ボルボC70カブリオレ(5AT)【海外試乗記】
『もっとスタイルを!』 2001.04.20 試乗記 ボルボC70カブリオレ(5AT)……495.0万円 “四角い”イメージからの脱却を図る北欧の自動車メーカー、ボルボ。スタイリッシュなサルーンS60に続いて、C70クーペのオープンモデル、C70カブリオレの日本導入が発表された。北の国からきたカブリオレやいかに?■期待のカブリオレ
どうも最近、ボルボは欲ばっている……といったら悪いから、かなりツッぱっている。「Volvo for Life」を謳い、フォードPAG(The Premier Automotive Groups)の一員として、「Safety for Life」が“ブランドDNA”である、と定義される北欧の自動車メーカー。生活に根ざした高品質で安全なクルマをつくり、何となくインテリぽくって環境熱心な真面目なヒトの足……、そういったイメージが根幹にある。
でも、つくる方だって、すこしは派手で人目につくクルマが欲しい。そんな思いを具現化したのが、最近出たS60である。V70のセダン版といえる流麗な4ドアモデルは、かなり意欲的な走りを見せてくれ、僕個人はとても高く評価している。
こんな路線の一弾として、1996年の秋に世界に送り出されたのが、C70なるスポーティ系ライン。饒舌なカーデザイナー、ピーター・ホルバリーがイギリスからボルボにやってきて以来の、いわばボルボにおける“ポストモダニズム”、あるいは新機能主義的デザイン路線のクルマである。
最初のクーペ、立派なリアシートを持ったC70は、いまとなっては一世代前のモデルとなったS70をベースとする。96年のパリサロンで格好だけ見た際には、かなり魅力的に思えたものだが、翌年アメリカで乗ったら、優雅なボディに似合わぬ、というかなんだかあまり世慣れていない純情な人が妙にツッぱってしまったような“ドッカン”トルク(?)のターボエンジンと、公道よりサーキットの方が似合うようなサスペンションセッティングが、外観とちぐはぐな印象だった。それに「クーペ冬の時代」に入ってしまって、日本市場では影が薄かった。
そんなC70のカブリオレモデルの販売が、2001年3月15日からわが国で始まった(すでにアメリカやヨーロッパでは発売されている)。
そんなボルボの意欲作に、アメリカで乗ってきた。
予想外に安い495.0万円
走ったのは、LAからサンフランシスコまで、と聞けば、クルマ好きなら誰でもカリフォルニア州道1号線だと思うだろう。ハイ!正解です。リポーターとしては10回ぐらいドライブしている道で、たしかに春たけなわのカリフォルニアをカブリオレで走るには最適だ。途中には、モントレーとカーメルを結ぶ「17マイルドライブ」という絶好のコースもあるしね。
で、クルマの印象を書くなら、4年ほど前に、サンタバーバラ周辺の山道で走ったクーペ版にかなり近い。単純にいうなら、格好は優雅で上品だけれど、いざ走ると「そんなにツッぱるなよ」といいたくなってしまうのだ。
まずは、好印象をもったスタイリングに関して。
クーペをベースにした……のではなく、クーペと同時に進行した、とホルバリーは主張する(それは本当だ。4年前にスウェーデン本社のスタジオで彼をインタビューしたとき、すでにカブリオレのスケッチは完成していたし、クーペの頃から特有の、ちょっと尻上がりのリアフェンダーは、幌を下げたときのトランクリッドの力感を強調したと言っていた)。そのカタチは、かなり彫刻的でエレガンスとダイナミズムをうまく両立させる。それでいてまごうかたなきボルボに見えるのがエライ。
ダッシュボードや室内の仕上げは丁寧で、色使いもセンスがあるし、メーターナセルの形状が乗用車的過ぎるのをのぞけば、よくできている。リアシートはかなり広い。ラゲッジルームは幌の収納のために薄いが、ゴルフバッグが完全に2つ、無理すれば3つは入りそう。
外装色や内装色、幌の色のバリエーションも多くて、説明会の時にカタログを見ているうちに495.0万円(C70クーペ2.4Tは500.0万円)と、予想以上に安い価格にもつられて、思わず一瞬「買ってもいいかな。色はダークグレーだろうな」などと夢想にふけってしまった。
トライアスロンの汗くささ
一方、「そんなにツッぱるなよ」の具体例はこうだ。
朝、LAを出てPCH(Pacific Coast Highway=州道1号線のこと)に乗ろうとした瞬間に、カタログを見ながら抱いた“熱”が、ちょっと醒めてしまった。
ステアリングやスロットルが重いのは、まあスポーティモデルだからいいとして、フロアから突き上げてくるタイアも重い。実はオプションの「245/45R17」なんていう、薄くて幅広いピレリのゴムを張り付けていたからだ。日本仕様は「225/50R16」になるというから、それでだいぶよくなると思う。
とはいえ、2日間、結局そのタイアにつき合わされたわけだから、印象的には損をしたと思う。ボディ剛性は高いのだが、やたらと前輪がステアリングフィールに干渉するし、乗り心地も堅すぎる。つまり優雅でも典雅でもなく、北欧のトライアスロンの選手みたいな汗くささがある。
初日は日本に入る193psのライトプレシャーターボ、翌日はハイプレッシャー版(240ps)に乗った。いずれも、重いというか、フリクションを感じさせるスロットルのため、すこしだけ加速が欲しいときに、ちょっと踏みすぎてしまう。そのうえ妙に過敏な5段ATが不要なシフトダウンをしてくれるから、やや品のない運転になりがちだ。同じエンジンをもったS60の気持ちのよさがない。高圧ターボの方は、トルクの絶対量のためか、よけいなシフトダウンをしないのがせめてもの救い。
ステアリングの重さも一種のフリクションで、曖昧な領域から急にレスポンスが出る。したがって、上品なコーナリングも難しい。
もっとスタイルを!
なんだかいろいろ難癖つけたけれど、本来はスジがいいクルマのはずだ。だから、あまりコテコテの足まわりのセッティングにしないで、S60ぐらいの乗用車ムードでまとめるなら、その魅力的な雰囲気にマッチした走りを演出できるはずだ。
けっこうアメリカには、ボルボでとがった走りを期待する客が多いというけれど、速いクルマやごついクルマはいくらでもある。カブリオレは、そもそもスタイル(広い意味での)で勝負するクルマだ。特に4座のオープンには、スノビッシュな味わいがある。そちらをもっと大切にすれば、瀟洒なインテリアも、高い実用性も活きてくるのになあと、サンフランシスコに向かいながら考えていた。
(文と写真=大川 悠/2001年4月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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