メルセデス・ベンツE250(FR/7AT)/E63 AMG S 4MATIC(4WD/7AT)【海外試乗記】
内に秘めたものがある 2013.03.11 試乗記 メルセデス・ベンツE250(FR/7AT)/E63 AMG S 4MATIC(4WD/7AT)フロントマスクの変更に加え、新開発のエンジンユニットや先進の安全システムを採用したという最新型「Eクラス」のその内容とは? バルセロナからのリポート。
最新の安全システムが満載
量的にも質的にもメルセデスにとってど真ん中を担う立場にいることはもちろん、長年世界のパッセンジャーカーの範であり続けてきたモデルといえば、ミディアムセダンの「Eクラス」。その現行型、W212系が登場してはや4年の時がたとうとしている……とあらば、タイミング的にはいつ大きなテコ入れが入ってもおかしくない頃合いだ。というわけで満を持して登場した新しいEクラスは「マイチェン」と通り一遍で片付けるにはもったいないと思えるほどの進化を遂げていた。
中でも大きなトピックは2つ。1つは新規導入やバージョンアップを含めた先進安全デバイスの充実が挙げられる。
衝突回避・軽減の制動介入を行う「プレセーフブレーキ」は、センシング系統にステレオカメラが追加されたことにより、歩行者の種別・距離判定が可能になった最新バージョンへと進化。50km/h以内の速度であれば歩行者との衝突もほぼ回避できるようになっている。
また、全車電動パワステ化に伴い、車線逸脱が予想される時に、ステアリングに微舵(びだ)を加えて運転支援を行う「ステアリングアシスト」をメルセデス・ベンツとしては初採用。こちらもさらに進化したディストロニックプラスと連動させることで、巡航時のドライバー負担を低減している。
加えて車線逸脱に関してはESPの機能を使ってブレーキを片効きさせることにより、車両を車線内へと戻す「アクティブレーンキーピングアシスト」も継承されており、二段構えでの制御によって半自動ともいえるコーナーのトレースが既に実現しているというわけだ。
他にもステレオカメラを用いて前方の車両や歩行者の飛び出しを検知し、ブレーキの効きを強める「クロストラフィックアシスト」や、後方レーダーとの連携による追突時の乗員保護および、二次被害の軽減を促す「プレセーフプラス」、ハイビーム時に対向車両のみへの照射を遮光する「アダプティブハイビームアシストプラス」など、実用として考えられるアドバンスドセーフティーシステムを新しいEクラスは余さず網羅している。
これらは近々登場する新型「Sクラス」に搭載されるだろう技術の一部を前倒し採用したという見方もできなくはない。大物のデビュー前に市場に晒(さら)しての露払い役を……というのは欧州メーカーではよくあるパターンだ。
ドライバーに危機認識を促す
が、露払いとするには失礼なほど、Eクラスのそれは素晴らしい出来栄えをみせてくれた。「」(カッコ)をつけた全ての機能が試せる状況ではなかったが、単にセンサー類の情報をエラーなく判定し、ハード側と連携させるというだけでなく、そこに使い勝手の良さや自然な作動感、さらには乗員への危機啓発といった概念まで採り入れられているあたりはつくづく感心させられる。
例えば歩行者衝突回避のプレセーフブレーキにしても、Eクラスのそれは明確な二段減速を実現している。二段減速にする理由は、一段階目で0.5G程度の減速時間を引き延ばすことによって、乗員側へ緊急制動に対する身構えを促すためだ。あるいはアクティブレーンキープアシストで最終的な舵補正に片側ブレーキを使う理由は、乗員にレーン逸脱という運転ミスを明確に認識させるという意味合いがある。
いかに簡単な操作で違和感なく自然にデバイスを働かせるかだけでなく、乗員への状況認識を促すことこそが総合的な安全へとつながる。自動運転への礎ともなるアドバンスドセーフティーをやる上で、そういった哲学的思考は後々重要なファクターとなってくるだろう。システム作動の安定性や快適性を突き詰めただけでなく、こういった概念が既に織り込まれているあたりがメルセデス・ベンツらしさのゆえんであり、Eクラスの先進安全システムは世界一の座にあると断言できる。
新開発の2リッター直4ターボを搭載
そしてもう1つのトピックはエンジンの一部刷新。しかもそれは日本仕様の売れ筋となる「E250」において、もっとも重要な進化がみられるということだ。
E250のエンジンはこのマイチェンモデルで、従来の1.8リッター直噴4気筒ターボから、まったく新しい2リッター直噴4気筒ターボに置き換わることになる。しかもこのエンジンは、市販ユニットとしては世界で初めてリーンバーン+EGRの組み合わせに成功し、熱効率に関してはディーゼルのそれに大きく近づいたものとなった。それを端的に示す数字がわずか1200rpmから発生する350Nm(35.7kgm)の最大トルク、そして135g/kmというCO2排出量だ。
日本では発売されない2.2リッター直噴4気筒ディーゼルターボの「E200 CDI」と比較すると、パワーは圧勝でトルクもほぼ同等にしてその発生回転域はE250の方が低く、CO2排出量は127g/kmと8gの差しかない。そして日本でも継続販売される「E350ブルーテック」の3リッター直噴V6ディーゼルターボと比べても、CO2排出量はE250の方が低くなっている。ガソリンエンジンとしてはいかに驚異的な効率をもっているかがわかるだろう。
そのE250、純粋に走ってみての印象も先代E250の1.8リッターユニットを上回る総合満足度をキッチリ備えているというもの。スペックにも表れているごく低回転域からの最大トルクに7Gトロニックとの組み合わせもあって、タウンスピードでもエンジンを無用にうならせることなく発進や加速をゆったりとこなせるほか、高回転域では211psのパワーをもって一枚上手の速さをみせてくれる。懸念されるフィーリングも高回転域まできちんと吹け伸びる感覚を伴っており、音・振動に関してもダイナミックバランサーの採用もあって先代比で不快に感じられる要素はない。
残念ながら燃費を測れる環境ではなかったが、瞬間燃費計の推移からみるに、タウンスピードでの燃費向上はしっかり感じ取れそうだ。
AMGに高出力の「Sモデル」が登場
そして同時にデビューした「E63 AMG」にも大きなトピックは用意されていた。従来はパフォーマンスパッケージとしてオプション扱いされていた高出力仕様がグレード化され、「Sモデル」へと昇華。搭載されるエンジンは前型と同じ5.5リッター直噴V8ツインターボだが、出力は標準モデルでも32ps増しの557ps、Sモデルでは585ps/800Nm(81.6kgm)と、サルーン系モデルとしては猛烈に過ぎるほどのパワーを発することとなった。
加えて標準モデルにはFRに加えて4MATIC(4WD)を設定、Sモデルに関しては標準仕様で4MATICのみの設定となっている。ターボ化の波によって容易にパワー&トルクを得られるという効能がある一方で、それを二駆でドライブするにはシャシー側、タイヤ側の能力に限界があるのも確か。恐らくAMGは今後、パッセンジャーカーのラインナップでも四駆を拡大採用していくことになりそうだ。
その前後駆動配分は33:67の固定式となり、低ミュー路では多板クラッチの締結によりロック率を高めるほか、ESPのモード設定によっては各輪独立のブレーキ介入による旋回性の向上を実現。さらにSモデルでは機械式のLSDをリアアクスルに配置するなど、見るからに曲がりを意識した仕様となっている。
自ら「世界最速のビジネスリムジン」を標榜(ひょうぼう)するだけあって、そのパフォーマンスは“速い”を通り越して“エグい”というにふさわしいほどだ。四駆の利もあって0-100km/h加速が3.6秒というSモデルも、アクセルを底踏みすると身をよじらせるように路面を蹴たぐり、景色をゆがめながら速度計の針を跳ね上げる。それでもドライバーには一定の安心感をもたらしてくれるのは、常に前輪側のコンタクト感が明瞭に伝わりくる四駆ならではの効能だろう。
これが標準のFRモデルになるとさすがにスキルが速さに追いつかない感があるが、危険な状況に陥らずともクルマの側が緻密な電子制御の連携で姿勢をなだめてくれるため、常識的なドライブではあふれるパワーが牙をむくことはない。
両車……というか、新型Eクラスの全車に共通するネガは、セーフティーデバイスと連携する電動パワステ採用の影響で若干操舵フィールがデッドになった印象を覚えることだろうか。
一方で、シャシー側の熟成によって前型比でスタビリティーや転がりの精度感は確実に増している。総合的なライドフィールはトントン以上というところだが、ことさら操舵感に一家言もつメルセデス・ベンツだけに、このあたりは今後のリファインを期待したいところだ。
外板から手を入れ直した一目瞭然のスタイリングは一要素に過ぎず、中身にこそ未来への強力なメッセージを秘めた新型Eクラス、日本への導入は2013年の年央あたりが予定されている。
(文=渡辺敏史/写真=メルセデス・ベンツ日本)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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