日産エクストレイル GT(4AT)【試乗記】
『X-TRAILのウソっぱち』 2001.02.23 試乗記 日産エクストレイルGT(4AT) ……316.6万円 新生日産の牽引役を果たす(2001年2月現在)小型SUV「X-TRAIL(エクストレイル)」。NAモデルから遅れること約3カ月、2001年2月6日に、280psの2リッターターボを積んだ「GT」がデビューした。神奈川県は御殿場付近で、webCG記者が試乗した。丈夫なエンジン
「羊の皮を被った」なんていわなくても、いまのセダンは、たいてい、速い。穀潰しのスポーツカーより、稼ぎになるクルマに開発費を投じるのが、資本主義社会における企業の使命であるから、当然である。冷え切ったスペシャルティカーではなく、上げ潮のSUV(Sports Utility Vehicle)に新型ハイパワーエンジンを与えるのは、だから市場経済の理にかなっている、てなことを考えながら、エクストレイルのターボモデルに乗り込んだ。
四角くルーミーな室内に、スポーティな3本スポークの小径ステアリングホイールが、なんだか妙だ。インストゥルメントパネルには、一転、ラグジュアリーな木目調パネルが細く横切り、革巻きのATシフターが「トップグレード」を主張する。車両価格は282.5万円。トヨタRAV4のハイエンドモデルより、まだ45.7万円高い。なにしろ、ニヒャクハチジュウバリキですから。
「260psあたりに壁があるんですよ」と、エンジン担当のエンジニアの方がおっしゃった。パーツの耐久性も、過給エンジンゆえの熱対策も、260psを超えると、とたんに厳しくなるという。
エクストレイルGTのエンジン(280ps/6400rpm、31.5kgm/3200rpm)は、吸気側のバルブタイミングだけでなく、リフト量をも変える「VVL(Variable Valve Lift&Timing)」機構を搭載する。ところが、ベースは、NA(自然吸気)モデルに使われる新型「QR」ユニットではなく、1989年にブルーバードに採用されて以来の「SR」ユニットである。
「やはり頑丈だからですか?」と聞くと、「まあ、モータースポーツも視野に入れたエンジンでしたから」との答。「そうでしょう、そうでしょう」と、私事でまことに恐縮ですが、先々代「イチサン」シルビアを4台乗り継いだリポーターは、ウレシくてしかたない。ちなみに、エクストレイルGTのピストン、コンロッドは、ともによりタフな専用品だ。
「ヘッドメカニズム、われわれは『クビウエ』と呼んでいますが、の自由度が高かったことも、SRを使った理由です」と、エンジニア氏が言葉を続ける。低速、高速用カムの切り替えは、5400rpmを境に、それまで空打ちしていた高速フォロワーを下からレバーが支えて固定して、実際にハイカムを作動させることで行う。軽量、確実な仕組みがジマンだ。
おもしろく残酷
鋳物のアルミペダルを踏んで走りはじめると、思わず足の力を抜くほど、エクストレイルターボは速い。ところどころ雪の残る路面だから油断できない。280psに達するはるか手前で、4段ATがシフトアップしていく。
エクストレイルGTは、国内初の、280psを発生する「2リッター+AT」車である。ターボユニットは、回転を上げてパワーを稼ごうとすると、中低回転域の出力が希薄になる。そこで、過給が不十分な回転域でのトルクを重視したカムを使うことで、ハイパワーエンジンの欠点を補った。オートマチックトランスミッションのクルマは、通常あまり回転を上げずに走るから、これでメデタシ、メデタシ……って、じゃあ、280psなんてイラナイじゃないかッ!!
「4人でワイワイ雪山に向かうときに、余裕をもって前行くクルマを抜くことができる」「高度が高い山、高原でも、ストレスのない走りが楽しめる」というのが、X-TRAIL GTの謳い文句である。
「視界のジャマになるから、敢えてボンネット上にバルジ(エアスクープ)を設けなかった」ため、ドライバーズシートからの見晴らしはいい。また、ボンネット両脇の膨らみゆえ、車両感覚を掴みやすい。エンジンルームに収められたインタークーラーは、スカイラインGT-Rに次ぐ、大きなモノだ。
SR20VETユニットは、トルキーだが「モワー」と回る。もともと過給されているためか、怯えるココロにむち打ってフルスケール回しても、カムが切り替わる瞬間に、たとえばホンダの「VTEC」のように、劇的に音質やフィールが変わる、ということはない。
オフロードは「ちょっと……」という硬めの足まわりは、ターマックの高速巡航で本領を発揮する。フラットで乗り心地はいい。中速コーナーで、しっかりしたステアリングフィール、適度なロールを確認した際、ふいに「雪山で余裕をもってというのは、ウソだな」と思った。
技術者の人たちは、真面目で理詰めだから、本当はもっとふさわしいボディに「280psVVL」を載せたかったんじゃないか。重く、大きく、重心の高いSUVを、「コンチクショー」と思いながら振りまわしてサスペンションをチューニングする、実験部隊の姿が目に浮かぶ。
SUV全盛のなか、差別化のために「スポーティ」をウリにするクルマが出る。それならばスポーツカーをつくればいいじゃないか、と素人は思うけれど、理屈通りにいかないのが、クルマという商品のおもしろく、残酷なところだ。エクストレルGTの、NAモデルより強化されたブレーキが、みごとに速度を殺した。
(webCGアオキ/写真=郡大二郎)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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