第284回:『トップ・ギア』登場車に見る、フクザツなイギリスのクルマ愛
2013.02.22 マッキナ あらモーダ!第284回:『トップ・ギア』登場車に見る、フクザツなイギリスのクルマ愛
名(迷)自動車バラエティー番組
ボクが小学生だった1970年代、東京12チャンネル(現:テレビ東京)は、世界の珍しい番組を放送する、ありがたい放送局だった。特に覚えているのはカナダ制作の料理バラエティー『世界の料理ショー』と、イギリスのコメディー『空飛ぶモンティ・パイソン』だ。『空飛ぶモンティ・パイソン』は特に衝撃的だった。イギリス公共放送BBCの番組にもかかわらず、エリザベス女王を含むイギリス王室をねたにした、きわどいギャグをたびたび流していたからだ。子どもながらに、自由なヨーロッパの風を感じたものだった。
その同じBBCの、今日における名物番組といえば、自動車バラエティー『Top Gear(トップ・ギア)』だろう。日本でも、現在までいくつかのメディアを通じて紹介されているので、ご存じの方も多いと思う。1977年の放送開始以来、硬軟とりまぜ、ありとあらゆる企画が実施されてきた。特に、超高性能車のインプレッションものはファンの間で知名度が高い。
おかげで、“低性能車”ファンのボクは当初、あまりこの番組に興味を持っていなかったのだが、関心をもつきっかけとなったのは別コーナーで出演者3人が繰り広げる、カスタムカー企画の数々であった。
その面白さを通り越して、ばかばかしさ満点の歴代カスタムカーたちを見られるのが、イギリス南部のハンプシャー州ビューリーにある「ナショナルモーターミュージアム」である。「The World of Top Gear」と名付けられた展示は、屋外テントの下に設けられたものだが、期限のない、ほぼ常設展扱いとなっている。
拡大
|
拡大
|
拡大
|
発火あり、緊急出動あり
ここに「The World of Top Gear」の展示車と番組内容の一部を解説しよう。
「TGV12スポーツトレイン」は、2011年に「カートレイン」というタイトルのもと放送されたときに使用されたものだ。「ジャガーXJSコンバーチブル」をベースに作り上げたレールカー、つまり鉄道走行用車両である。
脇にある解説によると、「鉄道旅行を安くすべく、クルマをベースに製作された画期的移動手段」とのこと。番組内では出演者のひとり、ジェレミー・クラークソンが運転した。
競うのは、同様に「アウディS8」を改造したレールカーで、こちらは別の出演者であるジェームズ・メイが運転する。いずれも、番組内では、客を乗せたトレーラーをけん引しながら、実際の線路上を高速で走った。途中アウディS8がけん引していたキャンピングカーの厨房(ちゅうぼう)から発火、という“アクシデント”にも見舞われる。
2007年に放送され、番組ファンの間では伝説となっている「リモ・チャレンジ」の回に登場したクルマも鎮座している。初代「フィアット・パンダ」と「MGF」を、やたら長いリムジンに改造してしまおうというものだ。
企画はそれだけにとどまらない。「VIPの乗るリムジンは、時に襲撃される危険性がある」との前提から、出演者たちはショーファー役とテロリスト役に分かれて、両車の緊急回避性能試験を実施する。ただし、ボディーを思いきりストレッチしてあるうえ、ベースがベースだけに思うようには逃げられず……というお話である。
展示車には含まれていないが、この「リモ・チャレンジ」では、3台目のクルマも登場した。「アルファ164」と「サーブ9000」をいずれも後部ドア直後でぶった切り、双方の頭だけつなぎ合わせたクルマだ。「サルファ・ロミアブ(Salfa Romeaab)」と名付けられている。
クルマ好きならご存じのとおり、2台は同じプラットフォーム上に造られたモデルである。だが、番組内でそれには一瞬しか触れず、代わりにアルファ164側の室内にはシスティーナ礼拝堂が、サーブ側の室内にはサウナしつらえてあることを強調して、お笑いをとる。
拡大
|
拡大
|
拡大
|
将来日本でも、『カーグラフィックTV』で、1980年代の姉妹車「日産サニー」と「日産ローレル スピリット」を真っ二つにしてつなぎ合わてほしいものである。
いっぽうプロペラ付きキャンピングカーは、2009年放送の「キャラバン飛行船」に使用されたものである。キャンピングカーを飛行船のゴンドラとして使用するもので、ジェームズ・メイが乗り込んだ。
コンセプトの発端は、「渋滞に巻き込まれることなく、キャンプ場に到着したい!」といういたって素朴なものだった。
実際にメイは、キャンピングカーの上部に飛行船を付けて飛び立つ。最初は上部の気球用バーナーでソーセージをあぶって食べるなど余裕をみせていたが、やがて風に流されて空港の飛行管制エリアに進入してしまい、警察のヘリまで出動する騒ぎとなる。
なお、これらのいずれの放送も、YouTubeの『Top Gear』オフィシャルサイトで楽しむことができる。
オトナの国の、クルマとの付き合い
この『トップ・ギア』という番組は、コンピューターグラフィックスで何でもできる時代に、クルマという物理的手段を実際に改造し、動かしているところに価値がある。したがって、たとえかなりの部分に演出がうかがえても、前述のモンティ・パイソンの風刺に比肩する痛快さを見る者に与えてくれる。
同時に、彼らは高級車を平気で徹底的に改造し、結末をたびたびクルマの破壊で締めくくる。それらは、しょせんモノにすぎないクルマを、いまなお過度にあがめ奉っている日本では到底できない企画である。
“機械を機械と割り切れる”国民にしかできない遊びかただ。そうしたメンタリティの背景には、かつて産業革命を成し遂げ、第二次大戦直後には世界第2位の自動車生産国に躍り出ながらも、後年いわゆる「英国病」の影響で国際競争から脱落する、という紆余(うよ)曲折の工業史があるとみた。スタッフたちはまったく意識していないだろうが。
その傍らで、2003年放送の「不滅のハイラックス・チャレンジ」も印象的だった。トヨタ製ピックアップを、海水にさらす、家に突っ込ませる、放火するなど、徹底的に傷めつけた揚げ句、廃マンションとともに爆破するという企画だ。
ラストではがれきの中から拾い上げ、メカニックが企画のルールに従って、車両備え付け工具だけで“復活”を試みる。試行錯誤ののち、やがてエンジンが掛かり、マフラーから煙が上がる映像が流れると、そのシーンを追っていたスタジオ観覧者から大歓声が沸いた。
これもどこまで演出であるかを議論するのは、この際やめよう。それよりも、よみがえりをたたえるという、明らかにクルマを擬人化していることに注目したい。クルマへの愛を感じるのだ。
容赦なく改造し、傷めつけるいっぽうで、息を吹き返すの祝う。イギリス人とクルマの関係の奥深さは、「お笑い自動車バラエティー」にも垣間見ることができるのである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第949回:「戦場のスパゲッティ」は実在するのか? イタリア陸軍ショップで聞いた 2026.2.19 世界屈指の美食の国、イタリア。かの国の陸軍は、戦場でもスパゲッティを食べるのか? 30℃でも溶けにくいチョコレートに、イタリア伝統のコース構成にのっとったレーション(戦闘糧食)などなど、エゼルチト(イタリア陸軍)のミリメシ事情に大矢アキオが迫る。
-
第948回:変わる時代と変わらぬ風情 「レトロモビル2026」探訪記 2026.2.12 フランス・パリで開催されるヒストリックカーの祭典「レトロモビル」。客層も会場も、出展内容も変わりつつあるこのイベントで、それでも変わらぬ風情とはなにか? 長年にわたりレトロモビルに通い続ける、イタリア在住の大矢アキオがリポートする。
-
第947回:秒殺で当確? 新型「ルノー・クリオ」が販売店にやってきた! 2026.2.5 欧州で圧巻の人気を誇る「ルノー・クリオ(日本名:ルーテシア)」がついにフルモデルチェンジ! 待望の新型は市場でどう受け止められているのか? イタリア在住の大矢アキオが、地元のディーラーにやってきた一台をつぶさにチェック。その印象を語った。
-
第946回:欧州に「277万円以下」のクルマなし! キューバ化を覚悟した冬 2026.1.29 欧州でお値段1万5000ユーロ未満の大衆車が壊滅状態に! 自動車の価格高騰はなぜ起き、そしていつまで続くのか? 一般の自動車ユーザーは、この嵐をいかにしてやり過ごそうとしているのか? イタリア在住の大矢アキオがリポートする。
-
第945回:「時速286キロの香り」とは? 109回目のピッティ・イマージネ・ウオモから 2026.1.22 イタリア在住の大矢アキオが、フィレンツェで開催される紳士モード見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ」をリポート。アルファ・ロメオとの思い出を込めたという香水から、人と人とをつなぐ媒体、文化としての自動車に思いをはせた。
-
NEW
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2026.2.24試乗記ボルボの電気自動車「EX30クロスカントリー」に冬の新潟・妙高高原で試乗。アウトドアテイストが盛り込まれたエクステリアデザインとツインモーターからなる四輪駆動パワートレイン、そして引き上げられた車高が織りなす走りを報告する。 -
NEW
エンジニアが「車検・点検時に注意すべき」と思う点は?
2026.2.24あの多田哲哉のクルマQ&Aすっかりディーラー任せにしている車検・点検について、ユーザーが自ら意識し、注視しておくべきチェックポイントはあるだろうか? 長年トヨタで車両開発を取りまとめてきた多田哲哉さんに意見を聞いた。 -
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】
2026.2.23試乗記「BYDシーライオン6」は満タン・満充電からの航続可能距離が1200kmにも達するというプラグインハイブリッド車だ。そして国内に導入されるBYD車の例に漏れず、装備が山盛りでありながら圧倒的な安さを誇る。300km余りのドライブで燃費性能等をチェックした。 -
いつの間にやら多種多様! 「トヨタGRヤリス」のベストバイはどれだ?
2026.2.23デイリーコラム2020年のデビュー以来、改良が重ねられてきたトヨタの高性能ハッチバック「GRヤリス」。気がつけば、限定車を含めずいぶんと選択肢が増えている!? 現時点でのベストバイは一体どれなのか、工藤貴宏が指南する。 -
アルファ・ロメオ・トナーレ ハイブリッド インテンサ(FF/7AT)【試乗記】
2026.2.22試乗記2025年の大幅改良に、新バリエーション「インテンサ」の設定と、ここにきてさまざまな話題が飛び交っている「アルファ・ロメオ・トナーレ」。ブランドの中軸を担うコンパクトSUVの、今時点の実力とは? 定番の1.5リッターマイルドハイブリッド車で確かめた。 -
アルピーヌA110 R70(前編)
2026.2.22ミスター・スバル 辰己英治の目利き新生アルピーヌを9年にわたり支えてきたミドシップスポーツカー「A110」。そのスパルタン仕様である「R70」に、辰己英治氏が試乗。スバルやSTIでクルマを鍛えてきた彼の目に、間もなく終売となる希代のフレンチスポーツはどのように映るのだろう?
