アバルト695トリブートフェラーリ “トリブート アル ジャポーネ”(FF/5AT)【試乗記】
日本へ向けたトリビュート 2012.12.28 試乗記 アバルト695トリブートフェラーリ“トリブート アル ジャポーネ”(FF/5AT)……609万5000円
フェラーリの名を持つアバルトが再び上陸。「Tributo al Giappone(日本へささぐ)」というサブネームが示すように、今度は日本のみ50台の限定である。
前作“赤バージョン”の40万円高
「アバルト500」をさらにチューンした限定モデル「アバルト695トリブートフェラーリ」。1695台の生産台数のうち、日本には150台が割り当てられたが、またたく間に完売。そこで日本だけの追加モデルとして、ビアンコフジことパールホワイトにペイントされた「アバルト695トリブートフェラーリ“トリブート アル ジャポーネ”」が50台提供されたが、これも予約受付は終了している。でも、大丈夫。間もなく、ビアンコフジに続くキョートベルデがリリースされるはずだから……というのは冗談だが、いまひとつ元気がないクルマ業界にあって、ごく限られた台数とはいえ、エンスージアスティックなブランドが人気を博しているのは、楽しいことだ。
フェラーリにささげられたアバルト695は、ベースとなる1.4リッター直4ターボに手が入れられ、180ps/5500rpmの最高出力と、25.5kgm/3000rpmの最大トルクを絞り出す。1.4リッター自然吸気(NA)を積むノーマル「チンクエチェント」が100psと13.4kgmだから、8割増しのアウトプットということになる。しかも、「フィアット500」の日本市場でのラインナップは、現在、1.2リッターとツインエアだから、スーパーチンクエチェントたるアバルト695の速さは、いやでも目につくはずだ。
ちなみに、カタログモデルの「フィアット500アバルト」改め「アバルト500」は、同じ1.4リッターターボから、最高出力135psと最大トルク21.0kgmを得ており、また、昨2011年のボローニャショーで発表された「アバルト595」は、260psと23.5kgmというスペック。きっちりヒエラルキーが考慮されている。
日本限定版のトリブートフェラーリの価格は、先の赤バージョン569万5000円からやや上昇して、609万5000円となった。パールホワイトの特別色と、ホイールがマグネシウムグレーに塗られたお値段が40万円ということになる。まあ、ここは695万円にならなかったことに感謝するべきだろう!? 車両本体価格の一部は、東日本大震災への復旧支援に充てられるという。
カルロ・アバルトもおもしろがっている!?
アバルト695トリブートフェラーリ“トリブート アル ジャポーネ”。フジホワイトのボディーに、ブルーグレーのストライプが上品に入っている。一方、ただ者ならぬ雰囲気を醸し出すのが、ホイールハウスからはみ出さんばかりの足まわりだ。センターのサソリマークがうれしい17インチのグレーホイールには、205/40という薄いゴムが巻かれる。ドリルドベンチーレーテッドディスクを挟む赤いキャリパーは、ブレンボ製。フロントは4ポッドである。
リアゲートには「695」と「TRIBUTO Ferrari」のバッジ、ボディー側面にはTRIBUTO Ferrariの文字が入ったエンブレムが貼られる。いちクルマ好きとしては、「『アバルト695』だけじゃいけなかったんかい!」と思わないでもないが、オリジナルの「595/695」が活躍したのは50年ほど前のことだから、「さすがに神通力も薄れている」と判断されたのだろう。
念のため確認しておくと、オリジナル595は、1963年に登場した「フィアット500D」のエンジンを、499.5ccから595ccにスープアップしたモデル。当時の価格は59万5000リラ。695は、翌64年に発表されたさらなるハイチューン版で、排気量は660cc。レース用ともいえる「695SS」には、69万5000リラのプライスタグが付けられた(今回のトリブートフェラーリは、695と同じ位置、同じような意匠で、ボディー側面にエンブレムを配している)。
熱血クルマ好きのカルロ・アバルトは、また商売上手でもあった。アバルト創立まもないころ、当時のフィアット社長ビットリオ・バレッタから、「1レース勝つごとに100万リラの賞金を受け取る」約束を取り付けるやいなや、ヒルクライムやら草レースやら、ありとあらゆるレースにアバルト車を出場させてバレッタの口をあんぐりさせたエピソードは、あまりにも有名だ。
アバルト595/695を売り出す際にも、フィアット500Dを購入するユーザーの懐具合を考えて、コンプリートカーのみならず、エンジンの一部パーツの交換や、バッジチューンにも対応したコンバージョンキットを売り出している。今回の、少々ホコリをかぶったアバルトのエンブレムにフェラーリの名ではたきをかける作戦を、案外、草葉の陰でおもしろがっているかもしれない。
その名に恥じぬ俊足ぶり
カーボン調になったBピラーにニンマリしながら695トリブートフェラーリ“トリブート アル ジャポーネ”のドアを開けると、ヘッドレスト一体型のバケットシートがカーボン製だ。ステッチに合わせた、赤く大きな「ABARTH」の刺しゅうがうれし恥ずかしい。標準シートより10kg軽いというそれに座ると、ゴツいサイドサポートがお尻をギュッと挟んでくれる。座面の横には「Sabelt」のタグ。目の前のインストゥルメントパネルにもカーボン調の加飾が施され、メーターナセル内の計器類はイエーガー製! クルマ好きのハートを踊らせる記号がめじろ押しだ。エンジンをかければ、4本出しの排気管から野太い音が吐き出され、運転者の心の暖気はすっかり済んだ感じだ。
いざ走り始めると……アレッ!? 意外と普通かな。NAの、特に小排気量エンジンのチューンドモデルは、できるだけ高回転を維持させながら走るのがツラくも楽しい作業なのだが、ターボモデルのヌオーバ695は、少々ズボラな運転でも十分走る。ドライバーに「アバルト」を感じさせるのは、時に下から突き上げる、アシの硬さだ。
そこで、センターコンソールの「SPORT」ボタンを押してみると、ハーフスロットルでもトルクの付きが格段によくなるのがわかる。小さな白いクルマがグングン加速する。ハンドル奥のパドルを操作すれば、カタコン、カタコン、壮大な音を立てながらギアが瞬時に切り替えられ、21世紀の695がようやく「アバルト」を取り戻す。ターボモデル特有の、前方に吸い込まれるようなスムーズで急速な加速! 胸の奥で歓声をあげる。
それにしても、と思う。1.4リッターの大衆車を栄光のダブルネームとスポーティーな装備で飾って、2倍の価格を付け、それなりの説得力を持たせるイタリアンメーカーの企画力は大したものだ。拍手ぅ! ニッポンのトヨタだって、例えば「iQ」をレーシーに仕立てて、「トリビュート アストン・マーティン」といったモデル名を与えれば……ゲイドンのスポーツカーメーカーに怒られちゃいますね。
(文=青木禎之/写真=小林俊樹)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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