.3リッター4気筒を積んだセダンのドアハンドルをつかんだところから、驚きは始まった。こちらは、国産車と何台かのイタリア車とアメリカ車にしか触れたことのないビギナー。230のドアハンドルは太くガッシリしているのに、動きは滑らかで、大して力を入れていないのに、「カチャッ」と音を発てて分厚いドアが開いた。それまで乗ったことのある他のどのクルマとも、その重厚な感触は似ていなかった。
もうそれだけで、230の機械としての高精度さ、高品質なところは伝わってきた。ドアの開閉という動作に、考えられ得る限り最高の安全性と確実性を付与するために、エンジニアの英知を結集し、最高の素材を用い、凝った構造を採用しているに違いない。そう思わせるに十分なものが感じられた。
オーラの存在は、キーをひねってエンジンを掛けようとしたところで決定的になった。セルモーターが“小さい”のである。クルマに対して、セルモーターの存在が小さく感じられた。国産車などでは、「ギュウィウィウィウィッ」という具合にボディを大きく振るわせながら、騒がしくエンジンをかける。一方の230は、ボンネットの一番先の方で、耳をそばだてなければわかならないほど小さな音量と短い時間で、「シュンッ」と軽くかかる。ボディはビクともしないから、セルモーターを小さく感じたのである。実際の寸法は変わらないのかもしれないけど、小さく感じたことで230も、メルセデスベンツのボディの堅牢さ、高精度な組立などがイメージできたのだ。 走り出してからの印象も鮮烈なものだったが、それはまた別の機会に書きたい。
その20数年前の230から数えて3回のモデルチェンジを経たメルセデスのミディアムクラスの中心車種「E320」に乗った。今度のEクラスは先代同様に4つ眼のヘッドライトが外観上の特徴となっていて、ちょっと見にはフルモデルチェンジしたのがよくわからない。でも、よく見ると、フロントグリル面はより傾斜し、ヘッドライトは細長くなっている。すこし離れると、リアウィンドウの傾斜が強くなっている点からも新型を見分けることができる。
電脳ブレーキ
ニューEクラスのボディ寸法は、4820mmの全長が先代と同じで、全幅が20mm、全高が15mm拡大した。ホイールベースは20mm延長され、2855mmとなった。
「スタイリング」や「寸法」は先代を順当に発展させたものだが、シャシーの電脳化が著しい。SLの「センソトロニック・ブレーキ」が新型Eクラスにも標準装着されるようになった。
センソトロニック・ブレーキとは、ドライバーが操作するブレーキペダルと、実際のブレーキ作動を行なう電子制御ユニットを電気回路で結び、状況に応じて4輪それぞれに最適な制動力を発生させるシステムだ。コーナリング時、高速からの急制動時、雨天走行時など、4輪それぞれのブレーキ操作を細かくコントロールする、いわば「ブレーキ・バイ・ワイア」と呼べるものだ。
ワインディングロードのコーナーに進入する際に、それまで踏んでいたアクセルペダルから足を離すのを感知して、ブレーキ圧を自動的に高め、ブレーキディスクとパッドとの間隔を瞬時に狭める。そうすると、次にブレーキペダルを踏んだ時に、最大の制動力を発揮できる。こう書くと、2から3秒ほどもかかりそうだが、すべては「アッ」という間もなく行なわれる。
仕組みは非常に複雑で、作動も精妙。コーナーに進入しても、外輪のブレーキ圧を高く、内輪のそれを低く自動調整して、制動時の安定した走行姿勢を保つとともに、制動距離の短縮化をはかったりもするハイテクぶりだ。
約束された成功
もうひとつ、電脳化されたシャシーは「AIRマチックDCサスペンション」だ。E500に標準装備、E320ではスポーツサスペンションとセットでオプショナル装備される。電子制御のエアスプリングとダンパーを備えたセミアクティブサスペンションで、さまざまな制御を自動的に行なう。
その走りっぷりは、高速道路の走行で美点となって現われた。今回の試乗車には「AIRマチックDCサスペンション」は装着されていなかったが、東北自動車道と磐梯山周辺のワインディングロードでの試乗会では、いかなる状況にあっても「フラットな乗り心地」「速度を上げれば上げるほど安定していく直進性」を崩すことがなかった。路面状況と、それに合わせたこちらの運転が変わっても、ファーストクラスの飛行機や新幹線のグリーン車に乗っているかのように、車内の快適性は不変なのだ。何も起こらない。もうひとつ、風切り音の低さに感心していたら、Cd値が0.26(E240)というセダンとしては異例に低い数値なので納得した。
ワインディングロードを走っては安定一辺倒で、自分が運転に参画している喜びのようなものは小さい。ジャガーやBMWが、ステアリングホイールや足まわりを通じて、路面とクルマの状況をドライバーに少しでも多くフィードバックさせようとするのに対して、E320はある一定のところで線を引いている。クルマのことはクルマに任せておけばよいといわんばかりに、だ。
新しいEクラスは、最新の技術を用いて先代を大きくリファインしてきた。キャブレターで混合気をつくっていた230からは、当たり前だが、同じシリーズとは思えないほど進化した内容を持っている。何か特別なことでも起こらない限り、商業的に成功することだろう。
(文=金子浩久/写真=高橋信宏/2002年9月)

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