プジョー5008プレミアム(FF/6AT)/5008シエロ(FF/6AT)【試乗記】
守備範囲の広いやつ 2013.03.17 試乗記 プジョー5008プレミアム(FF/6AT)/5008シエロ(FF/6AT)……300万円/355万円
プジョーブランドのミニバンとして、日本で初めて販売される「5008」。2グレードの試乗を通じてわかった、走りと乗り心地、そして使い勝手をリポートする。
“ミニバン王国”でいざ勝負
「プジョー5008」は、「シトロエンC4ピカソ」や「プジョー3008」と共通のプラットフォームを使って開発された7シーターだ。2-3-2のシートレイアウトやリアシートの格納の仕組みなどはピカソと共通で、ピカソのプジョー版と言えなくもないが、全体的に、もう少し常識的なデザインで、かつカジュアルな印象。価格もピカソの349万円に対し、エントリーグレードの「プレミアム」で300万円、上級グレードの「シエロ」で330万円と、少し安い。
先日開かれたジュネーブショーで新型C4ピカソが発表されたが、どうやらピカソは少し上級移行するようで、いずれ新型ピカソが日本に導入されても、それほどカニバることはなさそうだ。
インポーターの呼び方にならってカッコよく7シーターと呼んだが、分類上はミニバンだ。
それはそうと、日本市場ほどミニバン比率が高い国は、そうはない。なにしろ軽自動車を除く新車販売台数約300万台のうち、約80万台だ。3.75台に1台。土地が狭くて高いために複数所有が難しく、ユーザーはどうしても大は小を兼ねる的考え方に支配されがち。
そのミニバン大国ニッポンに投入された欧州製ミニバンは過去にも何モデルかあるが、一番成功したのは現在も販売中の「フォルクスワーゲン・ゴルフトゥーラン」だろう。5008はそのゴルフトゥーランに真っ向勝負を挑むサイズと価格で登場した。
現行のプジョー車はおちょぼ口フロントグリルと切れ長のヘッドランプにして統一感を出しているが、5008はヘッドランプこそ切れ長だが、明確なおちょぼ口は見当たらない。そのほか、エクステリアは全体的に要素の少ないすっきりしたデザインに見えて、フロントからリアにかけてだんだんエッジが際立つキャラクターラインなど、随所に仕掛けが隠されている。
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走りだしから「ピカソ」と違う
数字を並べることになって恐縮だが、ちょっと比較してみたい。まずサイズ。全長4530mm、全幅1840mm、全高1645mm、ホイールベース2725mmというと、ゴルフトゥーランよりも125mm長く、45mm幅広く、25mm背が低い。車重は5008が1600kg(シエロ)、ゴルフトゥーランTSIコンフォートラインが1580kgと、ほぼ一緒。
エンジンは5008が1.6リッター直4ターボで、最高出力156ps/6000rpm、最大トルク24.5kgm/1400-3500rpm、ゴルフトゥーランが1.4リッター直4ターボ+スーパーチャージャーで、同140ps/5600rpm、同22.4kgm/1250-4000rpmとこれもほぼ互角。燃費は5008が11.7km/リッター、ゴルフトゥーランが15.0km/リッターと、この点では5008は分が悪い。5008はトルコンの6段AT、ゴルフトゥーランは7段のデュアルクラッチ式ATなので、この点で差がつくのかもしれない。
もちろん、敵はゴルフトゥーランだけではなく、日本製のミニバン多数とも競争しなくてはならない。プジョーはユーザーのロイヤルティーが高いブランドのひとつだろうが、ミニバンは趣味性を最優先して選ぶわけではなく、冷静に家族構成や損得で選ばれがちなカテゴリーだ。「俺のはその辺のとはちょっと違う」が口癖だったはずの「207」や「308」のユーザーが、子供ができて物入りになった途端、“煌(きらめき)バージョン”や“モノより思い出”へ走っても不思議ではない。価格的には「プリウスα」の最上級グレードあたりとかぶる。
それらライバルを頭の隅に置いて、5008を試乗した。走りだしてまず気づいたのは、私事ながら日頃愛用するC4ピカソと同じエンジンながら、トランスミッションが異なるので、走りだしの印象が異なるということ。
ピカソが6段EGSというシングルクラッチのロボタイズドMTを搭載するのに対し、5008は前述の通りトルコン式6段ATを積む。アイシン製。ピカソに比べ、スタート時は50倍、走りだしてからは25倍くらい、変速がスムーズだ。いやピカソも勘どころを押さえてうまくやればスムーズなのだが、単にDレンジに入れてアクセルを踏むと、これくらいの差がつく。
プジョーとしての味がある
BMWと共同開発し、名機の誉(ほまれ)高いこのエンジンは、「シトロエンDS3レーシング」や「MINIジョンクーパーワークス」に載せればキレキレのスポーティーエンジンになる一方、実用車向けにチューニングすればフラットトルクの働き者エンジンとなる、守備範囲の広いパワーユニットだ。大人3人を乗せて街中から郊外まで走ったが、どんなシチュエーションでもストレスを感じさせない。
エンジンはBMWとの共同開発、トランスミッションはアイシン製と、今のプジョーやシトロエンはフランス車なのか? と思われるかもしれないが、足まわりを自分でやっている限り、フランス車は永久に不滅だ。むしろパワートレインをよそから調達することで、得意技に集中したフランス車と言えよう。
くれぐれも断っておくが、このあたりはすべて褒め言葉だ。したがって、5008もまごうかたなきフランス車であり、プジョーだ。例えば、車高が1600mmを超えるから308あたりよりロール量は大きいが、ロールのスピードが絶妙で、“ゆらり”とも違えば、つっぱる感じでもない。あくまで入力に応じて漸進的にロールする。段差での突き上げも上手にいなすが、石畳路面を走る際、フロアの振動、いわゆるハーシュネスが少し目立った。ただ、テスト車は走行わずか1500kmだったので、このあたりは3000kmくらい走った個体で再確認したい。
ミニバンとしての5008の特徴は、運転席、助手席はもちろんのこと、2列目、3列目も独立したシートを備える点にある。440mmの均等な幅の2列目シートは、大人が長時間を過ごすのに十分で、左右席の前にはテーブルも備わる。長尺物を積む時には、3席のうちの1つか2つを格納すればいい。さらに長尺物の場合は、助手席シートバックも前倒しできる。
ただし、3座が独立している分、2人がゆったりぜいたくに横幅を使って座ろうとすると、各シートの端の盛り上がった部分が少し尻に干渉する。それがいいという人もいるかもしれないが。
3列目はラゲッジスペースとのトレードオフのため、普段は格納されていることが多いのだろうが、出せば出したでエマージェンシーというには十分過ぎる居住スペースと立派なシートを備える。車内のそこかしこに物入れスペースがあり、家族旅行で子供のおもちゃがなくなっただの、転がって危ないだのということは少ないはずだ。2列目と3列目をすべて格納すれば、180cmの大人2人が横になれるフラットスペースが広がる。どう過ごすかは貴方(あなた)しだいだ。
(文=塩見智/写真=田村弥)

塩見 智
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