ホンダ・フィット プロトタイプ(FF/CVT)/フィットハイブリッド プロトタイプ(FF/7AT)
帰ってきたホンダ 2013.07.19 試乗記 6年ぶりのフルモデルチェンジが間近に迫る、人気のコンパクトカー「ホンダ・フィット」。プロトタイプの試乗会で、その仕上がりを確かめた。大胆にイメージチェンジ
2013年9月にフルモデルチェンジが予定される「ホンダ・フィット」のプロトタイプ試乗会が催された。舞台となったのは、北海道上川郡鷹栖町に位置する同社のテストコース。
本年6月の販売台数を見ると、モデルチェンジを間近に控えながらフィットは1万台近くも売れている。だから次のフィットも、ユーザーから支持されている現行モデルを踏襲すると思っていた。しかし、予想は覆された。現行モデルのコンセプトを受け継いだ部分もあるけれど、次期型フィット(のプロトタイプ)は大胆に変わっていた。
まず現行型を踏襲している部分にふれると、それはパッケージングだ。現行型と同じく燃料タンクを車体中央に配置するセンタータンクレイアウトを採用し、扱いやすい5ナンバーサイズを維持しながら広い居住空間を確保している。身長180cm級が4人でドライブに出掛けても、足が組めるほど後席は広い。
ただし、この「広い室内」というコンセプトを包む洋服はかなり変わった。後で紹介するメカニズムが持つ新しさを、フロントマスクのモダンな意匠などで見た目でも表現している。
先代に感じた“背の高いミニミニバン”的な雰囲気もなくなった。後方に向けてなだらかに落ちる屋根のラインや、ボディーサイドを駆け上がる、鋭利なキャラクターラインの効果だろう。
不思議なのは、屋根が絞られているのに後席の頭上スペースには余裕があること。実用性を犠牲にせずに新しさを表現するあたり、いい仕事をしている。
実はエクステリアと同等か、それ以上にインテリアに新しさを感じた。日常的にスマートフォンやタブレット端末と接している人が「いいね!」と思うようなインターフェイスで、しかも操作した時の手触りが上質だ。残念ながら限られた試乗時間ゆえ、あちこちいじり回すことができなかったので、インテリアの評価はじっくり試乗する機会を待ちたい。
ということで、試乗を開始する。
燃費も走りも妥協なし
パワートレインは3種類をラインナップする。ベーシックグレードが100psの1.3リッター。圧縮比より膨張比を大きくすることで熱効率が高くなる、アトキンソンサイクルを採用している。
3つのパワートレインの真ん中の位置づけとなるのが、132psの1.5リッター直噴エンジン。このエンジンと、1.3リッターエンジンにはCVTまたはMTが組み合わされる。
目玉となるのが、ホンダがi-DCD(Intelligent Dual Clutch Drive)と呼ぶハイブリッドモデル。ホンダが昨年発表した3つの「SPORT HYBRID」のうちのひとつで、コンパクトカー向けの1モーターのタイプだ。アトキンソンサイクルの1.5リッターエンジンの出力が110ps、モーターと合わせたシステム出力が137psとなる。
トランスミッションに7段のデュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)を用いるなど、現行フィットのハイブリッドモデルや「インサイト」などに用いたIMAとはまったく異なるシステムである。社内の計測では、36.4km/リッターのJC08モード燃費を記録したという。
3種のグレードを乗り比べて、共通しているのは快適で引き締まった乗り心地。テストコースでの試乗といっても鏡のような路面ばかりではなく、ヨーロッパの郊外路をイメージした荒れた路面も走った。そんな路面をハイスピードで突破しても、4本のアシが柔軟に動いてショックを吸収、フラットな姿勢を保ってくれる。
現行モデルがソールの薄いスニーカーだとしたら、プロトタイプは衝撃を吸収してくれるハイテクなソールを備えたランニングシューズだ。
サスペンション形式はフロントがマクファーソン・ストラット、リアがトーションビームと現行モデルと変わらないけれど、根本から設計を見直したという。車体がひとつの塊となって不整路やコーナーをクリアする感触は、運転していて気分がいい。
1.3リッターでも、発進加速、そして高速巡航ぐらいのペースでの登りに力不足は感じない。1.5リッターの直噴モデルは、スポーティーと言ってもいいぐらいの小気味よさだ。
けれども、圧倒的に魅力的だったのがハイブリッドモデル。「SPORT HYBRID」という呼称に名前負けしない力強さとファン・トゥ・ドライブを備えていた。
乗って楽しいハイブリッド
このハイブリッドシステムで、燃費性能においても動力性能においても重要な役割を果たすのがDCT。現行型のIMAはエンジンとトランスミッション(CVT)の間に薄型モーターが挟まれるレイアウトで、エンジンとモーターはダイレクトにつながっていた。
シンプルかつコンパクトなシステムで、さまざまな車種に比較的容易に搭載できるという利点はあったものの、効率面では不利だった。エンジンとモーターが直結しているため、EV走行時や回生ブレーキが作動している時など、エンジンが仕事をしていない状態でも、エンジンの抵抗を引き受ける必要があったからだ。要はエンジンが“ヒモ”のような状態になっていた。
いっぽうi-DCDでは、2つのクラッチが巧妙に働いて、仕事をしていないエンジンをスパッと切り離す。バッテリーの残量などの状況にもよるけれど、発進時や中低速(30~60km/h程度)での巡航、減速時などはエンジンが切り離される。
油圧ブレーキの作動を電気的にコントロールすることで従来より8%効率よく回生エネルギーを得る電動サーボブレーキシステムや、容量が現行型の2倍になったリチウムイオン電池などの効果もあり、DCTと組み合わせた世界的にもユニークなハイブリッドシステムは36.4km/リッターという燃費を実現している。
アクセルペダルを踏んだり戻したりするのが楽しいのも、ドライバーの操作がクルマの動きにダイレクトに反映されるDCTのおかげだ。1.5リッターの直噴エンジン+CVTの組み合わせのモデルもレスポンスよく走ると感じたけれど、ハイブリッド+DCTのダイレクト感は格別だ。
加速するためにアクセルペダルを踏み込めば、瞬時に力を発生するモーターのアシストを受け、願った通りの加速が手に入る。ちなみにモーターの出力は、現行モデルの約2倍になっているという。早くこのシステムを積んだ「CR-Z」にも乗ってみたいと思わせるほどの、ファン・トゥ・ドライブを味わわせてくれる。
斬新なメカニズム、何者にも似ていないスタイリング、爽快なドライブフィール、そして広さや燃費で生活者の味方になってくれること。さまざまな面で、クルマ好きの心を熱くしていた頃のホンダが帰ってきた。
(文=サトータケシ/写真=本田技研工業)
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テスト車のデータ
ホンダ・フィット プロトタイプ
ボディーサイズ:--
ホイールベース:--
車重:--
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:100ps(74kW)/6000rpm
最大トルク:12.1kgm(119Nm)/5000rpm
タイヤ:--
燃費:--
価格:--
オプション装備:--
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--
テスト形態:テストコース
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--
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ホンダ・フィットRS プロトタイプ
ボディーサイズ:--
ホイールベース:--
車重:--
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:132ps(97kW)/6600rpm
最大トルク:15.8kgm(155Nm)/4600rpm
タイヤ:--
燃費:--
価格:--
オプション装備:--
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--
テスト形態:テストコース
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--
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ホンダ・フィットハイブリッド プロトタイプ
ボディーサイズ:--
ホイールベース:--
車重:--
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:110ps(81kW)/6000rpm
最大トルク:13.7kgm(134Nm)/5000rpm
モーター最高出力:--
モーター最大トルク:--
システム最高出力:137ps(101kW)
システム最大トルク:17.3kgm(170Nm)
タイヤ:--
燃費:--
価格:--
オプション装備:--
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--
テスト形態:テストコース
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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