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ランドローバー・レンジローバー オートバイオグラフィー(4WD/8AT)

さらにオーラをまとった 2013.05.01 試乗記 佐野 弘宗 「レンジローバー」の最上級グレード「オートバイオグラフィー」に試乗。このクルマがまとう“やんごとなき”オーラの秘密を探った。

機能や性能を超えたカリスマ性

新型「レンジローバー」(以下レンジ)の国内発売は2013年3月。ちなみに、これは業界内輪話だが、メディアやジャーナリストへの取材車の貸し出しは1月下旬からスタートした。というわけで、現時点で、レンジローバーの試乗経験ある10人強に話をきいてみると、「スゲー!」、「最高!!」、「傑作」、「トロけるような乗り味」などなど、同業者のほぼ全員がとにかく最大級の賛辞をならべる。

新型レンジの、いまどきのSUVとしては明らかに高いシートによじのぼって、見下ろすようなダッシュボードと低いウエストラインで、前方も肩まわりも開放的な運転席(=ランドローバーが言うところのコマンドポジション)に座る。そして、タイヤが転がりだした瞬間に、新型レンジを一度でも体験した人たちがほぼ例外なくベタボメする理由は、すぐに理解できる。外を見下ろす視界に加えて、木と革にハイテクが融合した調度品の数々、そして凄(すさ)まじく滑らかな乗り心地と静粛性。外界と隔絶された自分が「やんごとない」人間にでもなったか……と錯覚させるオーラが、いやおうなく押し寄せてくる。

今回の試乗車は新型レンジのなかでも、5リッターV8スーパーチャージドエンジンに、柔らかな「セミアニリンレザーシート」その他を装備した最上級の「オートバイオグラフィー」なるグレードである。本体価格は実に1670万円。そこに後席エンターテイメントやレザー天井ライナー、アダプティブクルーズコントロールに電子制御リアデフ……といった「らしい」オプションを加えると、すぐに1700万円~1800万円台に達するのだ。

この価格帯になると、「あのクルマより○cm大きくて△△ps高いから□□万円増し」だとか「あれとこれが装備されて××万円分のプラス」といった単純な足し算が、さすがに許される世界ではない。ブランド力は当然のこととして、そのうえで機能や性能を超えたカリスマ性がないと、商品として成立しない。

まあ、この高価格を納得できるかどうかは人それぞれだろう。しかし、世にある600~800万円級のSUV、あるいは価格的にレンジと競合する「ポルシェ・カイエン」やBMWの「X5」「X6」、「メルセデスベンツ・Gクラス」などと比較しても、新型レンジは「なるほど高いだけのことはある」と合点する。恥ずかしいほどベタな表現だが、それは「これが砂漠のロールス・ロイスかあ」と感銘を与えるだけのモノにはなっている。

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手作業で仕上げられたというレザーがおごられる室内。インテリアカラーは22種類から選択できる。
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新型「レンジローバー」はSUVとしては世界初となるオールアルミのモノコックボディーを採用する。
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伝統に織り交ぜられたハイテク

新型レンジの「砂漠のロールス……」なオーラその1は、内外装の圧倒的な質感である。新型レンジがボディーサイズを拡大しながら先代より数百kg単位で軽量化できた大きな理由のひとつが、オールアルミのモノコックボディーである。ただ、そうした機能的なメリットに加えて、その平滑度とパネル合わせ精度は見事というほかない。

アルミボディーは、現在ランドローバーと一体となっているジャガーが「XJ」で10年以上前から培ってきた技術であり、そのノウハウが存分に生かされているのは間違いない。新型レンジのフラッシュサーフェスデザインはそのボディー精度があればこそであり、長く絞り込んだテールも、まるで高級クルーザーのようである。

インテリアも素晴らしく高級な出来栄えだ。特に今回の最上級オートバイオグラフィーは、随所に木と革、毛足の長いカーペットが使われる一方で、そこに例のロータリー式ATセレクターをはじめとして、ハイテクの象徴であるアルミ素材(アルミ風樹脂も含む)をうまくアレンジしたセンスが見事だ。眼前の計器盤はフル液晶の「コンピューターグラフィック・メーター」となる。この種の液晶メーターは安っぽい印象になる危険性も高いが、天然素材と金属素材を絶妙に融合した新型レンジの場合は「なぜか似合っている」と思うのはただのヒイキ目だろうか。

いずれにしても、今回のオールアルミボディーや液晶メーターにかぎらず、ボディーへのアルミ使用、独立サスペンション、フルタイム4WD、ラダーフレーム廃止など、歴代レンジは新技術をもっとも積極的に採用してきたヨンクでもある。伝統のデザインにハイテクを織り交ぜるセンスは昔から巧妙なのだ。

新型レンジの「砂漠のロールス……」なオーラその2は静粛性。タイヤは40偏平の22インチという強烈なサイズだが、無粋な振動やロードノイズを見事に遮断している。また、空力も練り込まれているのだろう、耳障りなウインドノイズもほとんど感じない。

エンジンは新型レンジで唯一新味がない(?)5リッターV8エンジンだが、低回転からずぶといトルクを供出する大排気量機械過給エンジンに、細かく刻む8段ATの組み合わせが絶妙。高回転まで引っ張っても室内は十二分に静かだが、乗り手は最初から高い目線から「下々の生活は平穏ぞ?」などと勝手に高貴気分になっていることもあって、スロットルを必要以上に踏みたくはならない。結果として裏方のV8エンジンはゆるゆるとした低回転のまま、8段ATがけなげにバトンタッチすることでほとんどの事が足りてしまう。

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前席は20ウェイの電動調整シートを装備。シートヒーター/クーラーやマッサージ機能も備わる。
前席は20ウェイの電動調整シートを装備。シートヒーター/クーラーやマッサージ機能も備わる。 拡大
後席にも電動リクライニング機能が備わる。
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タイヤサイズは275/40R22。オプションで20インチと21インチも選択できる。
タイヤサイズは275/40R22。オプションで20インチと21インチも選択できる。 拡大

外界と隔絶した浮遊感

新型レンジでもうひとつ注目の新機軸に、アクティブスタビライザーがある。 電子制御でロールを抑制するアクティブスタビライザーは、コーナリングでも姿勢が崩れず、コーナー内輪のタイヤグリップも最大限に生かせるので、レンジのような背が高く重いクルマほど恩恵が大きい。ただし、そのぶん自然な荷重移動は抑制されることもあって、接地感は伝わりにくく、コンベンショナルな足まわりに慣れた体には、接地感が心もとない人工的なフィーリングになりやすいのが、この種のデバイスの欠点といえば欠点だ。

新型レンジのそれは、特に効きが強くハッキリとしたタイプと言っていい。同じく接地感の出しにくいエアサスと上屋が飛躍的に軽くなったアルミボディーの相乗効果もあって、その効能は走りだせばだれもが感じるほど強烈で、いかなる場面でもボディーは水平姿勢をガッチリと保つ。タイヤのせいもあるのか、ステアリングレスポンスも鋭く、普通のクルマから乗り換えると、切りはじめの動きは、最初はギョッとするほど敏感だ。

これがポルシェやBMWのスポーツカーやスポーツセダンなら「やりすぎ、熟成不足」と言いたくなるかもしれない。 しかし、レンジのようなクルマでは、これこそが新型レンジでの「やんごとなき浮遊感」の醸成にひと役もふた役も買っていることも事実。ポルシェ的な操縦性の良しあしではなく、こうした「外界・下界と隔絶した浮遊感」こそ、レンジ伝統の乗り味における最大のキモだからだ。

コーナーを攻めるような場合には心もとなくとも、アクティブスタビライザーが4輪のタイヤ能力を最大限まで引き出すことで、新型レンジの走行限界が大きく引き上げられているのは事実。新型レンジは軽くなったとはいっても絶対的にはヘビー級SUVであり、繊細な接地感覚より絶対的な限界性能を高めるほうが優先順位は高い。

何度も言うが、そういう人工的で隔絶された操縦感覚こそレンジの「味」である。最初は過敏に思えたステアリングも、ロールスやジャガーなどの英国高級車の流儀にのっとって、指先で軽くあしらうように操作するとドンピシャに扱いやすくなる。また、濃密な接地感はないが、車両感覚とタイヤ位置の把握しやすさはバツグンなので、このボディーが物理的に通れる場所や道路なら、自信をもってスイスイと入っていける。

一応はロールス・ロイスの名誉のために言っておくと、各部調度品の仕立てや全体から醸し出されるオーラの“やんごとなさ”は、レンジローバーよりさらに数段上をいく。ただ、ロールスのどのモデルにも到底不可能な世界屈指の悪路走破性を、これほどまでやんごとないオーラで実現した新型レンジは、なるほど「砂漠のロールス・ロイス」としか言いようがない。

最後に勝手な妄言をお許しいただけるなら、ロールス・ロイスが2000万円以下で買えるんだから、新型レンジは安いものである。

(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎)

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搭載されるエンジンはスーパーチャージャー付きの5リッターV8。510psと63.8kgmを発生する。
搭載されるエンジンはスーパーチャージャー付きの5リッターV8。510psと63.8kgmを発生する。 拡大
上下2分割式のテールゲートは、どちらも電動で開閉する。
上下2分割式のテールゲートは、どちらも電動で開閉する。 拡大
テスト車にはオプションのリアシート・エンターテイメント・システム(33万円)が装着されていた。写真のリモコンで操作が可能。
テスト車にはオプションのリアシート・エンターテイメント・システム(33万円)が装着されていた。写真のリモコンで操作が可能。 拡大
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テスト車のデータ

ランドローバー・レンジローバー オートバイオグラフィー

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5005×1985×1865mm
ホイールベース:2920mm
車重:2520kg
駆動方式:4WD
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブスーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:510ps(375kW)/6500rpm
最大トルク:63.8kgm(625Nm)/2500rpm
タイヤ:(前)275/40R22(後)275/40R22
燃費:5.3km/リッター(JC08モード)
価格:1670万円/テスト車=1798万5000円
オプション装備:車体色<コーズウェイ・グレイ>(15万9000円)/電子制御リアディファレンシャル(10万円)/レザー・ヘッドライニング(40万6000円)/アダプティブクルーズコントロール(29万円)/リアシート・エンターテイメント・システム(33万円)

テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(4)/山岳路(3)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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