最終戦ブラジルGP「盟友との別れ、一時代の終焉」【F1 2013 続報】
2013.11.25 自動車ニュース ![]() |
【F1 2013 続報】最終戦ブラジルGP「盟友との別れ、一時代の終焉」
2013年11月24日、ブラジルのアウトドローモ・ホセ・カルロス・パーチェで行われたF1世界選手権第19戦ブラジルGP。最終戦は一見すると、終始単調なレース展開のようであったが、9連勝を達成したセバスチャン・ベッテル、このレースを最後にF1を引退するマーク・ウェバー、そして2人の好敵手だったフェルナンド・アロンソによる、密度の濃い戦いとなった。
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■9連勝か、10勝目か
全19戦が組まれた2013年のF1シーズンは、ブラジルのサンパウロでフィナーレを迎えた。このレースを最後にGPを去るマーク・ウェバーにとっては、12年にもおよんだF1ドライバーとしてのキャリアを締めくくる大切な1戦である。
デビューは2002年。地元オーストラリアでの開幕戦で非力なミナルディのマシンを駆り、いきなり5位入賞を果たしたウェバー。その後ジャガー(レッドブルの前身)、ウィリアムズと渡り歩くもマシンには恵まれず、新天地として2007年に選んだのが新興チームのレッドブルだった。マシンの競争力と信頼性が上がるといよいよ才能を開花させ、2009年ドイツGPで念願の初優勝。その後の5年間で9勝、13ポールポジションを記録してきた。
2010年にはシーズン中盤までチャンピオンシップをリードするも、後半に調子を崩しタイトルを逃した。レッドブルという近年最強のマシンに乗りながらランキング最高位は3位(2010、2011年)。速く、そして強かったが、同時にあと一歩が及ばない、惜しいドライバーだった。
2009、2011年と優勝している験(げん)のいいブラジルで、通算10回目の勝利をつかみ有終の美を飾りたいところだが、彼の目前には越えるには高過ぎる山がそびえていた。他の誰でもない、5年間チームメイトであり、そして最大のライバルであったセバスチャン・ベッテルである。
前戦アメリカGPでミハエル・シューマッハーの持つ年間最多連勝記録「7」を破り8連勝を達成したベッテル。既に第16戦インドGPで4連覇を達成しているワールドチャンピオンは、当然のことながら9連勝、年間最多13勝タイを目指していた。
ベッテルとウェバーによる因縁の対決は最後まで続く。レッドブルのボス、クリスチャン・ホーナーは、両者に自由なレースをやらせると明言し2人をコースへと送り出した。
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■雨もなんのその、ベッテルが今年9回目のポールポジション
標高800メートルと高地にあるサンパウロに雨は付き物。今回もサーキットは金曜日、土曜日と雨に見舞われ、予選も雨脚の強弱が目まぐるしく変わる、忙しい空模様の中行われた。
雨が激しさを増し、予選Q3は約45分も遅れた。10分間のセッションの冒頭は各車フルウエットタイヤで周回したが、終了間際に状況が好転したとみたロータスのロメ・グロジャンが浅溝インターミディエイトに履き替えトップタイムを更新。続いてインターを装着したウェバーがそれを上回り、すぐさまベッテルが最速タイムをたたき出した。結局チャンピオンを破るものは現れず、ベッテルが今季9回目、通算45回目のポールポジションを決めた。
予選2位はニコ・ロズベルグ、3位はフェルナンド・アロンソと、コンストラクターズチャンピオンシップで2位を争うメルセデスとフェラーリが続き、ウェバーは4位から最後のレースをスタートすることになった。
チームメイトから約0.5秒遅れたルイス・ハミルトンのメルセデスは5番手。さらに、シーズン後半で目覚ましい活躍を見せているグロジャンが6位、来季レッドブルに移籍するトロロッソのダニエル・リチャルド7位、その僚友ジャン=エリック・ベルニュ8位、このレースでフェラーリを去るフェリッペ・マッサ9位と続き、10番手にはまだ来年のシートを確定させていないザウバーのニコ・ヒュルケンベルグが入った。
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■ベッテル、ウェバーのレッドブル1-2
金・土と全セッションが雨だったが、日曜日の決勝前には曇り空の下、乾いた路面が広がり、しかもレース中に雨の予報というトリッキーなコンディション。各陣営、ドライでのデータがまったくないなかで準備に追われた。
スタートでこそわずかな動きがあったものの、71周レースの大半はベッテルが得意の逃げ切りでリードを広げ、その後方でウェバーとアロンソが2位を争う展開に。時折、局所的に雨が降るも雨用タイヤの出番とまではいかず、一見すると単調なレース展開のようではあったが、トップ3人がおのおののパフォーマンスを目いっぱい出し切っての完成度の高い走りを披露、最終戦にふさわしい、密度の濃い内容だった。
メルセデスの2台が抜群のスタートで、ロズベルグが2位から1位、ハミルトンは5位から3位へとジャンプアップ。しかし2周目に入った途端ロズベルグはベッテルに首位を奪われ、ハミルトンも同様に後退していった。
ベッテルは15周までに10秒のクッションを築きレースをコントロール。一方その後ろでは、4周目にアロンソがオーバーステアに悩むロズベルグを抜き2位、ウェバーは7周目にメルセデスをオーバーテイクし3位に上昇。この時点でトップ3の役者が出そろい、ウェバーがアロンソを料理する13周目には、レッドブルの1-2フォーメーションが出来上がった。
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■表彰台、盟友との別れ
チャンピオンチームとてトラブルフリーだったわけではない。24周目、2回のうちの最初のピットストップを行ったウェバーはタイヤ交換に若干手間取りアロンソに再び先行を許してしまう。しかし、ラストランに燃えるオージーがフェラーリを抜き返すのには2周もあれば十分だった。
また47周目には、やはりピットインでちょっとしたハプニングが起きた。4位走行中のハミルトンとバルテリ・ボッタスが接触、ボッタスのウイリアムズが派手にコース外にはじき出されると、レッドブルはセーフティーカーの可能性を考え、急きょトップのベッテルを2回目のタイヤ交換に招き入れた。
しかしセーフティーカーは導入されず、ピットでは当初予定されていたウェバーのタイヤを準備した状態だったため時間がかかってしまい、おまけに12秒後方を走っていた2位ウェバーも、同じ周にピットへ飛び込んだことでベッテルの作業を待つはめに。これでベッテルの貯金は半分の6秒、ウェバーは、やはりタイヤ交換を行ったアロンソに対し1秒差まで詰め寄られてしまった。
先頭集団ににわかに緊張が走ったが、ベッテル、ウェバーともにアロンソの前でコースに復帰し、ベッテルはゴールまで10秒のアドバンテージを再構築。2位ウェバーもアロンソを8.4秒突き放し、チェッカードフラッグが振られた。
ゴール後のパレードラップ、ベッテルはすっかりおなじみとなったドーナツターンで前人未到の9連勝、そしてパーフェクトといっていい1年を終えた喜びを表した。
ウェバーは走行中にヘルメットを脱ぎ、マシンのごう音と観客の声援をじかに受け止めながら、F1ドライバーとしてのキャリアに終止符を打った。10勝目はならなかったが、彼が望んだようにトップドライバーとしてF1を退くことができた。
そして2人の好敵手であったアロンソが、9月のシンガポールGP以来となるポディウムにのぼり、盟友との別れを惜しみながら新たな門出を祝った。
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■自然吸気エンジンの終焉、新たな歴史の幕開け
今年最後のチェッカードフラッグが振られ、すべてのマシンのエンジンが切られた瞬間、2006年に始まった現行2.4リッターV8、そして1989年から続いた自然吸気エンジンの時代が終焉(しゅうえん)を迎えた。
2014年からは1.6リッターV6というコンパクトなパワーユニットにターボが復活。さらにKERSを進化させ、ブレーキング時に加え熱からもエネルギーを回生する「ERS(Energy Recovery System)」が採用されるなど、まったく新しいフォーミュラ(規定)でのレースとなる。
2014年3月13日に始まるオーストラリアGPから、また新たな歴史がスタートする。
(文=bg)