マクラーレンMP4-12C(MR/7AT)【海外試乗記】
生粋のハンドリングマシン 2012.03.26 試乗記 マクラーレンMP4-12C(MR/7AT)マクラーレン・オートモーティブの送り出すスポーツカー「MP4-12C」。イギリスで量産モデルのステアリングを握ったリポーターは、その乗り味に、マクラーレン独特の個性を感じたという。
タイトでありながら開放的なコクピット
2012年のF1開幕戦を制して勢いに乗るマクラーレンの、量産スポーツカー第1弾として世に出たのが、「MP4-12C」。生産拠点となるMPC(マクラーレン・プロダクション・センター)の本格稼働が始まったことで、今回はいよいよその量産モデルのステアリングを握ることができた。
全長4507mm×全幅1909mm×全高1199mmというMP4-12Cのスリーサイズは、最大のライバルである「フェラーリ458イタリア」に対して、全方位に数cmずつ小さい。実際、飛行場を使った特設コースに用意されていたMP4-12Cは、想像以上にコンパクトな印象であった。
「マクラーレンF1」ロードカーにも使われたディへドラルドアを開け、太いサイドシルをまたいで室内へと乗り込むと、こちらも空間はタイトだ。運動性能を重視して左右席間を狭めているからである。しかしながらダッシュボードは高さが抑えられており、視界は開放的。後方視界も決して悪くはなく、狭苦しい感じはない。
スタートボタンで背後に積まれたV型8気筒3.8リッターツインターボエンジンを目覚めさせると、低く厚みのあるサウンドが耳に届き始めた。爆音ではないが、太く響いてくる。そんな感じである。パドルを引いてSSGと呼ばれる7段デュアルクラッチギアボックスを1速に入れたら、いよいよスタートだ。
カーボンボディーの恩恵
おそらく多くの人がまず驚きの声をあげるのが乗り心地だろう。サスペンションのしなやかなストローク感はこの手のクルマとしては例外的なほどだし、何よりボディーがとんでもなくガッチリしている。それはそうだ。このMP4-12Cには「カーボンモノセル」と呼ばれるカーボン製のモノコックタブが使われているのだ。この剛性感、きっとほとんどの人にとっては今まで体験したことのないものに違いない。
サスペンションがよく動くのには、MP4-12Cが左右輪をつなぐアンチロールバーを備えず、代わりに4輪のダンパーを連関させたプロアクティブ・シャシー・コントロールを採用していることも貢献している。しかし、実はこのシステムにとっては乗り心地はいわば副産物。最大の狙いはコントローラブルなフットワークである。
コーナーに向けてステアリングを切り込むと、MP4-12Cはしなやかな、しかし軽微なロールを伴いながら車体をイン側に向けていく。この時の反応の良さ、一体感は垂涎(すいぜん)モノで、まるでアンダー1トンのライトウェイトスポーツを操っているかのような軽快さを示す。
何しろMP4-12Cのシャシーは、サスペンションやエンジンなどが組み付けられるアルミ製フレームをカーボンモノセルにリジッド結合した、極めて強靱(きょうじん)なもの。4輪すべての動きが手の内になるかのようなソリッドな挙動が、DINウェイトで1434kgの十分に軽いボディーを、さらに軽く感じさせるのだ。
F1譲りのエンジニアリング
動きはしなやかだが、姿勢変化は抑えられている。それは、まさに「プロアクティブ・シャシー・コントロール」の効果だ。特筆すべきは、内輪が縁石などを乗り越えた時にも挙動の乱れがほとんどないということ。左右輪が機械的には連結されていないため、衝撃が外輪に伝わらず、姿勢が変化しないのである。
立ち上がりのトラクションも素晴らしい。これは抜群の接地感の高さと、内輪にブレーキをかけてLSDと同様の効果を生むブレーキステアのおかげ。実はMP4-12C、このブレーキステアがあるので機械式LSDは備わらない。アンチロールバーといい、不要なものは徹底的に省くエンジニアリングは、まさにF1譲りと言えるだろう。
これほどのシャシーのおかげで、MP4-12Cは最高出力600ps、最大トルク61.2kgmを発生するエンジンを、ちゅうちょなく全開にすることができる。8500rpmのトップエンドに近づくにつれて猛烈な勢いで吹け上がっていくフィーリングは、良い意味でターボらしからぬもの。ピックアップも全域で非常に鋭く、ソリッドなシャシーと相まってスライドコントロールだって楽しめる。600psのミッドシップを、そんな風に操れるなんて、にわかには信じられないかもしれないが……。
ブレーキも強力。サーキットのような場面ではオプションのカーボンセラミックブレーキの方が安心感があるが、ノーマルでもそう簡単には音を上げたりしないだろう。何しろMP4-12Cには、急制動時にリアウイングが起き上がって4輪の接地性を確保する“エアブレーキ”も備わっているのだ。
エンジンを楽しむためにシャシーがあるのがフェラーリだとしたら、マクラーレンはとことん、そのハンドリングを堪能するためのスーパースポーツである。まさにF1での構図と一緒。間違いなくこのカテゴリーに、新しい、魅力的な選択肢が登場したのである。
(文=島下泰久/写真=マクラーレン・オートモーティブ)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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