メルセデスベンツCLK240(5AT)【試乗記】
ベストのCクラスといえるが…… 2002.06.07 試乗記 メルセデスベンツCLK240(5AT) ……590.0万円 メルセデスベンツ「Cクラス」ベースの2ドアクーペ「CLK」。Bピラーのないスタイリッシュなデザイン、クルマとしてのできばえは、多方面から「絶賛」される。しかし、webCGエグゼクティブディレクターの大川悠は、「待った」をかける。なぜか?
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昔を思い出すと……
いろいろなメディアを見ると、メルセデスベンツの新型「CLK」、大分評判がいい。「Cクラスで最高のできばえ、なおかつスタイリッシュ」と、大抵は手放しで讃辞をおくる。別にリポーターはそれに反論はしないが、「でも待ってよ、CLKってそれでいいの?」といいたくなる。
誤解しないでいただきたい。2日間にわたって過ごしたCLK、とてもできのいいクルマだと思った。いや2日間など必要ない。会社の駐車場から首都高速入り口までの間で「これはいいクルマだ! すごく機械がきちんとしている」ということがわかった。
乗ったのは「240」と「320」の2種が用意されるCLKのなかでも、590.0万円と安価な方の240(320は720.0万円)。基本的にCクラスをベースとしたボディに、2.6リッターV6(170ps/5500rpm、24.5kgm/3000〜4500rpm)を載せる。
だが、ここに書いた「Cクラスをベースに」というのが論点。ピラーレスのハードトップルーフを持つ、上品で上質な「フル4シーター・クーペ」をメーカーは謳うが、「本当はメルセデスの中型パーソナルカーは、Eクラスがベースだったのじゃないの?」というのが、リポーターの思いなのである。
確かに先代からメルセデスの中型クーペはCLKの名前はともかく、実際はCを母体につくられている。しかし、それまではミディアム・サイズのEを元にしたCEだった。1990年12月の価格で、「300CE-24」は915.0万円。1990年と2002年を同じ天秤にかけることはできないが、上級グレードの320CLKと較べて、195.0万円の価格差がある。だから相応にもっとステイタスが高かったし、どことなく気品があったと思う。今より“格上のクルマ”という感じが何ともいえずによかった。
ありがたみの少ない室内
一度そう思ってしまうと、つまり昔のCEに対する思いこみからこのクルマに接してしまい、何となく物足りない。「195.0万円の価格差」といえばそれまでだが、品格がすこしだけ下がり、対象年齢も下がってきているように思う。単純にいえば、Cのスポーツクーペをちょっと長くしただけのクルマに見えてしまうのだ。
実際にこのクルマが発表された2002年のジュネーブショーでも、多くのジャーナリストは「優雅」と書いたが、リポーターは「中途半端にスポーティで、典雅さに欠ける」と思った。
まあ、嘆いても仕方がない。それはメーカーのマーケッティング戦略の変更なのである。CLKは実はかつてのCEとは基本的に違う、Cベースのパーソナルカーなのだ。いくらメーカーが反論しようと、そう解釈するしかないだろう。
ダークブルーのドアを開けた時目の前に広がるグレーの布張りからなる内装や、ダッシュボードはちょっと興ざめだった。メルセデス特有の、“ドイツ・バロック”と“バウハウス”をうまくバランスさせたようなゲルマンデザインは消え、中途半端に有機的なラインを使ったり、明るい色使いを試してみたりしたその内装は、「ありがたみ」を感じさせてくれなかったのだ。
ただし一度座るとシートのデキはいい。それに2座のリアシートも、まあ我慢できるスペースはある。加えて荷室は充分に広い。個人的に最近のメルセデス・スポーツ系フロントと、没個性的なリアの組み合わせは好きにならなかったが、実用的なクーペであるということには反論しない。
走ればベストのCクラス
走ると本当に惚れたくなるようないいクルマだった。V6は年々良くなってきているが、CLKのそれは、Cやスポーツクーペのものよりもさらに洗練されたように感じるし、かつては不満だった中低速域でのトルクは充分。これまたデビュー時にはスポーティさに欠けたと思えた高速域では、かなり気持ちよく吹ける。それに個人的に嫌う前後方向の「+ −」式ではなくて、横方向でアップ・ダウンを選べる5段のティップシフトが好ましい。
ピラーレスのトップにも関わらずボディは充分な剛性感を保ち、セダンよりほんの少しだけ堅めのサスペンションを、セダンよりずっときちんと受け止める。そのしっかりした乗り心地はホイールベースの短いスポーツクーペを思わせた。
ステアリングもブレーキも、昔のCE時代より確実に応答がよくて、基本的にスポーティになっている。はっきりいって、これはCクラスの仲間だと解釈すれば、ベストのCクラスといっていい。
つまり、良くできた機械の、本当に訴えたい感覚を、ストレートに味わえるのが最近のメルセデスの価値だというのなら、このCLKは見事その通りにできている。でも、降りてからクルマを振り返っても、やっぱり「上等なメルセデス」という、あの昔のイメージは見いだせなかった。
(文=大川悠/写真=清水健太/2002年5月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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