第5回:あぁ奇才、GT-R水野よどこへゆく……
スクープ! 夢の“R35ノルドリンク”計画!?
2013.06.06
小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ
ますます元気な御年61歳!
「ったく今の自動車評論家は勉強不足! もうちょっと学ばないと、世の中リードしていけないでしょう。これからは俺もフリーになったし、どんどん言わせてもらいますから!!」
といきなり俺に説教をかます水野さん、相変わらず手が付けられないほどパワフルだったわ~(苦笑)。
そう、水野和敏さんとは、webCG読者ならよく知るであろう「ミスターGT-R」、あのマルチパフォーマンス・スーパーカー、「日産GT-R(R35)」を手掛けた奇才。当時、カルロス・ゴーンCEOから直々に任命され、日産独自の開発指揮システム、三権分立のCPS、CVE、PDを一人で兼任したいわば特例たるエンジニアだった。
で、その強烈キャラゆえ、去年60歳を迎えて定年退職しても嘱託として残り、その後も水野体制は続くとこちとら勝手ににらんでいたわけだけど、2013年3月に61歳で電撃退職!
理由はいろんな雑誌やサイトに載っているので見ていただくとして、不肖小沢としては一度会わずにはいられなかったし、3月末にお辞めになってから約2ヵ月。そろそろなんか見えてきたかな……と思ってメールしてみたら、
「じゃ、利男ちゃん(開発ドライバーの鈴木利男さん)の店に来てよ」と埼玉県入間市の「NordRing(ノルドリンク)」に行くことになったわけ。ノルドリンクとはご存じGT-R開発の聖地となったドイツ・ニュルブルクリンク北コースの別称だ。
退職はある意味、進化へのチャンスだった?
小沢:で、水野さん。今後一体どこ行くんですか? ウワサじゃ海外ってハナシも……。
水野:それ、あらゆる媒体から質問されてますけど、この4月、5月、6月は恩返しする時期だと思ってます。今まで僕が宣伝費ゼロでGT-Rをやってこれたのはコージさんのようなマスコミやお客さまのおかげだと思ってますし、今は本を書いていて、正直数社からお話がきてます。だからあと半年ぐらいは、そういう恩返しだけでほとんど終わっちゃうと思うのね。
小沢:ま、そうでしょうね。
水野:だからその約半年の間にその後再び物作りの世界に入っていくのか、それとも俺のこの41年間を、もっと別のカタチで人に返すような活動をした方がいいのかを判断しようと思ってます。
小沢:具体的にはなんですか?
水野:もちろん一つのクルマの開発もいいけど、小沢さんがさっき言ったよね、「GT-Rは俺の分身」だと。だったらもっとそういう分身を作れるエンジニアを育てた方がいいんじゃないかと。それができなかったら日本の自動車産業どうなっちゃうのよと。要するに「物作り」をするのか、「人作り」をするかの決心を今年の後半にしようと。
ちなみに物作りの場所に関しては、今や日本にこだわる理由はなにもない。GT-Rを作る上で中国だろうが韓国だろうがなんのハンディキャップもないですから。今まで僕は、世界のサプライヤーに、彼らが持っているポテンシャル以上のオーダーを出し、ビルシュタインが作れないダンパーを、アルコアが作れないアルミの鋳物を作ってきたわけだし、それが日本であろうがなかろうが全く問題がない。だからといって現時点でどこかに行くとは決めてませんけどね(笑)。
ポルシェにルーフがあるのなら、GT-Rにはノルドリンクがある!
小沢:正直、別のアジアの国に行ってほしいとはまるで思ってませんが、それより今後のR35GT-Rについてですけど……。
水野:それはもう僕に語る資格はないし、する気もないから。ただ、13年モデルまでは僕が作ったし、作ってきた責任もあるし、当然、今後も大事にしてきたい。だからこういうノルドリンクさんみたいな会社を通して部品を開発したり、いろんなものを企画していきたいと思ってるんです。そもそもこちらでしか作れないパーツがありますから。
小沢:そう、実はそこが一番聞きたかったんですけど、僕、別に「R36」は作れなくても、「R35.5」っていうか、水野さんと利男さんがいればそういう進化形は作れると思うんですよ。既にR35はかなり出回ってるし、まだまだやりきってない部分があるわけでしょう?
水野:なんだ、コージさん、なかなかいいところつくじゃない(笑)。だからそれは現実に作ろうと思ってますよ。R35.5なんかじゃなくて「N」をね。いわば「ノルドリンクR35GT-R バージョンN」を2人でやろうとしてる。具体的には今お乗りいただいているGT-Rの進化としてのオプションバージョンの発売を計画してます。13年モデル以前の35GT-Rを素材にして、実際に2人のコンビネーションで作る。今までは日産という枠があってなかなかできなかったけど、今はもう離れたから。
「ポルシェ911」にはよりスペシャルな「GT2」「GT3」があるし、「ルーフCTR」があるじゃないですか。俺も少なくとも水野和敏と鈴木利男を信頼して買っていただいたお客さまに、そういう技術で恩返ししたい、いやさせていただきたいとずっと考えてました。特にR35はマルチパフォーマンスを標榜(ひょうぼう)してて、真冬のアラスカから真夏のソルトレイクまで性能を保証しなければいけなかった。でも「N35」ならばそこを離れてもいいじゃないですか。
生みの親が自ら鍛える“意地のGT-R”に乞うご期待
小沢:これってもしかしてスクープ?
水野:そう、『GT-Rマガジン』にも言ってないマル秘ネタですよ(笑)。ただ、実際に出すのは来年以降になると思います。そんな簡単には作れないし、ちゃんと利男ちゃんと仙台ハイランドでテストしなきゃいけないし、どうせ「N」と付けるならば今まで以上のことをやりたいんで。
小沢:具体的にはどんなクルマにするんですか?
水野:それはもちろん内緒です(笑)。ただし、かなり他ではマネのできないものになることだけは期待しててください。
実はノーマルGT-Rのままで十分だと思っているヘタレ小沢からすると、過剰な話ではあるが、世の中GT-Rをさらに速くしたい、もっと走りを楽しく、別次元の高みにまで持っていきたいという人は世界中にごまんといる。それも特にリッチマンにだ。
しかもそこには当然、開発した本人、開発したドライバーでなければ出せない味というのが存在する。料理がそうであるように、作った人が一番そのモノの材料や調理法をよく知っており、別の味付けの可能性も知るからだ。
ただし、作った本人によるチューニングというのは普通あり得ず、これはある意味、水野さんが日産にいたままではずっと生まれ得なかった話でもある。
もちろん僕らがこれから生まれたかもしれない水野流のR36GT-Rを見られなくなったのは残念だし、乗れないのはもっと残念だ。だが、ある意味、心残り、やり残しがあるはずの手負いの奇才、水野和敏が手だれの相棒の鈴木利男と作る“意地のバージョンN"も楽しみではないですか。そこには単に「より速く、カッコ良くなっただけのR35」ではないなにかが眠っているかもしれないわけで……。
ってなわけで水野さんに鈴木さん、レーサーでも硬派な走り屋でもなんでもない小沢ですが、「N」の誕生、クビを長くして待ってますよ!
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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