MINIクーパーS(6MT)【ブリーフテスト】
MINIクーパーS(6MT) 2002.06.06 試乗記 ……267.0万円 総合評価……★★★カフェクーパー
ビイィィィィン……とスーパーチャージャーの作動音を響かせながら、カーブの続く山道を行く。ツインパイプからの排気音も勇ましい。
MINIのホッテストモデル「クーパーS」は、ボンネットに設けられたエアインテイクや、ルーフエンドのスポイラーがいかにも小癪。ランフラットの17インチタイヤ(オプション)が四隅で踏んばる。スポーツシートに体を収め、マグネシウムグレイに塗られたメタル調パネルを前にイグニッションキーを捻れば、重めのクラッチペダルを踏む前から、車内にスペシャルなサウンドが充満する。
狭いエンジンベイに押し込められた1.6リッターシングルカムを、インタークーラーを傘にしたスーパーチャージャーが、低回転域からおっとり刀で加勢する。タイムラグなく力強い。ステアリングホイール向こうのタコメーターは6750rpmから先が赤く塗られるが、ペンタゴンユニットのハイエンドはちょっと苦しげだから、4000rpmを超えると「もうけっこう」と6スピードのギアレバーに手が伸びる。それでも、じゅうぶん、速い。
「まさにカートのフィーリング」とプレス資料で説明され、実際、その通り。ロック・トゥ・ロック=2.5回転のクイックなステアリングギアを駆使して、ロールを嫌う「スポーツサスペンションPLUS」にヒヤヒヤしながら、205/45R17のランフラットタイヤをビターッと路面に押し付けてコーナーを抜けていく。BMWのFR(後輪駆動)技術がふんだんに使われたのだろう、FF(前輪駆動)MINIの、駆動輪をもたないリアサスは常に余裕しゃくしゃく。スロットル操作によるパッシブステアを許さず、ドライバーが蛮勇をふるっても、クーパーSはただアンダー方向にスライドするだけ。「燃えないカート」……というフレーズが頭に浮かんで、反省した。トレンドセッターのオシャレなクルマに乗って、なんと無粋な感想か。
……南青山の昼下がり。うららかな陽の光が、クーパーSのレーシィなクローム仕上げのフューエルキャップに跳ね返る。服から靴から時計まで、隙なくステキにキメたオーナーが、ヘーゼルナッツフレイバー入りのカフェモカを片手に、Cafe前に停めたクーパーSをながめる。秘めたる高性能をひとり心のなかで愛でながら……ってか。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1997年、フランクフルトショーでニュー「MINI」(プロトタイプ)の写真が報道陣に公開され、3年後のパリサロンで正式にデビューした。新型の生産はBMWが行い、「MINI」はBMWの一ブランドとなった。2002年3月2日「ミニの日」から、日本への導入が開始された。
エンジンは、BMWとダイムラークライスラーとの合弁会社が生産する1.6リッター直4SOHC“ペンタゴン”ユニット。チューンによって、ベーシックグレードの「ワン」(90ps)、スポーティな「クーパー」(115ps)、そして同年5月にデリバリーが開始されたスーパーチャージドモデル「クーパーS」(163ps/2001年10月の第35回東京モーターショーでワールドデビュー)の3種類が用意される。トランスミッションは、ワンとクーパーには5段MTかCVT、クーパーSでは6段MTが組み合わされる。
(グレード概要)
「MINIクーパーS」に搭載される1.6リッター直4SOHC16バルブ・インタークーラー付きスーパーチャージャーは、163ps/6000rpmの最高出力と、21.4kmg/4000rpmの最大トルクを発生する。ボンネットのエアインテイク、ボディ同色の専用グリル、クロームメッキの大型フューエルキャップ、ツインテイルパイプがNAモデルとの識別点。リアスポイラーも標準で装備する。ホイールは16インチがスタンダード。足まわりは、最もハードな「スポーツサスペンションPLUS」が使われる。鈍く銀色に輝くパネルが使われる「マグネシウムグレイ・インテリアトリム」も、クーパーSだけの内装だ。MINIは「プレミアムコンパクト」の名にふさわしく、ワン、クーパーにも、ABSはもちろん、トラクションコントロール、前後ブレーキ圧配分を荷重状態に応じて常時調節する「EBD」、コーナリングブレーキコントロール「CBC」など高度な電子制御システムが備わる。さらに日本市場のクーパーSには、アンチスピンデバイス「DSC(ダイナミックスタビリティコントロール)」が標準で搭載される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
ジョン・クーパーを偲んで(?)ステアリングコラム上にタコメーターが設置され、センターコンソールにはオリジナルMINIに倣ってトグルスイッチが並ぶ。センターの大きなスピードメーターは真正面を向いているので、スポーツドライブにいそしみながらチラッと見るときなど、意外に速度を読みとりにくい。クーパーS専用のメタル調パネルは、短い線が随所に入る「ヘアライン仕上げ」が施される。一般的には“クール”と解釈されるが、口の悪い高橋カメラマンは、「誰かが(ドタ靴で)踏んだみたいだ」と感想を述べた。
(前席)……★★★
クーパーSではスタンダードのスポーツシート。レバー式のハイトコントロールが備わる。いわゆるバケットシートのようにガッチリ上体をホールドするのではなく、やんわりソフトに背中から乗員を抱きかかえる。テスト車はファブリックだったので問題なかったが、オプションのレザーシート(シートヒーター付き)を選ぶと、ちょっと滑るかも。細かいことだが、サイドシルにプレートが貼られ、ドア内側のオープナーがメッキ加工されるのも、クーパーSの特権だ。そのうえ、ドア内張の丸いリフレクターが「ホワイト」になっていることに気が付けば、アナタも立派なMINIフリークだ。
(後席)……★★
外観から想像されるより実用的なリアシート。やや低い座面、立ち気味のシートバック。ちゃんとシートベルトを締められ、ヘッドレストもしっかりしている。ただし座り心地は平板で、クッションもごく薄い。路面が悪いと、後席の乗員は突き上げに苦しめられる。ISOFIX対応チャイルドシート用のアンカーを備える。
(荷室)……★★
ボディサイズ相応のラゲッジスペース。床下には、過給システムにエンジンルームから追い出されたバッテリーが収まる。荷室容量は150リッター。リアシートは分割可倒式で、トランク側からもバックレスト裏のレバーをひくことで、簡単に倒すことができる。両方倒した場合の容量は670リッター。「これは、洗濯機やミネラルウォーター8箱分でさえ楽々と収納できるスペースです」(プレス資料)。ちなみに、クーパーSの最大積載量は430kg。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
ワン、クーパーと基本的に同じ1.6リッター直4に、ふたつの繭型ロータリーを用いたルーツ型スーパーチャージャーを装着する。増大する熱量に対応するため、クランクシャフト、コンロッド、ピストン、バルブなどは専用品だ。圧縮比は、10.6:1から8.6:1に下げられる。ドライブ・バイ・ワイヤを採用、スロットル操作に対する反応はいい。
トランスミッションはゲトラク製6段MTが組み合わされる。100km/hでのエンジン回転数は2500rpm付近だから、6thが特に高く設定されたわけではない。ロウをひっぱって2ndにシフト、さらにフルスケール回してサードにギアを変えると、タコメーターの針はいずれも最大トルク発生回転数4000rpmより右側の、4500rpmと5200rpmに落ちる。カタログ上の0-100km/h加速はわずか7.4秒。これは、2.8リッターを積むBMW・Z3に相当する(『Car Graphic』計測値)。クーパーSのスーパーチャージドエンジンは、文字通り雄叫びを上げて1180kgのボディを引っ張る。
3軸式の、ケーブルリンケージのギアボックスは、トラベル短く、フィールよく、そして各ギアは接近しているが、2000rpmで最大トルクの80%を発生するという、よくもわるくも実用的な速さを求めたエンジンゆえ、高回転域に設定された狭いピークパワー帯を刹那的につなげて加速していく……という緊張をはらんだ楽しみは得られない。クーパーSは、日常的に速いんです。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
NAクーパーではオプション設定となる「スポーツサスペンションPLUS」が、クーパーSでは標準設定となる。太くなったアンチロールバー、強化されたスプリングとダンパー。不快なハーシュはよく抑えられるが、硬い。テスト車は、ノーマルの「195/55R16」ではなく、オプション「205/45R17」を履いていた。姿勢変化少なく、タイヤのグリップ高く、かつどっしり落ち着いた足まわり。クイックなステアリングでミズスマシのように俊敏に“曲がり”をこなすが、しかしどこか“鈍”なハンドリング。FRプレミアムカーをつくるメーカーが、FFの“安っぽさ”を消そうとした執念か?
(写真=高橋信宏)
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【テストデータ】
報告者:webCG青木禎之
テスト日:2002年6月4日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2002年型
テスト車の走行距離:1200km
タイヤ:(前)205/45R17 84V/(後)同じ(いずれもPirelli euFori RunFlat)
オプション装備:17インチアルミホイール(7.0万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):山岳路(8)
テスト距離:−−km
使用燃料:−−リッター
参考燃費:−−リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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