ランドローバー・レンジローバー スポーツ V8スーパーチャージド(4WD/8AT)
二代目は万能選手 2013.08.25 試乗記 「レンジローバー」のオフロード性能はそのままに、オンロードの走行性能を大幅に高めた「レンジローバー スポーツ」が、さらに“ワイドレンジ”に進化した。その走りはいかに? イギリスからの第一報。「レンジローバー」と足並みをそろえる
「イヴォーク」の誕生、「レンジローバー」のフルモデルチェンジに続いて、「レンジローバー スポーツ」が生まれ変わった。
レンジローバー スポーツは、2004年に「レンジストーマー」という名前の大胆な2ドアコンセプトモデルとして世に問われた。2005年にレンジローバー スポーツとして市販が開始されてから、今までに世界中で45万台が販売された。
今回のフルモデルチェンジによって、イヴォーク、レンジローバー スポーツ(以下スポーツ)、レンジローバーという3モデルがそろい、レンジローバーブランドの、最新ラインナップの最後の1ピースがはめ込まれたことになる。
日本仕様は2013年11月の東京モーターショーで発表される予定だが、ひと足先にイングランド中部の町、チェルトナムで行われた国際メディア試乗会に参加してきた。
新型スポーツの特徴を順番に挙げていくと、まずはレンジローバーに準じるオールアルミニウム製シャシーがある。これによる軽量化はディーゼルエンジン搭載モデルでは最大で420kgにも上り、日本に導入される2モデル、すなわちガソリンのスーパーチャージド3リッターV6エンジン搭載モデルと5リッターV8モデルでは、それぞれ240kgと170kgになるもようだ。どちらにしても、相当に軽くなる。
また、新型スポーツはレンジローバーと並行して開発され、兄弟車としての共通点を持つ一方で、総部品点数の75%が新型スポーツ独自のものとなる。
とはいっても、モデルチェンジの方向性はレンジローバーに準じている。その代表格が、ランドローバー各車の4輪駆動システムの要となっている「テレインレスポンス」の、「テレインレスポンス2」への進化だろう。オンロードではほぼ、新たに設けられたAUTOモードで走る。このモードには、路面状況に合わせて自動的にトルク配分やシフトスケジュールを変更するプログラムが組み込まれている。その詳細は、昨年モロッコで行われたレンジローバーのメディア試乗会(こちらをクリック)の報告を参照してほしい。
悪路の走破性を磨く
新型スポーツの4輪駆動システムには、2種類のセンターデフが設定されている。過酷な悪路走行に必須のローレンジモード付き副変速機が付いた機械式センターデフと、副変速機が付かない代わりに18kg軽量なトルセンタイプのセンターデフだ。機械式センターデフは100%ロックが可能。これによって、どんな状況に陥っても前後輪にエンジントルクを確実に分配することができる。
センターデフが選べるクルマというのは珍しい。筆者はアメリカ車に詳しくないので断言はできないけれども、センターデフが選べる量産車というのは、もしかするとこれが初めての例ではないだろうか。
ちなみに、「ポルシェ・カイエン」は第1世代のモデルには副変速機付きの機械式センターデフが装着されていたが、第2世代となった現行モデルでは、マーケットでの需要があまりないと判断されたらしく、あっさりと捨てられてしまった。ただ、兄弟車である「フォルクスワーゲン・トゥアレグ」はその限りではなく、従来どおり副変速機付き機械式センターデフが装備されているから、このジャンルでの需要も多用化しているのだろう。
その新型スポーツの副変速機付きセンターデフには、注目すべき機能が盛り込まれている。これまでは、副変速機でハイレンジとローレンジを切り替える時には、クルマをいったん停車させてトランスミッションをニュートラルにする必要があった。しかし、新型スポーツでは「シフト・オン・ザ・ムーブ」なるシステムが採用され、60km/hまでならば停車することなく切り替えられるようになった。
ローレンジのギア比は2.93と低いから、悪路を出て良好な路面に出た途端に、その加速の鈍さとギアノイズのせいでハイレンジに戻す必要性を誰でも感じるだろうが、いちいち停車する必要がないので便利だろう。テレインレスポンス2でのAUTOモードの追加と併せ、ドライバーの負担を減らす自動化の流れだ。
他にも、新型スポーツの駆動系には新機軸がいくつか組み込まれていて、興味が尽きない。そのひとつがリアデフである。高出力エンジンを積むモデルには、トラクションやハンドリングの安定化を目的として「ダイナミック・アクティブ・リア・ロッキング・ディファレンシャル」が組み合わされている。これは、トルクベクタリングシステムと共同で働くよう、制御が最適化されている。
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“オフ”でもスポーツ
外観の第一印象は、先代よりも見た目がスポーティーになったということ。フロントとリアのウィンドウが寝かされたことによって、グリーンハウスが天地方向に“薄く”見える。そのイメージは、レンジローバーよりもむしろイヴォークに近い。ディメンションとしては、全長が62mm伸びて4850mmへ、ホイールベースも178mm伸びて2923mmとなった。スポーツでは先代同様に、オプション装備として3列目シートを選べる。
ボディーサイズをレンジローバーと比較すると、全長が149mm短く、全高が55mm低い。フロントウィンドウの傾斜角度を強めたことで、空力特性は8%向上し、Cd値は0.34(3リッターV6ディーゼル搭載車の場合。ガソリンエンジン搭載車は0.37)へと低められた。
5リッターV8スーパーチャージドモデルで走りだして最初に感銘を受けたのは、軽量化による加速の鋭さと、滑らかな乗り心地だった。昨年、モデルチェンジしたレンジローバーに試乗した時と共通するものを感じた。
スポーツは8段ATを標準で装備しているが、その賢さにも舌を巻いた。チェルトナム郊外の丘陵地帯では、さまざまな大きさのカーブとアップダウンが続く。新型スポーツの8段ATは、時にはドライバーのパドルによるマニュアルシフトを先読みするように、賢くシフトアップとダウンを繰り返した。道路状況とドライビングスタイルに合わせて、キメ細かく変速していく様子が印象的だった。
続いて、イーストナーキャッスルにあるオフロード走行体験場「ランドローバー・エクスペリエンス・イーストナー」では、さまざまな悪路を試すことができた。
新型スポーツは踏み固められた未舗装路での安定感が抜群で、“スポーツ”の名に恥じない。大型SUVはオーバースピード気味でコーナーに進入すると4本のタイヤが大きく滑り出して手に負えなくなることがある。しかし、新型スポーツでは、そんなことは皆無だった。
また、最低地上高を上げなければ走破できないような深いわだちの泥道でもスタックすることがなかったのは、レンジローバーと変わらない。それどころか、新型ではエアサスペンションによる高さ調整に、新たにプラス35mmの中間ポジションも設けられ、オフロード走行モードが80km/h(これまでは50km/h)まで使えるように改められた。わだちが続く道でも、かなりスピードを上げられるようになった。
「レンジローバー」とはここが違う
さらに渡河水深限界値は、700mmから850mmへ150mmも高められた。もっとも、レンジローバーは900mmだから、上には上がある。傾斜角45度という急斜面を、ヒルディセントコントロールを効かせて難なく降りていくこともできたし、改造されたジャンボジェット機に登って降りるという人工的なアトラクションも見事にこなした。
レンジローバーと同様に、アルミモノコックボディーによる軽量化は、オンロードと同等以上にオフロードでも効果を発揮していた。このクルマやレンジローバーで走破できない道を探すのは簡単ではないだろう。魔法のじゅうたんのような、万能の走破性能を持っている。
それだけ素晴らしい新型スポーツだが、では、レンジローバーとはどこが違うのだろうか。
まず、ボディーサイズが短く低いこと。そして3列目シートが選べること。もっとも、ボディーがここまで大きければ、その差などわずかなものである。さらに、渡河水深限界値が50mm浅いことも、極限状況では大きな違いとなるだろう。しかし、それを試せる人が果たしてどれだけ存在するのか。
オフロードの走破性については、正直に言って、その違いに言及するのは難しい。それほど新型スポーツのレベルは高い。それに対して、オンロードではさすがに新型スポーツの方が、その名の通りにスポーティーである。レンジローバーも相当なものだが……。
その違いを体感するためには、最終的には2台の日本仕様を直接に乗り比べるしかないだろう。新型スポーツはそれだけレンジローバーに肉薄しつつ、独自のスポーティーテイストを持っていた。
新型スポーツでは、ディーゼルエンジンと組み合わされた初のハイブリッドモデルが、2014年度中にデリバリー開始されることがすでに発表されている。いずれにせよ、今年秋の東京モーターショーで日本仕様が発表され、日本で実車に乗れる日が待ち遠しい。
(文=金子浩久/写真=ジャガー・ランドローバー)
テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー スポーツ V8スーパーチャージド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4850×1983×1780mm
ホイールベース:2923mm
車重:2310kg
駆動方式:4WD
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:510ps(375kW)/6000-6500rpm
最大トルク:63.7kgm(625Nm)/2500-5500rpm
タイヤ:(前)275/45R21/(後)275/45R21
燃費:--km/リッター
価格:--万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
※数値は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

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